全固体LIB電池の利点

SDGs(Sustainable Development Goals)への意識の高まりにより、カーボンニュートラルを目指す動きが広まっている。その代表が自動車業界である。多くの自動車メーカーが、ガソリン車からEV(電気自動車)へのシフトを開始しており、例えば、トヨタは2030年までにEV30車種、年間350万台の販売を目指すとしている。

EVの性能や信頼性を左右するEVの要とも言うべき重要なパーツがバッテリーである。現在、EVのバッテリーとしては主にリチウムイオン二次電池(LIB)が使われている。LIBは、ほかの二次電池(充電して繰り返し使える電池)に比べて、1セルあたりの電圧が高く、エネルギー密度も高い、充放電を繰り返しても劣化しにくいといった長所があり、EVだけでなくノートPCやスマートフォンなど、さまざまな製品で使われている。

LIBに限らず、一般に電池は、正極と負極の二つの電極と、その間を満たす電解質から構成されている。通常のLIBでは、電解質は液体であり、電解液と呼ばれる。LIBの電解液は可燃性がある有機化合物を使っているため、電池の温度が上昇すると、最悪の場合発火して燃えてしまう可能性がある。また、LIBの電解液は温度変化に弱く、低温では充放電性能が低下する。冬の屋外などでスマートフォンを使っていると、通常よりも電池の減りが激しいことに気付くことがあるが、これも電解液が低温になり、性能が低下したためだ。

また、液体の電解液は液漏れする可能性もある。そこで、ノートPCやスマートフォンなどでは、リチウムポリマー電池と呼ばれるタイプの電池が使われていることが多い。リチウムポリマー電池は、リチウムイオン二次電池と基本的な構造や特徴などは変わらないが、液体の電解液ではなく、ポリマーに電解液をしみこませたゲル状の電解質を採用していることが特徴だ。リチウムポリマー電池は、電解質が準固体状態であり、液漏れの心配がないことや、外装としてアルミラミネート袋を用いるため、薄型で機器に合わせた希望の形状の電池を作れるという利点があるが、高温になると発火する可能性があることや、温度変化に弱いといったLIBの弱点は解消されていない。

このLIBの電解質を完全に固体にすることで、性能や安全性を大きく高めようとしているのが、全固体LIB電池(全固体電池)である。電解質を固体にするメリットは、いくつもある。まず、固体電解質は燃えないので、発火の危険性が小さくなる。また、固体電解質は温度変化に強く、低温でも高温でも安定した出力が可能になる。

産総研が開発中の全固体電池(左が固定用治具付き)

実用化への課題

これはEVにとって大きな利点となる。現在、EVではLIBが発火しないようにLIBを冷やす冷却装置が装着されているが、全固体電池なら冷却装置が不要で、より多くの電池を搭載できるようになり、走行距離も伸びる。さらに充電に時間がかかることが、EV普及の大きなハードルとなっているが、全固体電池なら急速充電を行っても電池が劣化しにくく、安全に急速充電を行える。繰り返し寿命も大きく伸びるため、EVの利便性やコストメリットがさらに向上する。

このように、全固体電池にはメリットが多いが、実用化への課題も山積している。現在、固体電解質として有望な材料は、硫化物系と酸化物系の2種類がある。どちらも、最大の課題はイオン伝導率の高い材料を見つけることだ。電気を運ぶイオンは固体中では動きにくいので、イオンが動きやすい(=イオン伝導率の高い)材料を発見できるかがポイントとなる。電解質が固体であるため、電極との接合を維持することが難しいことも課題である。

さらに硫化物系は、水分と反応すると人体に有害な硫化水素を発生する可能性があり、交通事故の際などいかに安全性を確保するかが重要だ。酸化物系は、高温で焼成する必要があり、利用時の温度が低いとイオン伝導率が低くなり、性能が落ちるという課題もある。

このように、全固体電池の実用化にはまだハードルがいくつも残っている状況だ。日本では、産業技術総合研究所が積極的に研究を行っているほか、トヨタやデンソー、村田製作所など10社と物質・材料研究機構によって構成される「全固体電池マテリアルズ・オープンプラットフォーム」が設立され、全固体電池の実用化に向けて企業の垣根を越えて研究開発が行われている。実用化という点では、硫化物系が先行するとみられており、トヨタは2025年という目標を掲げている。酸化物系は、EV向け電池としては2050年くらいが目標だが、電子機器等で利用する小型電池の分野では、もう少し早い段階で実用化されそうだ。全固体電池は、現在主流のLIBの次世代となる電池であり、EVのバッテリーを住宅や都市の電源としても使うVtoHやVtoG※といった構想を普及させるための鍵となる技術でもある。

※VtoH = 「Vehicle to Home」の略称で、EVのバッテリーに貯めた電力を家庭用電力として利用できるシステム。
 VtoG = 「Vehicle to Grid」の略称で、EVなどのバッテリーに貯めた電力を他の電力系統に供給する技術。