近年のハードウェア業界はAI、中でも生成AIが急速に発展をみせ、毎年「変革」の時期と言われ続けている。特に半導体メーカーのNVIDIAは、昨年、時価総額世界一位となったことも記憶に新しく、現在、AIハードウェア市場では圧倒的な存在として位置している。そこで、今後のハードウェア業界の展望はどうなるのだろうか。

ここ数年はGPUの需要が急増

IT業界は昔からドッグイヤーなどと呼ばれ、進化が早い業界とされてきたが、ここ数年のAIの進化は、まさに日進月歩である。OpenAIが2022年11月に公開したChatGPTは、さまざまな質問に対して自然な回答を返すことができることで大きな話題となり、GoogleやMetaなどのビッグテックによるLLM(大規模言語モデル)開発競争が激化した。LLMは、パラメータ数、データセット、計算リソースを一定のルールに従って同時に増やすことで、性能が向上し続けるということが経験から導き出されたのだ(これをスケーリング則と呼ぶ)。LLMの性能を向上させるためには、非常に大きな計算リソースが必要になる。例えば、発表当時のChatGPTのベースになっていたGPT-3.5は3,550億パラメータだが、その後継のGPT-4では、パラメータ数が1.8兆程度まで増えている。こうした大規模な学習を行うためには、通常のPCのCPUでは全く力不足であり、高性能GPUが多数必要になる。GPUは、本来は3Dグラフィックス処理を行うためのチップとして開発されたものだが、3Dグラフィックス性能を上げるために数千~数万のコアを搭載したGPUは、似た演算を多数繰り返すAI処理にも適しているため、ここ数年GPUの需要が急増し、GPUの奪い合いともいえる状況が生じている。

NVIDIAは、GPUメーカーとして長い歴史を持つ会社だが、AI分野でのGPUの需要が増えることを早い段階で予測し、2007年からAI向けに特化したGPUを市場に投入している。GPTシリーズを開発しているOpenAIでは、2024年にNVIDIAのAI向けGPU「H100」を約50万個調達したとされているが、H100は1個あたり500万円程度で販売されているため、その合計金額は2兆5000億円にもなる。利益率の高いAI向けGPUの需要増によって、NVIDIAの業績は右肩上がりで向上しており、2024年6月にNVIDIAの時価総額は3兆3000億ドルを突破し、マイクロソフト社を抜いて世界一位となった。

2025年はシンギュラリティーが起こる可能性が高い

NVIDIAやインテル、AMD以外にもAI処理に特化したチップを開発・製造している企業はいくつもある。例えば、GoogleはAI専用チップ「Cloud TPU(Tensor Processing Unit)」を開発し、自社クラウドで利用している。このGoogle Cloud TPU は、カスタム設計された AI アクセラレータで、大規模な AI モデルのトレーニングと推論向けに最適化されている。ユースケースとしては、ChatBot、コード生成、メディア コンテンツ生成、合成音声、ビジョン サービス、レコメンデーション エンジン、パーソナライズ モデルなど、さまざま用途に使える。

Amazon Web Service(AWS)は、学習用の「Trainium(トレイニウム)」と推論用の「Inferentia(インファレンシア)」を開発し、自社クラウドで利用している。アマゾンは、大規模言語モデル「Claude(クロード)」開発元のアンスロピック(Anthropic)に40億ドルの追加出資を発表。アンスロピックとの協業により、InferentiaおよびTrainium搭載インスタンス用ソフトウェア開発キット「Neuron(ニューロン)」の開発に携わることが発表されている。

また、ソフトバンクは2024年5月に自社が所有しているARMにAIチップ事業部を設置し、その開発力を高めるために2024年7月、英国のAI専用チップの開発メーカーGraphcoreを買収した。Graphcoreは社名を維持し、ソフトバンクグループの完全子会社となる。早ければ2025年後半にもAIチップの量産を開始する予定だ。

他にも、AI専用チップの開発を行っているベンチャーは数多く存在しており、実際にチップの製造を開始しているところもある。AIチップの性能が優れていることは絶対条件だが、そのうえで、開発環境が充実しているNVIDIA一強体制を崩すのは容易なことではない。

大手クラウドプロバイダーやインテルやAMDをはじめとする半導体メーカーの各社は、近年人工知能(AI)関連処理用チップの自社開発に投資を続けてきた。そこにDeep Seekショックが巻き起こったことで、AIの覇権を争う趨勢は混沌としている。2025年、人工知能が自己フィードバックによる改良を繰り返すことによって、人間を上回る知性が誕生するシンギュラリティー(技術的特異点)が起こる可能性が高いとされている。そして、それを生み出すのはどこなのか興味はつきない。