大幅な速度向上を実現するるWi-Fi 7
オフィスでも屋外でも、果ては飛行機の機内までWi-Fiを利用できる場所は広がっている。仕事でもプライベートでもWi-Fiの世話になっている人は多いだろう。Wi-Fiとは、もともと無線LANに関する登録商標であり、Wi-Fiアライアンスという業界団体によって規定されたものだ。「Wi-Fi=無線LAN」だと理解している人もいるだろうが、厳密には正しくはない。最初の無線LAN規格は、1997年6月に策定されたIEEE 802.11であり、その後1999年10月にはより高速な通信を実現したIEEE 802.11aとIEEE 802.11gが策定された。しかし、当時の製品は同じ規格に準拠しているはずでも、メーカーが違うと上手く接続できないというトラブルがたびたび起こっており、相互接続性を保証するための業界団体として、Wi-Fiアライアンスが作られた。Wi-Fiとは、Wi-Fiアライアンスによる相互接続性の証であり、Wi-Fi認証を取得した製品にのみWi-Fiロゴの利用が許可される。つまり、無線LAN製品でも、Wi-Fi認証を取得していない製品もあるのだ(今はほとんどないが)。
無線LANは、その後もIEEE 802.11nやIEEE 802.11acなど、より高速な通信が可能な規格が次々と登場したが、規格名だけではどちらが新しい規格か分かりにくいという不満が出てきた。そこで、Wi-Fiアライアンスは、2018年10月、Wi-Fiにナンバリング規格を導入し、IEEE 802.11nをWi-Fi 4、IEEE 802.11acをWi-Fi 5、IEEE 802.11axをWi-Fi 6と呼ぶことにした。2021年にはWi-Fi 6の拡張として従来の2.4GHz帯と5GHz帯に加えて6GHz帯も利用できるWi-Fi 6Eが登場した(日本では2022年9月から6GHz帯の利用が解禁)。
2024年1月に、Wi-Fi 6Eの後継となるWi-Fi 7(無線LAN規格の名称はIEEE 802.11be)の認証がスタートした。Wi-Fi 7は、Wi-Fi 6Eをベースに改良が行われ、最大通信速度や接続の安定性が向上している。通信速度については、Wi-Fi 6Eが最大9.6Gbps(理論値)だったのに対し、Wi-Fi 7では最大46Gbps(理論値)と、約4.8倍にも向上している。この大幅な速度向上を実現した秘密は、「320MHz帯域幅」「2倍のストリーム」「4096QAM」の採用にある。帯域幅は、Wi-Fi 6Eでは最大160MHzだったが、2倍の320MHzに拡張された。帯域幅は高速道路の車線数のようなもので、幅が広がればそれだけ速度も向上する。ストリーム(通信経路)も従来の8から16に倍増し、変調方式も1024QAMから4096QAMに進化したことで、それぞれ通信速度が2倍、1.2倍に向上しており、あわせて2×2×1.2=4.8倍の速度になる。
Wi-Fi 7への期待
また、Wi-Fi 7では、MLO(Multi-Link Operation)と呼ばれる新しい技術が採用されており、デバイスが2.4GHz帯/5GHz帯/6GHz帯の複数のバンドを同時に利用できるようになった。これにより、高いスループットと低遅延に加え、信頼性も向上している。さらに、周波数割り当てを最適化するMulti-RUや干渉が発生しても影響を最小限に抑えるプリアンブルパンクチャリングといった技術により、電波利用効率も向上、従来に比べて最大5倍の容量を実現している。
このようにWi-Fi 7は、Wi-Fi 6Eに比べても大きな進化を遂げており、さまざまな活用が期待される。例えば、4Kや8KといったUHD動画のWi-Fi経由でのストリーミング再生や、高速なデータ転送と低遅延で安定した接続環境が要求されるVR/ARなどのXR技術での利用などが考えられる。また、ビジネスにおいても、自宅からリモートワークを行う際など、Wi-Fiを利用するデバイスが多数存在している場合でも、Wi-Fi 7なら安定したリモート会議が行える。もちろん、Wi-Fi 7を利用するためには、Wi-Fiルーター(Wi-Fiアクセスポイント)と接続するPCやスマートフォンなどのデバイスの両方がWi-Fi 7に対応している必要があるが、2024年夏以降に登場したPCやスマートフォンは、上位機種を中心にWi-Fi 7に対応した製品が増えてきている。また、Wi-Fi 7対応Wi-Fiルーターも各社から登場してきた。ただし、Wi-Fi 7対応を謳っていても、低価格なWi-Fiルーターでは、5GHz帯と2.4GHz帯のデュアルバンドしかサポートしていない製品もある。Wi-Fi 7で拡張された320MHz帯域幅は6GHz帯でしか利用できないため、Wi-Fi 7の恩恵をフルに享受することはできない。今後オフィスのWi-Fiルーターを更改する場合は、将来性も考え6GHz帯/5GHz帯/2.4GHz帯のトライバンドをサポートしたWi-Fi 7対応ルーターの導入をおすすめする。