スマートフォンでも5G SAが普及

通称5Gと呼ばれる第5世代移動通信システムは、「高速・大容量」「低遅延」「多接続」という3つの利点がある。しかし、5Gならすべてこの3つの利点を享受できるというわけではない。5Gは、そのネットワーク構成によって「NSA」(Non Stand Alone)と「SA」(Stand Alone)に大別できる。NSAは、ネットワークコアが4Gで、データ通信のみ5G基地局を使い、制御信号は4G基地局を使う方式、SAはネットワークコアが5Gになり、データ通信も制御信号も5G基地局を使う方式だ。当然、NSAよりもSAのほうが性能が高く、NSAでは5Gの3つの利点のうち「高速・大容量」しか実現できない。5G SAサービスこそが、”真の”5Gと呼べるのだ。

日本では、2020年3月から5G商用サービスが開始されたが、当初はすべてNSAのみであった。日本で5G SAの先陣を切ったのはソフトバンクであり、2021年10月に5G SAサービスを開始した。しかし、SAを利用するにはSAに対応した端末が必要になる。ソフトバンクの場合、SAサービスの開始当初は、「Airターミナル5」という据え置き端末でしかSAに対応していなかった。2021年12月にはNTTドコモも5G SAサービスを開始したが、こちらは法人限定のサービスで、やはり対応端末はデータ通信端末のみという限定的なものであった。KDDIも、2022年2月から法人向けに5G SAサービスを開始し、「Abema TV」の生配信などに使われている。

ソフトバンクは2022年3月、同社が販売しているスマートフォン「AQUOS wish」向けに5G SA対応eSIMの提供を開始、ほぼ同時にスマートフォン「Xperia 5 Ⅲ」への5G SA対応アップデートの配布を開始し、ようやくスマートフォンでも5G SAを利用できるようになった。さらに、ソフトバンクは2022年7月に5G SA対応スマートフォンの新機種「AQUOS R7」と「Xperia 10 Ⅳ」を発売。また、2022年10月には「Xperia 1 Ⅳ」を5G SA対応にするアップデートが公開されるなど、5G SA対応スマートフォンが揃いつつある。ソフトバンクの場合、5G SA対応エリアは非常に限定的であり、埼玉県さいたま市中央区上落合一丁目に限られているが、下り最大3.7Gbps、上り最大444Mbpsと、従来の5G NSAの下り最大3.0Gbps、上り最大298Mbpsよりも速度が向上している。

5G SA対応スマートフォン「AQUOS R7」

キラーアプリケーションの登場が望まれる

NTTドコモは前述したように、当初5G SAサービスを法人向けにしか提供していなかったが、2022年8月から、一般ユーザー向けにも5G SAサービスの提供を開始した。2022年10月時点でのNTTドコモの5G SA対応スマートフォンは、「AQUOS R7」「Galaxy S22」「Galaxy S22 Ultra」「Xperia 1 Ⅳ」の4機種である。NTTドコモの5G SAサービスは、下り最大4.9Gbps、上り最大1.1Gbpsと高速だが(5G NSAでは下り最大4.2Gbps、上り最大480Mbps)、やはり現時点での5G SA対応エリアは限定的で、主要ターミナル駅の周辺やイベント会場とその周辺、大規模商業施設とその周辺のみとなっている。同社は2023年3月末までに、全国47都道府県への展開を目指すとしているが、現時点ではまだ5G SA対応端末を持っていても、5G SAサービスを実用的に使えるとは言いがたい。また、5G SAが必要なキラーアプリケーション不在という問題もある。5G NSAでも4Gに比べれば十分高速であり、動画配信などでは特に5G SAを必要としないのだ。5G SAのメリットである低遅延や多接続を活かせる新たなキラーアプリケーションの登場が望まれる。

ソフトバンクとNTTドコモが、一般ユーザーがスマートフォンでも利用できる5G SAサービスを開始したことにより、5G展開の第2章が始まったともいえる。しかし、5G SAの恩恵を多くのユーザーが享受できるようになるには、まだ2,3年はかかりそうだ。