6Gの可能性

現在発売されているスマートフォンやタブレットなどでは、5G(第5世代)と呼ばれる携帯電話の通信方式を採用している。現時点では、5G非対応で4Gのみ対応の端末も多数利用されているため、4Gサービスも提供されているが、電波資源の効率利用のため、いずれは4Gサービスも終了となる。ちなみに3GサービスはKDDIが2022年3月に終了、ソフトバンクが2024年7月に終了、NTTドコモは2026年3月に終了予定となっている。日本で3Gの正式サービスが開始されたのは、2001年10月、4G(LTE)の正式サービスが開始されたのは2010年3月、5Gの正式サービスが開始されたのは2020年3月であり、携帯電話の通信方式は約10年ごとに世代交代が行われると考えてよいだろう。

今後もそのペースが続くと考えると、5Gの次の世代の通信方式である6Gの商用化は2030年頃になると予想される。現在、世界中のキャリアや機器メーカーが2030年頃の実用化を目指して、6Gの研究開発を進めている。NTTドコモは、6Gで目指す要求条件として、「超高速・大容量通信」「通信の遅延低下」「通信エリアの拡張」「消費電力のコスト低減」「超高信頼性通信」「同時多数接続」の6つを挙げている。これらの多くは5Gでも特長として挙げられていたが、6Gではそれをさらに進化させることになる。超高速・大容量通信については、5Gでは下り最大20Gbps、上り最大10Gbpsを実現しているが、6Gでは最大100Gbps超を目指している。通信の遅延低下については、5Gの10分の1となるエンド・ツー・エンドで1ms以下を目指し、通信エリアの拡張に関しては、陸上カバー率100%と高度1万mの空、陸地から200海里以内の海、さらに宇宙へもチャレンジしていくことになる。消費電力のコスト低減では、ビット当たりのコストを低減するだけでなく、充電不要な超低消費電力デバイスも期待される。さらに、信頼度は5Gよりも1桁高い99.99999%が目標であり、幅広いユースケースにおける品質保証やセキュリティ、安全性を実現する。さらに、1平方kmあたり1,000万デバイスという同時多数接続を可能にする。

6Gで目指す要求条件(出典:NTTドコモ)

6Gが普及すると、まるでSF映画のような世界を体験できるようになる。例えば、電話の相手が3Dでリアルにホログラムのように投影されるようになり、医療ロボットを使ったリモート手術も当たり前になる。工場は無人となり、AIが車両を制御する完全自動運転が実現するだろう。また、全地球規模で膨大なデータを収集できるようになり、そのデータを元にシミュレーションを行うことで、確度の高い未来予測ができるようになる可能性もある。例えば、気象や海流などのデータから、1年後の農水産物の収穫量を予測し、早めに対処することもできるようになる。さらに、フィジカルな現実世界とバーチャルなサイバー空間が有機的に統合されるサイバーフィジカルシステム(CPS)も、6Gなくしては実現できない。

6G実現の技術的なハードル

2030年の商用化を目指すには、2025年までには要素技術を開発する必要がある。超高速・大容量を実現するには、利用する周波数帯域幅を広げる必要がある。5Gでは、Sub6と呼ばれる3.7GHz帯と4.5GHz帯に加えて、新たに28GHz帯などのミリ波と呼ばれる帯域を利用できるようになったが、6Gでは、7.1GHz〜24.25GHzのセンチメートル波に加えて、さらに周波数の高いサブテラヘルツ帯(92GHz〜300GHz)も利用することが想定されている。電波は周波数が高くなるほど、直進性が高まり、壁などにぶつかったときの回り込みが少なくなる。そのため、5Gでは回り込みによって通信が可能だったエリアでも、6Gでは通信が困難になる場合が生じる。そこで、6Gでも5G以上のカバーエリアを実現するために、基地局からの電波の反射方向を動的に変更する「RIS反射板」と呼ばれる人工反射板の開発が進められている。NTTドコモは、2021年11月12日に、RIS反射板と28GHz帯5G基地局を用いて、ユーザーの動きに合わせて基地局からの電波の反射方向を動的に変更させる実験に世界で初めて成功したというリリースを発表した。また、ソフトバンクは2024年6月4日に、独自アンテナ技術の活用によって、300GHz帯テラヘルツ無線を用いた、屋外を走行する車両との通信に成功したというリリースを発表している。カバーエリアの拡大については、HAPS(High Altitude Platform Station)と呼ばれる、成層圏に飛行させたソーラープレーン型航空機や飛行船などを中継基地局として利用することが提案されており、すでに実証実験も行われている。HAPSは、6Gに先駆けて運用が開始される予定であり、NTTドコモは、2026年中のHAPSサービス開始を目指しており、ソフトバンクは、2027年までにHAPSサービス開始を目指している。

このように6Gを実現するための要素技術の開発は着々と進んでいる。6G実現には、まだ解決する必要がある技術的なハードルも多いが、遅くとも10年以内には、現行の5Gに代わる次世代携帯通信方式である6Gの商用化が行われるだろう。