2019年11月28日発行

Autodesk University Japan 2019」レポート
ジェネレーティブデザインが顕著な効果をもたらす

オートデスク株式会社は、「Autodesk University Japan 2019」を10月8・9日にグランドニッコー東京 台場で開催した。「The future of making ~創造の未来~」のテーマのもと、最先端のモノづくりの動向や成功事例を紹介。今回は、米国オートデスク社の複数の経営幹部が登壇したジェネラルセッションの講演内容をレポートする。とりわけ、AIやクラウドを活用したジェネレーティブデザインが目に見える効果をもたらしているという。

< 基調講演 >
新たなモノづくりの潮流により世界中で目に見える効果を発揮

オートデスク株式会社
代表取締役社長 織田 浩義氏

ジェネラルセッションでは、最初にオートデスク株式会社 代表取締役社長 織田 浩義氏が挨拶を行った。今や日本では働き方改革による生産性の向上が待ったなしの状態で、2025年には働き手の20%が退職するため、あらゆる企業の優先課題の一つであると述べた。その中で、オートデスクの使命は、お客様が求めている変革を支援していくこと、「皆様の創造の未来に対して最も身近なところで汗をかき、最大のサポーターになりたい」と語った。

基調講演では、米国オートデスク社 クラウド&プロダクションプロダクツ、製造担当 上級副社長 スコット・リース氏が登壇。歴史上初めて世界の人口の半分以上が中産階級になり、教育、エンターテイメント、通信技術、輸送、住宅、ヘルスケアなど、さまざまなものがますます必要になる。そのためには、これまでのやり方を続けることはできないと指摘する。

例えば、建設業は、施行プロジェクトの中で30%は無駄な作業を行っている。そのため、既に多くの人々が、AI、機械学習、クラウドコンピューティングなどを用いて、その無駄をなくす努力を始めている。国連難民高等弁務官事務所では、60万人の難民を収容するキャンプを半年間で作らなければならない課題に直面した。そこでオートデスクのシミュレーション技術を活用することで、その課題をクリアしている。

ドイツのセメント製造機器メーカーは、ジェネレーティブデザインを活用することで製造機器の大幅な軽量化を実現し、セメントの製造工程における二酸化炭素の排出量を5万トンも削減することに成功。これは1万2000台の車の年間排出量に相当する。

建設現場では、事故が多発しているため、安全性と品質を同時に高めることが重要な課題になっている。そこで、さまざまな情報をBIMのシステムにアップロードし、現場監督が安全性の問題点を事前に把握することで、死亡事故を未然に防ぐ取り組みが行われていると語った。

< AECインダストリーキーノート >
都市部の人口増に対応するためオートメーション化が必要不可欠

引き続き行われたAECインダストリーキーノートでは、米国オートデスク社AECインダストリー担当 上級副社長 ニコラ・マンゴン氏が登壇。現在、世界の都市部の人口は35億人で、2050年には70億人に達する。それに伴い、毎日、1万3000件の建物を増やし、地球30周分に相当する道路網を新たに建設しなければならない。そのうえ、既存のインフラの保守工事も必要になるので、AIや機械学習による設計・施工のオートメーション化が必須となると指摘する。

しかし、それを実現するためには、大量のデータが必要になる。その重要なキーワードになるテクノロジーが、デジタルツインとスマートスペースだ。これにより、建物に設置したIoTセンサーなどでさまざまなデータを収集し、サイバー空間上に同様の状況を作り出すことで、より良い意思決定が行えるようになると語った。

次いで、米国オートデスク社 ビルディング ビジネスライン&プロジェクトデリバリー担当 シニアディレクター ビクラム・ダット氏が登壇。建設業界では、労働力不足が深刻な課題であり、それを補うためにオートメーション化が大きな役割を果たすと指摘。その一環として、オートデスクは、Assemble、PlanGrid、BuildingConnectedという3つの会社を新たに買収し、それらの技術とオートデスクの製品を組み合わせることで、さまざまなプロセスの自動化を実現し、生産性の向上に寄与していると語った。

続いて、AEC ジャパン ハイライトでは、大和ハウス工業株式会社 技術本部BIM推進部 次長 伊藤 久晴氏と、株式会社三菱地所設計 R&D推進室 矢野 健太郎氏が登壇。

伊藤氏は、デジタルトランスフォーメーションこそが、BIMのゴールだと指摘する。そのために、まずはデジタル化によって情報を一元化することを目指している。今後は、日本の国策であるSociety 5.0の実現に向けてデジタルトランスフォーメーション化を推し進め、現実空間と仮想空間を高度に融合させることで、経済発展と社会的課題の解決に貢献したいと語った。

一方、矢野氏は、BIMをより身近なものにするために、Revitで作成した3次元モデルをExcelのデータに落とし込める環境を整備。Excelならば誰でも手軽に活用できるので、業界全体のBIM化の普及につながると話す。その際、 RevitとExcelのデータ連係に活用したのが、グラフィカルなプログラミング インターフェースのDynamoだ。その結果、これまで1時間くらいかかっていた作業がわずか数秒で完了し、圧倒的な時間短縮を実現している。


オートデスク主催の「Autodesk University Japan 2019」が盛大に開催された。

< D&Mインダストリーキーノート >
無駄な作業時間を削減することでより革新的な製品が生みだされる

D&Mインダストリーキーノートでは、米国オートデスク社 D&Mグローバルマーケット開発&戦略 担当ディレクターデトレフ・ライヒネーダー氏が登壇。現在、製造業は大きな変革の時期を迎えており。お客様のニーズに合わせてカスタマイズが可能な革新的な製品が求められている。その一方で、機械加工や3Dプリンターなどの新しい製造手法や新素材によって、よりよい製品を作り出せるようになった。しかし、一部の工程が連動していなかったり、いろいろなファイルに変換したりする必要があり、現状では問題点も多い。

実際、エンジニアの作業時間の3分の1を、付加価値を生まないことに費やしている。逆に、付加価値を生まない作業時間をなくし、製品の改善に時間を費やせれば、より革新的な製品が作れるようになる。その際、大きな効果をもたらすのが、Inventorを中心としたPD&Mコレクションであると語った。

次いで、WHILL株式会社 車両開発部部長 平田 泰太氏が登壇し、電動車いすの設計にジェネレーティブデザインを活用した事例を紹介。設計経験のないインターン生でもすぐに操作方法を覚え、数回のトライアルで40%の軽量化を実現した。条件設定さえ間違わなければ、技術的なハードルはほとんどないという。

最後に、オートデスク株式会社 マーケティング部 ディレクター 麦田 興次氏がクロージングの挨拶を行い、オートデスクは次世代の技術者を全力で支援すると語った。


展示コーナーに大塚商会のブースを出展しパートナー様とのコミュニケーションとなった。