コロナ禍への対応とDXの対応がポイント2022年、パートナー様が提案すべきIT投資

データに基づき意思決定を行うデータドリブン経営の実践には、大きな課題が存在している。それは統計学や高度なデータ分析スキルを持つ人材の不足だ。特に中堅・中小企業がデータに基づき直面する経営課題を解決したいと考えた際、この問題は大きな足かせになる。その解決に大きな役割を果たすことが期待されているのが、データ分析プロセスを自動化するツールを用いた新たなデータ分析サービスである。

ゲームチェンジャーになりえるデータ分析基盤の可能性

企業のDX推進において、データ分析は大きな役割を担っている。特に経験や勘ではなく、データに基づき意思決定を行うデータドリブン経営の実践は、ユーザーニーズに寄り添った改革において不可欠な要素と考えられている。

大企業の多くは、すでに何らかの形でデータドリブン経営に向けた取り組みを開始しているが、中堅・中小企業に目を向けると大部分は手付かずの状態にある。その背景にあるのが、データサイエンティストをはじめ、データ分析の専門スキルを持つ人材の圧倒的な不足だ。人的リソース不足をAIで補うという選択肢もあるが、確実な成果を求めるなら億単位の投資が必要になることもあり、中堅・中小企業にはハードルが高い。

もちろん、これまでと同様に経験と勘に頼った経営を続けるという選択もある。だが経営判断へのデータ活用は今に始まったことではない。
近代看護教育の生みの親であると共に、統計学者としての顔も持つフローレンス・ナイチンゲールが、クリミア戦争に看護師として従軍したのは1854年のことだ。当時の野戦病院の衛生状態は劣悪で、戦場で負った傷よりむしろ感染症で命を失う兵士が少なくなかった。現実を目の当たりにした彼女が行ったのは、イギリス軍の戦死者・傷病者データの分析だった。現代でもデータ分析に利用される鶏頭図(ローズダイアグラム)による死亡原因の可視化はイギリス議会をも動かし、病院の衛生状態改善は、その後のイギリス軍兵士の戦死者の大幅な低減につながった。

彼女がデータ分析を行ったのは、電子計算機すらない19世紀のことだ。我々は、当時とは比較にならないデータ分析の利便性を手に入れている。その事実にあえて背を向けるのであれば、合理的な説明が求められることになる。
先行企業に目を向けると、データ分析が大きな成果につながった事例は珍しくない。例えば、グローバルに事業を展開する制御機器メーカーがデータ分析を通して発見したのは、従来型の「かんばん方式」による生産管理の落とし穴だった。これまで、ものづくり企業では、部品在庫、仕掛在庫を極限まで減らすことが正義とされてきた。だが各部署のデータの統合的分析が示したのは、在庫ロスの推進が販売機会のロスにつながっていたという事実だった。

ナイチンゲールによるデータ分析がクリミア戦争の死因を可視化した

経営に限らず、常識を疑うことは常に大きな困難が伴う。常識を疑い、新たな一歩を踏み出すことの意義は大企業も中堅・中小企業にも違いはない。
これまでもさまざまなITソリューションが大企業から中堅・中小企業へと浸透してきた。人材難やコストという課題を乗り越えることさえできれば、データ分析市場は確実に広がるはずだ。

そのゲームチェンジャーとして注目されるのが、NECの研究所からカーブアウトしたデータ分析プラットフォーム「dotData(ドットデータ)」である。その特長は、煩雑なデータサイエンスのプロセス自体をAIで自動化する点にある。
データ分析では、多様なデータを収集して分析可能な状態にしたうえで統計学やデータサイエンスの専門スタッフが手作業で特徴量設計を行い、機械学習で業務への適応を図るというプロセスを踏む。データ分析の全工数の約7割が特徴量設計で占められているともいわれ、データサイエンティストが何千というクエリをデータベースに発行し、仮説検証プロセスを行うことも珍しくない。実はこのプロセスこそが、データ分析の多くの日数・人員が必要とされてきた大きな理由だった。このプロセスを内製化しようとすれば人材難に直面し、アウトソーシングすれば莫大なコストが必要になる。

しかし、AIが特徴量設計を行うdotDataであれば、人力で1、2カ月かけて行ってきた特徴量設計を瞬時に終わらせる。2、3カ月を要してきた予測結果のビジネスへの活用を数日で行うことも可能という。

dotDataがデータ分析工数を大幅に削減

AIが営業成績アップに大きな役割を果たす

2018年にサービス提供が開始されたdotDataは、すでに国内外のさまざまな企業で活用が進んでいる。中でも注目したいのが、大塚商会が自社開発した営業支援システム「Sales Process Re-engineering(SPR)」にdotDataを組み込み、予測モデルの精度を大幅に向上させた事例である。

大塚商会が膨大な顧客データ、商談データ活用を本格的にスタートさせたのは2000年代のことだ。AI活用にも積極的に取り組んできたものの、分析作業に膨大な時間がかかっていたという。こうした状況を大きく変えたのが2019年のdotData導入だった。

現在、SPRにはAIが営業担当に訪問先を提案する「AI行き先案内」と呼ばれる機能が搭載されている。これは営業日報や売上明細、サポート情報などのデータに基づき、アポイント済みの商談の前後に訪問すべき顧客をAIがリコメンドする機能で、提案に従うかどうかは各営業担当の判断に任されている。

2020年に「AIの推奨に従った訪問」と「営業担当の判断による訪問」それぞれの成約率を比較したところ、前者が後者より約5%成約率が高いという結果が得られた。AIによるデータ分析は、大塚商会の営業担当の生産性向上に確実に貢献しているのだ。その背景にあるのがdotDataによる仮説検証サイクルの高速化である。

分析基盤をリスケールし、中堅・中小企業に提供

一方で大塚商会は、自社用に確保したdotDataリソースを再販する新サービス提供を2021年6月よりスタートしている。サービスは大きく3つに分けられる。一つは、お客様からデータを預かり、あらかじめ設定した課題に基づきPoC(概念実証)による効果検証を行う「AI分析サービス」。大塚商会が培ったデータサイエンスの知見に基づきdotDataを運用することで、特別な準備を必要とせず、短期間で分析結果が得られる特長がある。これまで一回のPoCサイクルを回すために1,000万~1,500万円のコストが必要になることが一般的だったが、それにより、同様の分析を100万~150万円という費用感で実践することが可能になる。

次が「自社のデータでどんな分析ができるのか知りたい」というユーザーを対象に、大塚商会のデータサイエンティストが課題を設定し、データ分析を行う「アセスメントサービス」。この場合もdotDataを利用することで同様のサービスと比較し、費用は大幅に抑えられる。
最後が大塚商会が切り出した、Azure上のdotDataに直接アクセスしデータ分析を自社で行う「dotData Lite」。環境構築から操作指導まで大塚商会がトータルサポートする。

商流の観点では、大きく2方向の利用が考えられる。一つはパートナー様による顧客への再販である。AI分析サービスやアセスメントサービスのPoCで手応えを得た顧客は分析モデルを継続利用するため、手離れよくサブスクリプション売上の確保が見込めることも注目ポイントだ。
もう一つは、dotData Liteの自社データ分析への活用という方向性である。営業活動へのAI活用を考えた場合、すでに大きな実績を持つ仕組みの魅力は小さくないはずだ。

大塚商会のデータ分析サービスは3通り

では、dotDataはどのようなデータ分析を可能にするのか。AI分析サービスが想定するユースケースは多様だ。大きく、アクションを取るべき対象を抽出する「ターゲティング」、見えない値を予測する「回帰」、対象をカテゴリに分類する「判別」の3種類に分類でき、企業の経営課題の多くにスムーズに対応することが可能である。

サービス開始からちょうど1年が過ぎた今、大塚商会のAI分析サービスを利用する中堅・中小企業は30社以上に及び、大きな成果につながった事例も少なくない。
その一つが回線販売を手掛ける企業の事例だ。アウトバウンド営業を中軸として事業を行う同社にとり、コールセンターのパフォーマンス向上は大きな課題であり続けてきた。その中で、同社が利用したのはAIによる購入者予測だった。販売実績の分析を通し、膨大な見込み顧客リストから成約率が高いと思われるターゲットを抽出し、優先順位と共に提示するというのがその基本的な考え方になる。PoCは3回行われたが、従来通りの手順で業務を行ったグループと比較すると、AIによるリコメンドに基づきアウトバウンド営業を行ったグループの成約率は1回目で2倍、その結果を機械学習にフィードバックさせた2回目以降の成約率は7倍に達したという。

dotDataはさまざまなユースケースに対応可能

その他、市場の需要予測や店舗の売上予測、従業員の退職リスクを予測する「離反予測」など、AI分析サービスを利用して企業が取り組む経営課題は多岐に及ぶ。
今後、現在大企業を中心として進むデータドリブン経営に向けた取り組みは、中堅・中小企業へと波及するはずだ。大塚商会が提供を開始したAIによるデータ分析サービスは、エンドユーザー様の新たなニーズに応える商材として注目していく必要がありそうだ。

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