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デジタル教育とは?ICTを教育現場で活用するメリットを解説
掲載日:2024/06/20
デジタル教育とは、ICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)教育と呼ばれることもあり、パソコンやタブレット、デジタル教科書といったデジタル技術を活用した教育環境を構築することを指します。
この記事では、デジタル教育とは何かを、重要とされる理由やメリット、デメリットなどとあわせてご紹介します。
デジタル教育(ICT教育)とは
デジタル教育は、これまで行われていた黒板や紙の教科書、プリントなどを使用するアナログ形式の教育方法から、パソコンやタブレット、電子黒板、デジタル教科書などのICT技術を活用したデジタル形式の教育方法に切り替えることで、児童や生徒の学習効果の向上を図る取り組みを指します。
現在の社会は情報化社会ともいわれており、インターネットに散らばる膨大な数の情報の中から、何が正しく、何が信用できる情報であるかを見極める力が必要となります。そのため、子どもの進路にかかわらず、早い段階から多くのIT技術や情報に触れ、情報化社会で生きるための力を身につけておくことが求められます。
ICTとITの違い
ICTとITは、情報技術に加えて通信や伝達の機能を重視しているかの点で異なります。
ICT:Information and Communication Technology(情報通信技術)
IT:Information Technology(情報技術)
上記のとおり、ITは情報技術そのものを指しているため、パソコンやアプリケーション、ICカードなどあらゆるものが含まれます。一方で、ICTには「Communication(通信、伝達)」の意味が含まれており、情報技術を使用した教育や農業、医療などの産業やサービスの活用方法などを指すときに使われます。
ICTとIoTとの違い
ICTは、先述のとおり情報通信技術を指します。IoTは「Internet of Things」の略で、「モノのインターネット」を指します。IoTには、家電や自動車などさまざまな「モノ」をインターネットとつなぐ技術が含まれ、スマートフォンのアプリケーション上で家電を操作できるスマート家電などが身近な例として挙げられます。
IoT技術はこのような日常的な用途だけでなく、医療現場や工場の設備などでも数多く活用されており、今後もさまざまな場面での活用が期待されます。
現在ICT教育で使われているIT技術の例
現在教育現場では、さまざまなIT技術が活用されています。
ハードウェアでは、パソコンやタブレット、電子黒板、プロジェクターなどが、ソフトウェアでは、学習用アプリケーションや、無線LAN、デジタル教科書、eラーニング、オンライン上で学習や試験が行えるCBTシステムなどが活用されています。このようなIT技術はさまざまな学校で導入が進んでおり、全国的にICT教育が推進されています。
デジタル教育の目的
文部科学省では、学習指導要領における情報活用能力を、以下のように定めています。
参照:【総則編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説(文部科学省)
この定義のとおり、デジタル教育を行うことで、適切な情報を取捨選択できる能力や、得た情報をわかりやすく他者へ発信する能力、情報の取得や伝達に必要なデバイス・ツールを操作する能力、個人情報の取り扱いなどセキュリティに関する能力を養うことが目的とされています。
また、上記の定義を踏まえて文部科学省が発表した「学習の基盤となる資質・能力としての情報活用能力の育成」では、具体的にどのような学習内容を想定しているかなどが詳しく挙げられているため、あわせてご覧ください。
デジタル教育が重要な理由
デジタル教育は、将来的にも教育現場で特に必要な要素として重要視されています。ここでは、デジタル教育が重要な理由についてご紹介します。
突然の休校措置にも対応するため
2020年3月には、新型コロナウイルス感染症の拡大により、全国的な一斉休校の措置が取られました。一斉休校が明けた後も、感染拡大による休校や学級閉鎖などが相次ぎ、教室での思うような授業の進行が難しくなりました。
このような感染症の拡大による一斉休校は今後また発生する可能性があり、いつでも児童や生徒が自宅でも十分に学習を進められるよう各家庭をサポートし、デジタル端末を活用できるネットワーク環境を整える必要があります。
教員の長時間労働を軽減するため
文部科学省の「学校教育情報化の現状について」によると、TALIS(OECD国際教員指導環境調査)で公表された1週間当たりの労働時間について、日本の教員の労働時間は世界平均の38.3時間(中学校)に対して54.4時間(小学校)・56.0時間(中学校)と大幅に上回っていることが明らかになっています。特に事務作業にかかる時間が海外の学校と比べて多く、校務の効率化が求められています。
このような校務のサポートに、校務支援システムをはじめとしたさまざまなデジタルツールを活用することで、業務効率化につながります。
ただし、校務支援システムは多くの学校でも導入されているものの、「校務系データと学習系データの連係ができず不便」「自宅から校務支援システムにアクセスできない」などの課題が残り、システムを活用できていないケースも見られるため、利用するシステムや運用方法の見直しも今後必要です。
GIGAスクール構想をより推進するため
GIGAスクール構想は、発表から2023年度までをGIGA第1期、2024年度から2028年度までをGIGA第2期と定めています。
GIGA第1期では、各学校へのパソコンやタブレットといったデジタル端末の配布と、ネットワーク環境の整備を呼びかけていました。これから取り組むGIGA第2期では、デジタル端末を授業で使用する頻度を増やし、より子どもたちが学習に活用できる環境をつくり、正しい情報を見つけ出す力や、パソコンなどの機器やデジタルツールの操作スキルをより高めることを目標としています。
デジタル教育のメリット
ICTを活用したデジタル教育のメリットは、次のとおりです。
アナログ形式の授業ではできなかったことができる
アナログ形式の授業では、黒板と紙の教科書やプリントを使用することが一般的でした。しかし、パソコンやタブレット、デジタルツールを活用することで、児童や生徒の学習の幅が広がります。
例えば、Microsoft Teamsなどのビデオ通話ツールを利用することで、海外の学校とのやりとりを実現できます。また、入院中で学校に行けない子どもに対して遠隔から授業を配信できるため、遅れが生じることなく学習を進められます。
児童や生徒の学習を効率化できる
これまでのアナログ形式の授業における板書では、教員が黒板に書いたことを児童や生徒がノートに書き写す方法が一般的でした。このとき、児童や生徒が書き写し終わるのを教員が待つ時間が発生したり、写し終える前に板書を消されてしまい、子どもたちが授業内容を把握できなかったりするケースがありました。
しかし、タブレットやチャットツールなどを活用することで、黒板の内容を児童や生徒に一斉送信できます。児童や生徒が板書を書き写す時間がなくなるため、自身で重要な箇所のメモをまとめるなどの時間が生まれやすく、学習効率を上げられます。
一人ひとりにあった学習環境を提供できる
これまでの学習方法では、児童や生徒の理解度に関係なく、全員が同じ難易度・同じ内容の問題を解かせることが一般的で、子どもによっては難しい・簡単すぎると差が出るケースもありました。
しかし、デジタル教育では、AIが児童や生徒の理解度に合わせて適切な難易度の問題を選定します。また、視覚や聴覚の支援が必要な子どもに対しても、デジタル教科書での色の調整や音声読み上げなどの機能を活用することで、快適な学習を実現できます。このように、デジタル教育では児童や生徒一人ひとりのスキルや個性に合った学習環境を提供できます。
教員と子どもたちでの双方向型の学習ができる
これまでの授業方法では、教員が児童や生徒に一方的に講義し、教員が中心となって授業を進めることが一般的でした。そのため、児童や生徒の理解度を図るためにはテストを実施し、採点を通して個別に確認する必要がありました。
しかし、デジタル教育により端末上で児童や生徒の学習状況を一元管理できるようになることで、一人ひとりの習熟度を把握しやすくなります。
また、授業中はパソコンやタブレットで児童や生徒の画面を共有し、意見を述べたりグループで話し合ったりする機会を増やすことで、教員が一方的に話すのではなく、教員と子どもたちがコミュニケーションを取りながら学びを深める双方向型の学習が可能になります。
授業内容をわかりやすく伝えられる
紙の教科書や資料集では、図やイラストのみで内容を伝える必要があるため、内容が複雑になるほど、児童や生徒が理解しづらくなるなどの課題もあります。
このとき、デジタル教科書を活用することで、児童や生徒がタブレット上でアニメーションや動画を見ながら歴史の移り変わりを学んだり、画面上の図形を実際に指で触れながら動かして問題を解いたりすることなどが行えるため、理解を促しやすくなります。ほかにも、理科の実験の様子を録画したものを後から自宅で見直しながらレポートを作成するなど、課題の効率化にも役立てられます。
教員同士や保護者との情報共有を効率化できる
教員の業務では、児童や生徒のコミュニケーションだけでなく、教員同士や保護者と連絡を取り合う機会も頻繁に生じます。このとき、直接会って話したり電話をかけたりすることで、互いの時間を浪費してしまうケースも多いです。
パソコンやタブレット、スマートフォンからアクセスできるチャットツールを用いて、チャット上で情報共有やお知らせの発信、児童や生徒の出欠連絡などを行うことで、教員や保護者の連絡を効率化でき、労働時間や負担の軽減につながります。
デジタル教育のデメリット
デジタル教育では、上記のようなメリットがある一方でデメリットも複数挙げられるため注意が必要です。デジタル教育の具体的なデメリットは、次のとおりです。
自分で書く力・考える力が低下する
インターネット検索や、キーボードでの文字入力に慣れることで、児童や生徒が自身で考えたり、手で文字を書いたりする能力が低下します。
そのため、わからない問題に直面した際に、自分で考えずにすぐに検索して答えを調べてしまうことや、パソコンやタブレットでの文字入力に慣れてしまい、手書きで文章を書いた際に漢字が書けなくなる恐れがあるため、教員側でも検索結果にフィルターをかけたり、手書きで学習する機会をゼロにしないようコントロールしたりすることが必要です。
インターネットの使用によるトラブルが発生する
児童や生徒が学校で早い段階からインターネットを使用する機会が増えることで、プライベートでもパソコンやタブレット、スマートフォンを通じてさまざまなWebサイトやSNSを利用することが増えるでしょう。
しかし、学校や家庭でインターネットの使用に関するルールを取り決めていない場合や、情報モラル教育を徹底できていない場合、子どもが悪質なサイトにアクセスしトラブルに巻き込まれたり、長時間の使用による体調不良などを引き起こしたりする恐れがあります。
ツールの管理や不具合への対応で負担が増える恐れがある
さまざまなデジタル機器やツールを導入することで学習や校務の効率化が期待できる一方で、各種ツールの管理やセキュリティ対策、定期的なメンテナンス、不具合が発生した際の対応などの作業が発生する場合があります。
このような管理作業はアナログ形式の教育環境では生じないため、かえって教員の負担が増えてしまう可能性があります。
機器やツールによっては費用対効果が得られない場合がある
パソコンやタブレットなどの機器、ツールによっては作業内容が限定されることがあります。例えば、キーボードに接続できないタブレットを使用している場合はタッチやペンでの入力しか行えず、数学の学習に特化したツールを使用している場合は、国語や外国語などの授業に活用できません。このように活用の幅が制限されることで、機器やツールの導入にかけた費用に対して効果を得づらくなる可能性があります。
パソコンの起動などで授業が遅れることがある
パソコンの使用年数や空き容量、スペックなどによっては、パソコンのOSやアプリケーションの起動、操作に時間がかかり、授業の進行に支障が出る場合があります。
また、学校のネットワーク環境が整備されていない場合も、使用しているパソコンの台数に対して帯域が不足しているなどの原因から、通信回線が混み合い、満足にインターネットを介した操作が行えないことがあります。
端末の初期費用や維持費がかかる
パソコンやタブレットなどの端末を購入する際は、初期費用や維持費が発生します。さらに、端末に不具合が生じた場合や使用年数が長期にわたる場合は、修理費や買い替えによる端末購入費なども発生し、高額になるケースもあります。また、パソコンやタブレットの本体以外にも、マウスやキーボード、ヘッドホンなどの周辺機器をそろえる場合は、周辺機器にかかる初期費用や維持費も必要です。
デジタル教育を推進するうえで今後取り組むべきこと
今後の教育現場では、社会がさらにデジタル技術の進化を遂げることに連動して、最新技術を積極的に活用して学習や校務の効率化を図ることが大切です。ICTを活用したデジタル教育を推進するうえで今後取り組むべきことは、次のとおりです。
教員のデジタルへの意識を変える
パソコンやタブレットの導入を行っていない学校や、最新のデジタルデバイスやツールなどを導入する際、教員の中にはデバイスやツールの扱いに慣れていないことから、抵抗を感じる人もいるでしょう。また、紙とデジタルツールの使い分けが難しく、かえって授業や校務の効率が落ちてしまうケースもあります。
デジタル教育を推進するためには、積極的に最新のデジタル技術を取り入れ、アナログの方法で行っている作業をデジタルへ置き換えるといった意識を持つことが大切です。
教員のスキルを高めるための研修を実施する
先述のとおり、教員が新しく導入したデジタルデバイスやツールなどをうまく扱えない場合、授業でも活用できず、児童や生徒の学習に支障をきたす可能性があります。そのため、これまでの業務の方法を一新してデジタル化を図る際は、教員を対象とした研修を実施することをおすすめします。あらかじめ研修やサポートを受けておくことで、教員がデバイスやツールの活用方法を理解したうえで業務に臨めるため、スムーズな授業や校務が実現できます。
教員の事務作業をより一層効率化させる
先述のとおり、日本の教員は特に長時間労働が課題となっており、テストの作成や採点、次回の授業の準備、子どもの学習状況の確認、今後の指導方針の策定といった事務作業に多くの時間を費やしています。
校務支援システムをはじめとしたデジタルツールの導入など、デジタル技術を活用した業務効率化は現在も推進されていますが、教員の長時間労働はいまだに課題とされているのが現状です。そのため、AIを活用した採点補助など、さらなる先端技術の活用が必要です。
ネットワーク環境を改善する
2024年4月に文部科学省が発表した「学校のネットワークの現状について」では、文部科学省が推奨する通信帯域を満たしている学校が2割ほどであり、学校の規模が大きくなるほど推奨帯域を満たす学校が少ないことが示されています。そのため、快適な通信環境での学習を行うために、ネットワークアセスメント(評価)や通信契約内容の見直し・契約内容の変更などが求められます。
文部科学省が提供している「GIGAスクール構想の実現 学校のネットワーク改善ガイドブック」では、校内でのネットワーク環境の構成イメージなどをわかりやすく解説しているため、あわせてご確認ください。
学習用端末の家庭での取り扱いルールを定める
学習用のパソコンやタブレットは、自宅へ持ち帰って宿題を行ったり個別学習に活用したりすることで、さらに学びの幅を広げることができるでしょう。しかし、家庭では時間的・空間的な制約がなくなる分、利用時間や場所についてのルールを児童や生徒と一緒に取り決めることが大切です。
このように、学校が一方的にルールを提示するのではなく、子どもたちの意見も聞きながら双方が最適だと考えられるルールを設定することで、ルールを逸脱した端末の利用などのリスクを防ぎやすくなります。
デジタル教育の効果を高めるためのコツ
デジタル教育での子どもたちの学習効果の向上や、教員の業務効率化を推進するために意識すべきポイントは、次のとおりです。
学校同士で情報交換する
デジタル教育では、さまざまな機器やツールを使用します。また、同様のツールを使用していても、どのように活用しているかは学校によって異なるでしょう。学校同士で「どのように活用しているか」「このような活用方法で業務効率化できた」などの情報交換を行うことで、自身の学校のデジタル環境をよりよくすることができます。
生徒と教員がICT活用に必要な知識を身につける
教員だけでなく、児童や生徒もデジタル機器やツールの使用方法や、情報モラル、セキュリティ知識などを身につける必要があります。
教員や保護者のサポートによってある程度の知識を習得させることは可能なものの、学校側で対応しきれないケースも考えられます。その場合は、ICT環境の活用を促進するための助言や支援を行う「ICT活用教育アドバイザー」や、教員のICT活用(授業や校務、教育研修)などをサポートする「ICT支援員」などの力を借りることで、子どもたちのICT活用への理解を深められるでしょう。
デジタル教育の事例
最後に、現在教育現場で活用されているデジタル端末やツールについてご紹介します。
タブレット
タブレット端末では、直接端末の画面を指で触れたり、ペンで書き込んだりしながら学習ができます。コンパクトな作りのため、教室間の移動時や校外学習時の持ち運びもしやすい点が特長です。カメラ機能やメモ機能を活用することで、実験内容や風景を撮影し、重要な箇所をメモで記録できます。また、後から写真やメモを見ながらレポートを作成できるため、実験時の様子を忘れてしまいレポート内容が薄くなってしまうといったリスクも防げます。
デジタル教科書
デジタル教科書では、紙の教科書と同一の内容を記載しつつも、文字の拡大機能や文章の音声読み上げ機能、色の変更機能、ペンやマーカーでの書き込み機能など、さまざまな便利な機能を備えています。これにより、「教科書が見づらい」「誤って書き込んだ内容が消せない」といった課題を解消できます。
また、デジタル教科書では実際に指で触れて操作できるワークシートや、動画やアニメーションによる詳細な解説、ネイティブの音声による文章の読み上げなどの機能も備えており、児童や生徒の学習をより効果的に進められます。
電子黒板
電子黒板では、黒板を使って行う書き込みなどの作業を電子化できます。教科書の内容を大きく画面に映してペンで書き込むことで、児童や生徒は教科書の内容と連動して板書を読めるため、内容を理解しやすくなるでしょう。
また、体育での児童や生徒の動きや、理科の実験で撮影した動画を後で電子黒板で表示することで、クラス全体での振り返り学習がしやすくなります。
生徒用パソコン
生徒用パソコンでは、さまざまなツールやアプリケーションを活用することで、レポートや資料の作成が効率よく行えます。
レポート作成時には、Microsoft Excelなどの表計算ツールを使用した表やグラフの作成、Microsoft Wordなどの文書作成ツールを使用したレポート本文の作成などが行えます。また、グループやクラスで発表をする際は、Microsoft PowerPointなどのプレゼンテーションツールを使用することで、発表内容をスライド形式で資料化できます。
まとめ
この記事では、デジタル教育(ICT教育)とは何かを、重要とされる理由やメリット、デメリットなどとあわせてご紹介しました。
パソコンやタブレットをはじめとしたデジタル技術を教育環境で活用することで、児童や生徒にとってよりわかりやすい授業が行えたり、教員の業務効率化につながったりするものの、デバイスやツールの導入や、快適な通信環境の整備には初期費用や維持費がかかります。
デジタル化による費用対効果が得られるよう、現在の子どもたちや教員、学校全体の状況などを見ながら、最も必要なデバイスやツールは何かを見極めてデジタル技術を取り入れることが大切です。