センサーカメラをはじめとするセンシング技術を利用した無人決済店舗が登場して間もなく10年が過ぎる。海外では苦戦が伝えられる中、日本では人手不足を追い風に確実に定着しつつある。
AMAZON GOとこれまでのウォークスルー決済の違い
無人決済店舗のパイオニアの一つが2016年12月にアマゾンがシアトルの新本社内にオープンした無人店舗、AMAZON GOであることは間違いない。来店客の生体情報を認識し行動を追尾するセンサーカメラや什器に組み込まれた重量センサーといったセンシング技術を用いるAMAZON GOが注目された理由の一つに、商品を手に店外へ出た時点で自動的に決済が完了するウォークスルー決済がある。
原則として利用者は事前にスマートフォンに専用アプリをインストールし、クレジット決済情報を入力する必要がある。入店ゲートでアプリが表示するQRコードをかざし、買い物を開始するわけだが、店内では各種センサーが利用者の行動を追尾し、自動決済を行う。もちろん、無人決済の仕組み自体は決して目新しいものではない。都市化が進む郊外でよく見かける、農家の軒先の農作物直販所はその一例だ。さらに言えば、一昔前の街道沿いにあった自販機が並ぶ24時間営業のスナックコーナーは、自販機大国日本が世界に誇る無人決済店舗と言うこともできるだろう。
これらの先行例との最大の違いは、AMAZON GOが多様な商品に対応できる点にある。什器サイズの制約こそあるものの、売上や施策に応じ、自由に商品を入れ替えることも可能だ。簡単に言えば、AMAZON GOのテクノロジーを採用することで、あらゆる小売店舗がオペレーションの大きな変更なく無人化できてしまうのだ。
またAMAZON GO1号店とほぼ同時期に、中国ではBingo Boxと名付けられたコンテナ型の無人店舗が登場している。キーテクノロジーとして採用されたのがRFIDで、利用者はAMAZON GO同様、専用アプリにクレジット情報を入力し、出口ゲートでRFIDを読み取ることで自動決済が行われる。一時は数百店舗を展開したBingo Boxだが、定着には至らなかった。その理由の一つとしてRFID貼付コストを指摘する声も多い。
国内では無人決済店舗が独自進化を遂げつつある
実はAMAZON GOも普及は進んでいない。こちらは高価なセンシングデバイス導入コストが普及の障害になっている模様で、AMAZON GOはセンサー類を簡素化し、RFIDで決済を行う新型店をオープンさせるなど迷走が続いている。こうした中、日本では急速に進む小売店の人手不足問題の解決策として無人決済店舗が独自進化を遂げつつある。
その一つが2020年の高輪ゲートウェイ駅店開店を皮切りに、全国100店舗以上が既に導入するTOUCH TO GOである。レジ待ちのない店舗システム開発を目的に2007年に設立されたサインポストとJR東日本スタートアップが共同開発し、普及にファミリーマート、東芝テックが参画するTOUCH TO GOの特徴の一つとして挙げられるのはセルフレジ決済の採用だ。アプリインストールという前提条件は、店舗を閉鎖的なものにすることが避けられないが、セルフレジ導入はこうした問題を解決することが可能だ。またクレジット決済だけでなく、現金決済や二次元コード決済など多様な決済方法が選べることもその強みである。センシング技術により決済時のバーコード読み取りが不要になることもあり、TOUCH TO GOは、山間僻地を中心に広がる買い物難民という社会課題の解決にも大きな役割を果たすことが期待されている。
AMAZON GOと同じくウォークスルー決済を採用したのが、海外スタートアップのCloudpickとNTTデータが共同開発したデジタル店舗運営サービスCatch&Goである。専用アプリをインストールし、決済方法を登録することで自動決済を行う仕組みはAMAZON GOと同じだが、クレジットカードに加えPayPayアカウントによる決済にも対応する。
ダイエーと協力して2021年から実店舗の運用を開始したCatch&Goの一番の強みは、商品を手に取ってゲートを通過するだけで決済が完了してしまう点だ。ドリンクや軽食をレジ待ち行列なしに買える強みは、通勤・通学中の買い物などに大きな効果を発揮することが期待される。2025年7月には、Catch&Goを採用したドンキホーテの新業態、キャンパスドンキが大阪電気通信大学にオープンしている。
小売店舗数が飽和状態にある日本だが、その一方では、山間僻地以外でも市街地から離れた物流拠点で働く人など、実は買い物難民は少なくない。無人決済店舗はこうしたニーズに応えるだけでなく、古着屋や書店など、趣向性が高い店舗の24時間365日営業など新たなニーズ開拓も期待できる。世界に類のない自販機文化を育んだ日本の治安は、無人決済店舗の普及にも大きな役割を果たすことになるかもしれない。