バイブコーディングの概要

昨年、大阪市の高校生が自作のプログラムを使って、「快活CLUB」のサーバーに不正アクセスし、729万人の会員情報を漏えいさせたとして逮捕された。この事件の最大のポイントは、サイバー攻撃に使われたプログラムは高校生が一人で開発したものではなく、生成AI「ChatGPT」を用いてサーバーの防御を破るように改良されたものだということだ。このように、生成AIと対話を繰り返すことでプログラムを開発する「バイブコーディング」と呼ばれる手法に注目が集まっている。バイブコーディングの「バイブ」とは、雰囲気やノリという意味の英単語「Vibe」から来ており、従来のウォーターフォール型開発のように厳密な仕様書に基づいてプログラムを開発するのではなく、大ざっぱな指示(プロンプト)を生成AIに与え、生成されたコードを試しながら、感覚的に修正・改善を繰り返してコーディングを行うことを意味している。

バイブコーディングという言葉が初めて使われたのは2025年2月のことだ。それ以前から、生成AIを補助的に使ってプログラムの開発効率を高める試みは行われていたが、バイブコーディングでは、生成AIが主体的にコードを生成することが特徴だ。バイブコーディングのメリットは、プログラミングの知識が少ない人でも開発を行うことができ、開発速度が大幅に向上することだ。その反面、生成AIに任せきりにすると、一見、問題なく動作しているように見えても、特定の条件で動作がおかしくなったり、セキュリティ面での問題が生じることもある。そもそも、バイブコーディングという言葉が広まった2025年前半は、生成AIが出力するコードの品質がまだ低く、プロンプトの指示どおりに動作しないことも多かった。しかし、OpenAIとGoogleによる生成AI開発競争が激化し、2025年後半に登場した「ChatGPT-5.2」や「Gemini 3」では、テキストや画像、動画、音声など異なる種類のデータを統合的に処理するマルチモーダル処理の精度が大きく向上し、嘘の情報を回答するハルシネーションが減少した。最新の生成AIでは、プログラムコードの生成精度も向上しており、数回のやり取りで、開発者が意図したとおりに動作するプログラムを開発できるようになってきた。

バイブコーディングのイメージ。 生成AIにざっくりとした雰囲気を伝えてコードを生成してもらう

バイブコーディングのリスクと可能性

バイブコーディングは急速に広まりつつあり、さまざまな場面で開発者の助けとなっているが、生成AIが生成したコードをしっかりレビューせずにデプロイしてしまうと、思わぬトラブルが生じる可能性も高い。また、現時点の生成AIの能力では、ちょっとしたユーティリティソフトやツール類を作ることはできるが、業務システムをはじめとする大規模なプログラムを生成することはできない。テレビや新聞などでは、バイブコーディングは、プログラミングの知識がない人でも、思いどおりにプログラムを作ることができる技術だと説明されることが多いが、実際はそんな夢のような技術ではない。プログラミングの知識がない人でも、生成AIにコードを書かせることは確かにできるが、それが思いどおりに動作しなかった場合、コードのどの部分に問題があるかわからないと、的確な修正指示を与えることが難しく、結局目的のプログラムが完成できなかったという話もよく聞く。生成AIは包丁のようなものであり、使う人間次第で善にも悪にもなる。冒頭で紹介した事例は、まさに悪い方面での使い方だが、サイバー攻撃に生成AIやバイブコーディングを利用した事例は増えており、生成AIの進化がサイバー攻撃の凶悪化・巧妙化をアシストしているという皮肉な状況になっている。

プログラミングに関する知識や経験があるエンジニアが、バイブコーディングを利用すれば、プログラム開発の生産性を大きく高めることができる。近い将来、誰でもバイブコーディングで自由にプログラムを組めるようになるだろうが、現時点でのバイブコーディングは、エンジニアにとっての便利な道具に過ぎないと考えたほうがよいだろう。実際に、バイブコーディングの導入によって、開発効率を大きく高めることに成功した会社は多数存在する。今後は、バイブコーディングを導入した会社と導入していない会社の格差が広がっていくだろう。バイブコーディングを本格的に業務に使うのは怖いと考えている方も多いだろうが、そうした方こそ、バイブコーディングを試してみることをおすすめする。