リモートワークで見えてきた課題のイメージイラスト

新型コロナの感染拡大の影響によるリモートワークの導入は、多くの企業にとって緊急の対策だった。取り急ぎ、持ち出し用のPCやWi-Fiルーター、遠隔コラボレーションツールなどを導入。従業員が自宅で何とか仕事ができるように間に合わせたのが実情である。そのためリモートワークの備えが不十分であった点が課題として浮上している。そこで今回の特集では、実際にリモートワークを行ってわかった課題と解決方法について考えたい。

実録 リモートワークの落とし穴あるサラリーマンの在宅勤務

新型コロナ感染症対策を機にリモートワークは一気に普及したが、このところ中堅・中小企業を中心にオフィス勤務を主軸にした勤務体制に回帰する動きが目立つ。その理由とリモートワーク促進提案のカギを考えるためにも、リモートワークの課題と解決方法を検証したい。そこで、ある家族の体験談をもとにリモートワークの落とし穴を“見える化”してみた。

主人公 専門商社に勤続10年。妻子あり。仕事が面白くなりはじめた年頃
息子 主人公の息子。ヘラブナ釣りがマイブームの保育園児
課長 主人公の上司。責任回避レーダーの探索能力はピカ一
T君 主人公の同僚。仕事はできるが、少々気難しい一面も
U君 主人公の同僚。頼りになる後輩なのだが。趣味はソロキャンプ

在宅のリモートワークではこんな一言もハラスメントに?

リモートワークの朝はもう少し優雅になると期待していたが、まったくのところ計算違いだったようだ。妻に代わり、息子の保育園の送り迎えを引き受けると大見得を切ったのもよくなかった。

息子を保育園まで送り届け、帰宅すると始業時間の9時直前だった。定例Webミーティングにアクセスすると、自分以外のメンバーはすでに全員ログイン済だった。全員のスケジュール報告が終わると、課長は自分に残るように伝え、ミーティングは終了した。

「君は言葉に気を付けた方がよさそうだな。T君が自信を失っていたぞ。君にかなりキツイことを言われたらしい」

「えっ、なんの話ですか」

課長によると、どうやらA社の担当引継ぎの際のやり取りがよくなかったらしい。「なんでそんなこともわからないのか」と叱責したというのだがまったく心当たりがない。文章だけのコミュニケーションはなにかと難しい。

貧弱なネットワークインフラと無駄な慣習を踏襲する決裁システム

我が社は、早くからペーパーレスを推進してきた。業務に必要な資料はリモートで参照可能だが、社内システムにスムーズにアクセスできることが条件だ。VPN接続でアクセスを試みるが、うまくつながらない。 時計を見ると午前10時。リモートワークに移行した従業員のアクセスが集中する時間だ。

今日の予定を調整していると、一通のメールが着信した。先月からクロージングに動いていたB社の担当さんからだ。開くと、契約を進めたい旨の連絡だった。御礼メールを書きながら、新たな問題に気付いた。担当さんのメールには至急見積書を用意してほしいという一文があったからだ。

見積書には、当然社判を押印する。 だが我が社のリモートワーク規定では、出社するには前日中の申請が必要になる。見積書の準備が明日以降になることを担当さんに詫び、ワークフローで出社申請を行った。こちらはクラウドサービスでスムーズにアクセスできたことが唯一の救いだ。

端末に目が行き届かない環境はセキュリティリスク増大にも

課長に頼まれた販促ツールの構成がおおよそ固まったので、U君に連絡を取ることにした。

Web会議ツールで打ち合わせを始めたが、オフィスの対面の打ち合わせと違いなかなか調子がでない。資料に手書きで文字や図を書き込めないこともその理由の一つのようだ。

打ち合わせを終え、一息ついているとスマホが鳴った。妻からだ。

「保育園からの連絡で、子供が熱を出したからすぐに迎えに行ってあげてほしい」と言うと電話は一方的に切れた。(※5)16時にはC社とのWeb商談の予定が入っている。時計を見ると15時30分。今出かければなんとか間に合うはずだ。

それほど心配はしていなかったものの、息子の元気な姿を目にするとさすがに脱力してしまう。帰宅したのは15時58分。なんとか間に合った。

Web会議ツールを使った商談が終わり時計を見ると、17時を過ぎている。今日も残業になりそうだ。我が社の働き方改革では、残業申請の厳格化が一定の成果を挙げた。だがリモートワークに移行した今は、その意識が緩みがちであることは否定できない。*7 セルフマネジメントの難しさを痛感する1日だった。

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