設計者のリモートワークを実現

働き方改革の推進というかけ声は、数年前から盛んに聞かれるようになったが、実際にはあまり普及が進んでいなかった。しかし、2020年4月、新型コロナウイルス対策のために通勤者を7割減らすという目標が政府から出されたことで、リモートワークにシフトする企業が一気に増えた。そこで注目が集まっている技術が、「CAD on VDI」と「vGPU」である。VDIとはVirtual Desktop Infrastructureの略で、仮想デスクトップインフラなどに訳される。その名のとおり、デスクトップ環境を仮想化してサーバー上に集約し、利用者はクライアント端末から、ネットワーク経由でサーバー上の仮想マシンに接続して、デスクトップ画面を呼び出して操作するというものだ。VDIの利点としては、OSやソフトウェアをサーバーで集中管理できるため、ソフトウェアの追加や更新などのメンテナンスが楽になることや、物理的なコンピューターとデスクトップ環境が切り離されているため、どの端末からでも自分用の環境を呼び出して使える。つまり、リモートワークが容易に実現できる、といったことが挙げられる。

VDI自体は比較的昔からある技術で、大企業を中心に採用が進んでいる。しかし、一般的なVDIでは、Office系アプリやWebブラウザを動かすくらいなら、それほど違和感なく利用できるが、単体GPUを搭載していないサーバーで3D CADを動かし、ネットワーク経由で利用しようとしても動作が重くてまともには使えない。営業や経理などの仕事は、従来のVDIで十分にリモートワークをはじめとする場所に縛られない働き方を実現できるが、3D CADを使って設計を行う技術者には、その恩恵を享受することができなかった。

大企業を中心にCAD on VDIの導入が進む

しかし、2013年頃からVDI上でCADを動作させる「CAD on VDI」と呼ばれる技術が登場。CAD on VDIを導入することで、設計者もリモートワークが可能になり、設計者の数だけ物理的なワークステーションとCADライセンスを用意する必要がなくなるため、コストも大きく低減できる。当初のCAD on VDIは、それぞれのVDIにつきサーバー側の1つのGPUをひも付けるパススルー方式が採用されていたが、パススルー方式ではGPUリソースを効率的に利用できない(GPUリソースに余剰ができる)という問題があった。その問題を解決したのが、「vGPU」である。vGPUはvirtual GPUの略で、仮想GPUと訳される。GPU自体を仮想化し、1つのGPUを分割して複数のVDIから利用できる技術である。vGPUの登場によって、CAD on VDIのコストパフォーマンスが大きく向上し、本格的に利用されるようになったのだ。NVIDIAは「NVIDIA vGPU」、AMDは「AMD MxGPU」と名付けたvGPUソリューションを提供している。現在ではvGPUの適用範囲もさらに広がり、CAD on VDIだけでなく、深層学習のトレーニングやシミュレーションなどにもvGPUを活用することが増えている。

CAD on VDIのイメージ図
CAD on VDIのイメージ図

日立建機やトヨタ自動車をはじめ、大企業を中心にCAD on VDIの導入が進んでおり、物理的なワークステーションの台数削減によるコスト低減だけでなく、設計者のワークライフバランスの改善や仕事に対するモチベーション向上というメリットも得られている。製品の開発ステージに応じて、必要な設計者の数が増減することもよくあるが、CAD on VDIなら、そうしたCAD利用者数の増減にも柔軟に対処が可能であり、中小企業にとっても導入メリットは大きい。新型コロナがまだまだ猛威をふるっていることもあり、今後もCAD on VDIを導入する企業が増えることが予想されている。