「OTT」の本来の定義とは、「動画配信に特化した新サービス」でも「CTV番組をスマートデバイスで観ること」でもない。インターネットによる動画配信の普及に伴い、関連用語を耳にする機会も増えているが、間違って使われることも多いようだ。今回はOTTを軸に関連する用語を整理したい。

広告メディアとして注目を集めるOTT

コロナ禍を受けて利用が急伸したものの一つに、インターネットを介した動画配信サービスがある。放送時間が決まっているテレビ番組や、貸出、返却という手間があるレンタルビデオと違い、時間や場所を問わずに視聴可能な動画配信サービスは、一度その便利さを知ると後戻りできない魅力を備えている。また、インターネットに接続するテレビが増えていることを受けて、OTT(Over the Top)と呼ばれる動画配信サービスが広告メディアとしても大きな注目を集めている。

OTTとは、インターネットを介したコンテンツやサービスの総称のこと。具体的には、動画配信や音楽ストリーミング、オンラインゲーム、動画/音声通話に加え、SNSやLINEなどのメッセージツールまで含めることが一般的だ。提供事業者はOTTプレーヤーと呼ばれるが、そこにインフラストラクチャーを担うISP(インターネット・サービス・プロパイダ)や通信事業者は含まれない点には注意が必要だ。Over the Topという名称は「雲の上」を意味する航空用語からとられたとされる。クラウドインフラの最上層のサービスを切り取る用語として、OTTはまさに的を射た言葉だ。

なおOTTの台頭を受け、アメリカではケーブルテレビ事業者が通信インフラと抱き合わせで提供してきたテレビ契約が解除される傾向が目立ち始めている。このように通信事業者の役割が「データを通すだけ」になることを土管(Dumb Pipe)になぞらえ「ダムパイプ化」と呼ぶ。

インターネットで提供されるコンテンツやサービスの総称であるOTTの中軸を担っているのは動画配信サービスである。アメリカでは、Netflix、Amazon Prime Video、Huluを3大OTTプレーヤーと位置付けることが一般的だ。スポーツ特化型のDAZNや動画共有サービスのYouTubeがそれに続く。ならば動画配信・共有を目的とするサイトは全てOTTと呼べるかというと決してそうではなく、ユーザー生成コンテンツが広く流通するインターネットの世界において、OTTはそれらとテレビ番組や映画、スポーツ中継などのプレミアムコンテンツを区別する用語としても機能している。

OTTの利用端末として挙げられるのは、PC、スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイス、そしてインターネット接続されたテレビの3種類。CTV(Connected TV)は、ネットワーク接続機能が内蔵されたテレビやセットトップボックス、USBメモリー型のスティックによってインターネットに接続したテレビ型デバイスを総称する用語になる。セットトップボックスはApple TVやXbox、スティックはRoku、Amazon Fire TV Stickが有名だ。

OTTの動画配信ビジネスモデル

一方、VOD(Video on Demand)は、インターネットを介し、視聴者が見たいときに見たい動画コンテンツを配信するサービスの総称。つまりOTTによる動画配信サービスがVODと言うことができる。OTTの動画配信ビジネスモデルは、以下の3種類に分けられる。

SVOD(定額制動画配信サービス)…Sはサブスクリプションのこと。毎月定額料金を支払うことで全てのコンテンツが楽しめる。

AVOD(広告型動画配信サービス)…Aはアドバタイジング=広告のこと。動画の前や途中に広告動画を挟むことでサービスを提供する。

PPV(都度課金制動画配信サービス)…「ペイ・パー・ビュー」の略。コンテンツ単位で課金してサービスを提供する。

OTTによる動画配信サービスの伸長は目覚ましい。例えば、Netflixは2019年に153億ドル(1兆6,634億円)、2020年に173億ドル(1兆8,811億円)をコンテンツ制作に費やしたといわれる。国内の放送局中、最も潤沢な予算を誇るとされるNHKの2019年度の番組制作費が3,495億円だったことと比べてもその規模がうかがえる。

OTTの急速な伸長は、既存メディアや通信事業者のOTT参入という動きにもつながっている。また冒頭でも触れた通り、企業の出稿メディア見直しの動きも顕著だ。新たなリーチ手段としてだけでなく、年齢・性別などの属性に応じた配信やインパクトの定量的計測を可能にするOTTは、マーケティングにおいても今後大きな役割を果たすと期待されている。