2021年末にネットに登場したのが凍結屋と呼ばれる、SNSを舞台にした新たな犯罪行為だ。誹謗中傷やデマの流布などの巨大化したSNSの課題に、ツイッターはアカウント凍結という手段で対抗してきた。凍結屋は、独自アルゴリズムで行われる凍結プロセスの裏をかくことで無実のアカウントを凍結させ、身代金を要求する。

凍結屋とは

ツイッターアカウント凍結が話題になることも多い。その代表がトランプ氏のアカウント永久凍結である。連邦議会襲撃という前代未聞の事件にSNSが果した役割を考えれば当然の判断という意見の一方で、巨大SNSプラットフォーマーによる事実上の検閲と見る向きもアメリカには多い。バイデン政権はSNSを巡るルールの見直しを表明しているが、言論の自由という伝統的価値観と、ネット上の誹謗中傷やデマ情報の流布の抑止の両立は一筋縄ではいかないようだ。

アカウントが凍結されるのはもちろん政治家だけではない。一般人であってもある日突然、アカウントにログインできなくなり、「このアカウントはロックされています」「このアカウントは凍結されています」というメッセージが表示されることは実はそう珍しいことではない。

ツイッターの場合、アカウントが凍結されると新たな投稿ができなくなるだけでなく、ほかのユーザーが検索してもツイートを見ることができず、フォロー/フォロワー共にゼロにリセットされてしまう。外部からはアカウントの存在自体が消えてしまうため、何千、何万というフォロワーを擁する人気アカウントでなくてもその影響は大きい。

アカウント凍結理由としてツイッターは大きく三つの理由を挙げる。一つは同一内容のツイート、ダイレクトメッセージを大量に送信するスパム行為。次がアカウントの乗っ取りやハッキングが疑われる場合。最後が攻撃的なツイートや他人への脅迫があったケース。そのほか、偽ブランド品の販売や犯罪の教唆などが認められた際も当然凍結の対象になる。

とはいえ、その運用には課題も多い。ツイッターに1日1回以上アクセスするユーザーは世界で2億1100万人(2021年3Q)。スパムや乗っ取りであればアカウントのふるまいで一定精度以上の抽出が可能かもしれないが、ツイート内容まで踏み込んだチェックは困難であることは間違いない。実際にAIの誤検知などの理由によるアカウント凍結トラブルも少なくないようだ。こうした技術面の課題は皮肉なことに、ユーザーセキュリティ確保を目的とした取り組みが新たな犯罪を生むことにもつながっている。それが凍結屋だ。

その存在は昨年の早い段階で確認されていたというが、被害が急速に広がったの2021年末のこと。まずは被害者の証言に基づき、アカウントを人質に身代金を請求するその手口を具体的に見ていこう。

凍結の手口と解除方法

トラブルは、ある日突然ツイッターにアカウント凍結のメッセージが表示されることからはじまる。凍結理由は、スパム行為や偽造ブランド品の販売が挙げられていることが多いようだ。その直後に、リプライやダイレクトメッセージで届くのが「お金を払えば凍結が解除される」という凍結屋からのメッセージだ。相場は1万5000円前後で支払はQRコード決済の受け取りリンクやビットコインなど足がつきにくい決済手段が指定される。なお、メッセージはカタコトの日本語であることが多いようだが、それが海外に拠点を持つことを意味するかどうかは不明だ。身代金はフォロワー数を問わず同一で、数千、数万以上のフォロワーを持つ人気アカウントにとっては割安のようにも思えるが、支払ったからといって凍結が解除される保証はどこにもない点には注意が必要だ。

では凍結屋はどのようにアカウントを凍結に追い込むのか。どうやら一定のフォロワーを擁し、ある程度信頼のおける複数アカウントから同時に違反報告を行うというのがその手口になるようだ。以前からツイッターアカウントの乗っ取りは数多く報告されて来たが、その一部は凍結屋の稼業にも利用されていると見てよさそうだ。その手間を考えると、利益が出るのか疑問に思うが、身代金を払うという最悪の選択をするユーザーが実は少なくないことを示しているのかもしれない。

凍結屋の被害は、企業アカウントにも及んでいると見られるが、すでに触れた通り、要求に応じることは禁物だ。身代金を支払ったからといって凍結が解除される保証はなく、弱みを見せることで要求がさらにエスカレートすることも十分に考えられるからだ。身に覚えがない凍結理由であれば、ブラウザ上のフォーマットに従い異議申し立てを行なえば、多少時間は掛るものの凍結は解除される。万が一、凍結屋の被害にあった場合は慌てることなく、正規の手続きを通して解除することがなにより大切になることは間違いない。