2020年05月28日発行

ONE TEAM EXTENSION JAPAN 2020レポート
苦境を乗り越え「もう誰にも止められない」オートデスクが目指す未来の形

オートデスクは、2020年4月9・10日、ビジネス戦略などを共有するイベント「OTx Japan(ONE TEAM EXTENSION JAPAN) 2020」を開催した。今回は、新型コロナウイルスの感染拡大問題に配慮し、急きょ、実地のイベントからオンラインイベントにシフトした。OTx Japanがオンラインイベントで実施されるのは初である。

Standard サブスクリプションとは?

今回は、オートデスク株式会社 代表取締役社長の織田浩義氏が日本現地でホストとなり、米国オートデスク本社から、ワールドワイド フィールドオペレーション担当 シニア バイスプレジデントであるスティーブ・ブラム(Steve Blum)氏、グローバル テリトリー セールス担当 バイスプレジデントローランド・ゼラス(Roland Zelles)氏がリモート出演。冒頭の10分間ほどでオープニングトークが行われた。

「オートデスクはOne teamとなって団結し、助けを必要とする顧客を支援している」とブラム氏は語った。例えば、同社では在宅ワークにシフトしたユーザーのソフトウェア導入支援や、経済的に苦しいユーザーの支援に取り組んでいるという。具体的には、クラウド製品群の無償の商用アクセス提供や、従来のシリアル番号によるライセンス管理廃止の期限延長、マルチユーザー環境の在宅ワーク支援、自宅からアクセスできるオンラインガイドやビデオなどの提供、ライセンス支払期限の延長などである。

移⾏プログラムについて

オープニングトークの後、2020年3月にアメリカ ネバダ州ラスベガスで開催した「OTx」の基調講演の様子を日本語字幕と共に流した。

まずはブラム氏が、オートデスクが「誰にも止めることができない」テクノロジーリーダーであることを宣言。また最先端のSaaSカンパニーへと変貌するビジネスリーダーであるとも述べた。ブラム氏は、会場にいる社員やパートナー様に向け、「2019年度の皆さんの成果は驚異的。請求、収益、再投資、現金収入まで、新たな高みに達した」と報告した。  ブラム氏は、それを印象付ける数字として、オートデスクの2019年度の年間経常収益が34億ドル、請求が42億ドル、総収益が32.7億ドル、フリーキャッシュフローが13.6億ドルであると発表した。

「これまでは不可能だと思っていた壁を乗り越え、数々の競争に打ち勝てた」(ブラム氏)。

またブラム氏は講演中、「当社の全製品をサブスクリプションへ移行した当時、多くの収益を先送りにした」と、オートデスクが過去に経営的な苦難や課題を乗り越えてきたことも話した。当時は、キャッシュフローが減り、使える資金が減った。しばらくは節約し、厳しい判断も決行した。しかしこれは想定していたこと。資金の賢明な使い方を工夫した。その結果、オートデスクは賢くなり、創造的かつ現実的になったとブラム氏は述べた。

「最終的には変化を突きぬけ、成長の加速段階へと入った。この数年間はスリルに満ちていた。勇気、規律、忍耐が求められ、そこからわれわれは多くのことを学んだ。失敗もあったが、勝利し、新たな高みに達した」(ブラム氏)。

かつてのSFオタク少年、クラウドが創る未来を語る

ブラム氏に続いて、オートデスク 社長 兼 CEOのアンドリュー・アナグノスト氏が登壇。オートデスクが未来をどう歩むのか、そのビジョンを語った。

アナグノスト氏は、かつて自分が、アイザック・アシモフ、アーサー・C・クラークといったSF作家の作品を読みあさり、テレビ番組の「スタートレック」「バトルスターギャラクティカ」「バックロジャース」に夢中になった、「SFオタク(Nerd)」少年だったと明かした。

「私の『未知との遭遇』は、『権威との遭遇』だった。優れた教師と、偉大な作家が、障害に立ち向かう私を助けてくれた。また『不可能と思われるものを描く作品が優れている』と、SFが教えてくれた。他人の考えを基に自分の願望を縮めるのではない」(アナグノスト氏)。

SFの描く未来はしばしば、人口が増え続けて消費が増えることによる社会の混乱や人類の破滅を描いている。しかし現実の世界では、社会の努力とソフトウェアの発展のおかげで、地球の資源を節約しながら人々の生活の質を向上し続け、経済を成長させ続けてきたとアナグノスト氏は語った。「ビデオデッキやフィルムカメラは既に姿を消した。電子計算機、時計、ラジオ、方位磁石は全てポケット(スマートフォン)に収まっている。この会場の皆さんもその一部。デジタルツールは少ない資源で、より多くの仕事をこなしてくれる。洞察力を与え、よりよい解決や結果をもたらす。改善のチャンスは、変化の原動力になり得る」(アナグノスト氏)。

アナグノスト氏は、2019年にオートデスクの株価は200ドルを超え、さらに時価総額は450億円に及んだことを紹介。株価だけを追い求めるのは「成長のための成長でしかない」。時価総額が示すのは、オートデスクが「コスト管理の制約から逃れることができた」ことを表し、誰にも止めることのできない、世界でも有数な持続可能なソフトウェア企業と評価してもらえるようになったと述べた。

2019年度、オートデスクの研究開発費は、創業以来、最高額になった。今年はさらに、研究開発費を12%増やすという。それは収益の20%に相当するという。特に、「データドリブンな洞察と価値を提供できるS a a Sの卓越性に投資する」とアナグノスト氏は言う。建設業界向けのクラウドソリューション「AUTODESK CONSTRUCTION CLOUD」、クラウドCAD / CAM ソフトウェア「Fusion360」といった、柔軟性があり強力なクラウド製品の発展により力を注いでいくとのことだ。

さらに「Maya」「3DS Max」といった3D CGツールの新機能へも投資する。フロストストレングス、ビジュアルプログラミング、プロシジュアリズムを拡張させ、複雑なエンタメ作品をより精巧に創り上げるソリューションを提供するとのことだ。

この苦境を、変革のきっかけに

全世界が経済的な苦境を迎え、社会が大変動しつつある今日であるが、今回のOTxを通じて、オートデスクは未来を創造し変革し続ける続けるリーダーであり続けることを力強く宣言した。これからも、「勢いを止めることのできない存在になる方法」を模索し、実践するという。

「これから起きることに責任を持とう。新たな地を切り開くのは、われわれである。個人として、会社として、学習、革新、成長を続けていく必要がある」(ブラム氏)。

最後に織田氏は、日本法人における、2019年度の成長率を紹介した。これも、同社の過去の苦境を乗り越えた学びから得られた成果であるといえる。

今、オートデスクによるクラウドソリューションで、業界や業務を大きく変革するいい機会とも解釈できる。日本国内においても、終わりの見えない辛抱の時が続いているが、コロナ禍が去った後に拓ける未来を信じたい。