Intelが22年ぶりに単体GPUを発表

2020年10月31日、IntelはノートPC向け単体GPU「Iris Xe Max」を発表した。GPUとは、Graphics Processing Unitの略で、3D描画などの画像処理を担当するチップである。最近のPC向けCPUのほとんどが、CPUとGPUを統合しているため、別途GPUを搭載しなくても、画像を出力できる。しかしCPUに統合されているGPUと、NVIDIAやAMDから発売されている単体GPUでは、処理能力が格段に異なる。いわゆるOfficeアプリを使う程度なら、CPU内蔵GPUでも性能的には十分だが、3Dグラフィックスを多用する3D CADやVR、3Dゲームなどを動かすには厳しいことが多い。

また最近は、GPUの高い演算性能を3D描画以外に活用するGPGPUが一般的になり、動画のエンコードや画像処理、AI、仮想通貨のマイニング、シミュレーションなど、数多くの演算が必要な処理をCPUに代わってGPUが行うことで、処理を高速化できるようになっている。そのため、GPUの性能への要求は年々高まっているのだ。

Iris Xe Maxは、Intelの単体GPUとしては、実に22年ぶりとなる製品(1998年に「Intel 740」がリリースされた)であるが、そのベースとなっているのが開発コードネーム「Tiger Lake」と呼ばれていた第11世代Core iプロセッサーに統合されているGPU「Iris Xe」である。Tiger Lakeでは前世代のIce Lakeと比べて、さまざまな点が強化されているが、中でも内蔵GPUの性能は最大2倍と大きく向上している。Iris Xeは、CPUのラインナップに応じて、実行ユニット(EU)が96基のものと80基のものがあり(48基のものもあるが、それはIris Xeとは呼ばれずIntel UHDと呼ばれる)、動作クロックは最大1.35GHzであるが、Iris Xe Maxでは、実行ユニットが96基で、動作クロックが最大1.65GHzとなり、専用グラフィックスメモリを4GB搭載するため、Iris Xeよりもパフォーマンスは高い。

用途に応じた4シリーズをリリース予定

Iris XeとIris Xe Maxは、ともに開発コードネーム「Xe-LP」と呼ばれる製品である。Xeとは、Intelの新GPUアーキテクチャのブランドネームであり、ハイパフォーマンスPC向けからモバイル向けまで、それぞれの用途に応じた製品がリリースされる予定だ。ハイパフォーマンスPC向けの「Xe-HPC」、データセンター向けの「Xe-HP」、高性能ゲーミングPC向けの「Xe-HPG」、そしてエントリーゲーミングPC向けの「Xe-LP」の4シリーズが存在することが明らかにされている。

Xeシリーズ
用途に応じた4シリーズをリリース予定

現在のIris Xe Maxは、単体GPUではあるが、デスクトップPCで使われているグラフィックスボードとしては製品化されず、あくまでノートPCのマザーボードに実装されるチップとして提供されている。それに対し、上位となるXe-HPGはグラフィックスボードとして製品化される予定であり、レイトレーシングのハードウェアアクセラレーション機能も搭載される。現在のIris XeおよびIris Xe Maxの性能はNVIDIAやAMDからリリースされているゲーミングPC向け単体GPUのエントリークラス程度の性能であり、フルHD解像度で3Dゲームをプレイするにはそれほど不満がないレベルである。Xe-HPGは2021年中にリリースされる予定であり、他社のゲーミングPC向け単体GPUのミドルレンジからハイエンドに匹敵する性能になると予想される。

Xe-LPとXe-HPGが、3Dゲームを主なターゲットとしているのに対し、Xe-HPCとXe-HPは、科学技術計算や動画のトランスコード、AIなどを主なターゲットにした製品であり、スケーラビリティを重視して設計されていることが特徴だ。メモリーも、Xe-HPGではグラフィックスメモリとして一般的に使われているGDDR6が採用されるが、Xe-HPCとXe-HPでは、より帯域の広いHBMが採用される。また、Xe-HPCでは、複数のダイを3Dスタッキングする技術「Co-EMIB」が採用される予定で、Xe-HPでは、Kaby Lake-Gなどで使われている2.5Dパッケージング技術「EMIB」が採用される予定だ。Xe-HPは、すでにサンプルが完成し、一部の顧客がテスト中であり、2021年中に正式リリースされる予定だ。