2014年5月28日発行

2014年、オートデスクの販売戦略
各部署の課題を解決する提案力で3次元CADビジネスの裾野を広げる

オートデスクでは、Suite製品などの市場の底上げを図るため、2014年に営業体制を変更し、エンドユーザー様への提案力を強化する新たな営業戦略を打ち出した。そのポイントやパートナー様との協業体制について、テリトリー営業本部 製造営業部 部長の山田繁寿氏に話を伺った。

パートナー様と協業してBPAプログラムを全国展開

オートデスクは2014年から営業体制を変更した。従来、テリトリー営業本部は、オートデスク製品を取り扱っているパートナー様向けに特化した営業活動を展開していたが、これを見直し、各都道府県別に専属の営業担当者を配置。各地域に特化した営業活動をパートナー様と協業して展開するスタイルと舵を切ったのだ。

その狙いは、ビジネスの裾野を広げることにある。オートデスク製品の売上実績を分析すると、東京、大阪、名古屋、福岡といった大都市の売上が7割近くを占めている。逆に大都市の周辺地域の売上は決して多くない。オートデスクでは、その地域をホワイトスペースと呼んでおり、その営業活動を積極的に展開することで全体の売上アップを図る戦略だ。

2014年のもう一つの営業テーマは、競合製品を使っているエンドユーザー様に、オートデスク製品の優位性を認識してもらい、オートデスク製品へのリプレースを推進することである。

この2つの営業戦略を実践するにあたり、最も重要なポイントは、エンドユーザー様のワークフローや設計データの流れを十分に理解すること。そのうえで、企画、設計、製造など社内のすべての部門における課題を抽出し、その課題解決に直結する最適なSuite製品を提案することである。

オートデスクでは、これをBPA(ビジネス・プロセス・アセスメント)と呼び、すでに取り組みを始めている。まずはオートデスクが主導でBPAのプログラムを実施し、最終的にパートナー様のビジネスへつなげていく。例えば、以前は設計部や生産技術部など、実際にCADを使っている限られた部署の方たちとしか基本的に接していなかった。しかし、BPAでは、営業部や品質保証部など、普段接する機会のない部署の方たちからも現状の業務上の課題をヒアリングし、それを解決するための具体的な提案内容をドキュメントにまとめて提出する。

「ドキュメントには、業務改革のテーマや投資対効果などを明示し、他社の成功事例も併せて紹介します。その後、エンドユーザー様に検討していただけたら、問い合わせ先をお伝えして、パートナー様へ引き継ぐイメージです」と山田氏は語る。

このBPAプログラムは、パートナー様の意向を踏まえながらエンドユーザー様のターゲットを絞り、年間40社程度に実施していく計画だ。

3次元設計への一部移行でもエンドユーザー様の課題解決につながる

現状、オートデスクのエンドユーザー様は、2次元設計を行っているところが非常に多い。それを3次元設計に切り替えてもらうことも、Suite製品などを拡販するうえでの重要な取り組みの一つである。その際のポイントは、3次元設計を一部導入しただけで、営業や製造部門などが抱えている課題がクリアできることをわかりやすく伝えることである。実際、エンドユーザー様が3次元設計を取り入れたことで、パートナー様の売上が増えたケースもある。

「例えば、BPAプログラムの報告会で、Showcaseを使って3次元モデルをビジュアライゼーションする提案を行っていたときに、その会社の社長がたまたま見に来られて、商談が一気に進んだケースもあります。ちょうど、その会社では、展示会のコストを30%削減することを目標に掲げていましたが、思うような解決策が見当たらず困っていたのです。しかし、展示会場で3次元モデルをディスプレイ上に表示すれば、試作品を作るコストが削減できます。まさにエンドユーザー様の課題解決につながるソリューションを提供できたのです」と山田氏は語る。

今後、オートデスクでは、BPAプログラムを円滑に進めるために、パートナー様向けのトレーニングも提供していく。日本は欧米に比べて3次元設計の比率が非常に低い。その分、ビジネスの余地が十分にあるので、パートナー様は、そのチャンスを活かしていただきたい。

製造系ソリューションの最新版を発表。モデリング機能などが大幅に強化!

オートデスクは、製造業向け3次元CAD『Autodesk Inventor』や製造系Suite製品の最新版をリリース。ユーザエクスペリエンス、モデリング、ワークフロの3つの領域が大幅に強化されたことがセールスポイントだ。その具体的なポイントをテクニカルスペシャリスト本部 製造ソリューション マネージャーの加藤 久喜氏に聞いた。

粘土細工のような感覚で形状を自由に変更できる

Inventorでフリーフォームの設計をしているイメージ

『Autodesk Inventor』の最新バージョンは、特にモデリングの機能が大きく強化されている。その目玉の一つが、フリーフォーム。最初に粘土のような一つの塊を作り、それを押したり延ばしたりしながら自由に形状を変えられる機能だ。設計者が頭の中でイメージしたものをそのまま形にしていけるので、よりデザイン性の高いものが作れる。

同様の機能としてダイレクトモデリングも実装されている。これは作成済みの3次元モデルを、押したり延ばしたりしながら自由に形状を変えられる機能だ。しかも、変更したところは数値データとして記録され、元の形状に戻せるのだ。例えば、長さ100ミリのものを80ミリに変更してから、それを再び100ミリに戻すことができる。

また、3次元CADを使い込んでいくと、パーツの点数がどんどん増えていく。それによって、処理スピードが落ちる可能性がある。しかし、新バージョンの簡易モードに切り替えれば、そうした問題を解消できる。通常は、パーツの外側の部分だけを表示し、そのパーツを変更するときに全部のデータを読み込むことで処理スピードを向上させている。

例えば、以前は、一つのファイルを開くのに何分もかかる場合があったが、簡易モードに切り替えれば、ほんの数秒で開くことができる。データを読み込む速度は、昔の10倍くらい速くなり、使い勝手が大幅にアップしている。

ただし、3次元CADのパフォーマンスは、ハードウェアの性能にも大きく影響されるので、パートナー様には、高スペックのハードウェアを併せて提案していただきたい。特に『Inventor』の実行環境として、64ビットのOSとSSDを推奨している。

また『Inventor』は、いろいろな形式のCADデータを取り込んで3次元モデルを作成できることが他社製品と異なるアドバンテージだ。最新バージョンでは、そのダイレクトトランスレータ機能も強化された。例えば、Pro/Eで作成したデータを『Inventor』で3次元化し、それを『Showcase』でビジュアライゼーションするなど、データの活用方法が大きく広がる。実際、ダイレクトトランスレータ機能は非常に評判がいいので、大きなアピールポイントになる。

便利なツールを併せて訴求PDMシステムの構築も容易に

ファクトリアセットを作成しているイメージ

オートデスクは『Autodesk ReCap』を活用して、3Dスキャナーで取り込んだ点群データから3次元モデルを作成する提案を行っており、最近は多くのエンドユーザー様に活用されている。最新版の製造系Suite製品に同梱されている『ReCap』を使えば、その利便性がさらにアップする。例えば、工場の床などは基本的に点の集まりだが、それを一つの面として認識できるようになった。これにより、点群データから3次元モデルを作成するスピードが格段に速くなる。

また、製造系Suite製品には『AutoCAD Electrical』という電気制御システムを設計するツールも入っている。今回から、そのライブラリと『Autodesk Inventor』が自動的に連動される仕組みに改善され、両製品の相互運用がよりスマートに行えるようになった。

さらに、データ管理ツールの『Autodesk Vault』も同梱されているが、エンドユーザー様には、その機能を大幅に拡張した有償のProfessional版をお勧めしていただきたい。その理由は、PDMシステムを容易に構築できるからだ。しかも、オートデスクのほぼすべての製品にアドインでき、メニュー画面から直接アクセスできる。例えば、CADで作成したパーツ情報をデータベース化し、設計者以外の人がブラウザ上で閲覧したりできる。「特にデータ管理を効率的に行いたいと考えているエンドユーザー様には、Suite製品と一緒にぜひ提案してください」と加藤氏は語る。

最先端のBIM/CIMソリューションでエンドユーザー様の企業競争力アップに貢献

ここ数年、建築業界や土木・インフラ業界では、BIMやCIMが急速に普及しはじめている。オートデスクの最先端のソリューションを活用すれば、BIMやCIMにスムーズに対応でき、企業競争力を高めることが可能になる。そのビジネス戦略や営業戦略についてAEC/ENI APAC テリトリーセールス シニアセールスマネージャー 岡崎 健二氏に伺った。

BIM製品の市場を拡大し住宅分野にも積極的に提案

国交省が2014年3月に官庁営繕事業の設計業務や工事に適用する「BIMガイドライン」を公表し、建築業界では、BIMの普及が加速度を増している。個人の設計事務所も含め、全国規模でBIMが浸透しているのが現在のトレンドだ。

オートデスクの建築業界におけるビジネス戦略は、国への働きかけなどを通じてBIMの更なる促進に寄与しながら、BIM製品の市場を拡大することである。

特に今年は住宅分野にも積極的に提案していく。例えば、『Revit LT』はコストパフォーマンスに優れているので、住宅案件を扱っている個人の設計事務所のニーズに合致している。また、お客様のBIM活用をさまざまな形で支援していく。その一つが、BIMのオープンカレッジ。Revitユーザーは無償で参加でき、初級、中級、上級に分けてレベルに応じたトレーニングが受けられるので活用していただきたい。

営業戦略では、『Revi t』などのアップグレードキャンペーンも今後実施していく。2次元CADからBIMソリューションへの移行を促すための各種キャンペーンも引き続き展開する。さらに、今年は地方へのマーケティングや営業活動にも力を入れていく。

建築系BIM製品の中核となるのは『Revit』。最新版には、RCの断面リストへの対応など日本のお客様の要望が数多く取り入れられている。同様に『Revit LT』の最新版では、意匠設計の部分で日本のお客様の意見が反映され、より一層使いやすくなっている。

建築系のもう一つの注力製品が、3次元モデルの干渉チェックや施工シミュレーションなどが行える『Navisworks』だ。最新版は機能強化に加え、パフォーマンスが改善されているのでサクサク作業が行え、クラウドレンダリングにも対応している。

また、各種Suite製品に同梱されている『ReCap』も機能強化される。安価になったレーザースキャナーで読み込んだ点群データをBIMモデルに取り込めることから、今後より一層の需要増が期待できる。オプションの『ReCapPro』を導入すれば、測量データなどにも対応可能。さらに今後は、『ReCap360』というWebサービスも提供する予定だ。これにより、モバイル端末などを使いながら情報共有やコミュニケーションが行えるようになる。

土木・インフラ分野ではCIMの活用を強力に支援

一方、土木・インフラ業界では、国交省が2012年11月からCIMの試行モデルを発注するようになり、早急なCIM対応が求められている。そうした中、オートデスクでは、CIM案件の技術的なサポートをより一層強化していく。

例えば、国交省の地方整備局で発注しているCIM試行モデルのほとんどに、オートデスクのCIMソリューションが利用されている。しかし、まだ十分に使われていない機能がたくさんあるので、その活用方法などをプロジェクトごとに支援していく。

営業戦略は、基本的に建築系と変わらない。2次元CADからCIMソリューションへの移行促進と地方での営業活動を強化しながら、土木・インフラ系の主力製品である『Civil 3D』のアップグレードを推進。同時に『InfraWorks』や『Infrastructure Design Suite』などの新しい製品を積極的に提案していく。

特に『InfraWorks』は、大規模な3 次元モデルを作成して各種シミュレーションやビジュアライゼーションが行えるので、今後大きなビジネスになるだろう。クラウドを活用したコラボレーションや概略設計などが行える『InfraWorks 360』という新たな製品も提供している。これは3カ月と1年の期間限定ライセンスで、必要なときに活用できる利点がある。

「震災復興事業やオリンピック事業が進展する中、今やBIMやCIMソリューションは、企業競争力を高めるうえで必要不可欠なものです。企業規模を問わず、お客様に積極的に提案することで新たなビジネスが創出できます」と岡崎氏は語る。