【連載】
HCIの売り方
予算上限500万円。この条件で使える
HCIは提案できる?
掲載日:2021/05/18

仮想化基盤としての3Tier構成の普及は、その管理の煩雑さという新たな課題につながった。その解決策として注目されるHCI(Hyper-Converged Infrastructure)だが、中小企業の3Tierサーバーリプレースを考えた場合、コストの観点で効果に見合った提案が難しいのが実情だった。こうした中、中小企業への提案において大きな役割を果たすことが期待されているのがマイクロソフトのHCIソリューションだ。今回はオンプレサーバーのリプレース案件を中心にHCI提案の可能性を具体的に見ていきたい。
省スペースの観点でも注目したいエッジサーバーHCI
HCIと聞くと、1000ユーザー以上のシステム環境を前提にした仕組みが思い浮かぶ。確かに日本でHCIの先行ランナーであるNutanix導入事例を見る限り、1000ユーザー以上のVDI構築やインメモリデータベースSAP HANA構築など、大企業の課題への対応が目覚ましい。
仮想化基盤として広く普及する3Tier構成の課題である「管理の煩雑さ」「拡張の困難さ」を解決するHCIは、管理の一層の省力化を求める中小規模のエンドユーザー様にとっても大きな意味を持つ。少なくとも、x86サーバー、SANスイッチ、ストレージのそれぞれを専用ツールで管理する手間が不要になる。
一般的な中小企業のオンプレサーバーリプレース提案において、HCIという選択肢はあり得るのだろうか。その観点で注目したいのが、Windows Server 2019 DatacenterとAzure Stack HCIという二つのマイクロソフトのHCIソリューションだ。レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ合同会社 ソリューション・アライアンス本部 Microsoftアライアンス担当の米津直樹氏はこう説明する。
「HCIに不可欠なSDNやSDS、管理ツールがOS標準機能として提供されることで、先行する他社ソリューションと比較し、より低コストで構築できるようになったことが注目すべき理由です。例えばVMwareの場合、SDNとして高額なVMware NSXを購入する必要がありますが、マイクロソフトのHCIであればその必要はありません。また2ノードを最小単位とし、3ノードまでは10Gスイッチが不要という特長もあり、HCIのローレンジ価格帯の拡張に貢献していることは間違いありません」
レノボ製品を例に上げると、ThinkAgile MXの2ノード構成でハード価格330万円(税抜)、構築費や3年間の保守・サポート込みで600万円(税抜)からというのが価格感の目安。さらにエッジコンピューティング端末として好評なレノボの1UサーバーによるHCIであればハード価格200万円(税抜)、構築費も含め340万円(税込)からというのがその目安になる。これなら3~5年のサポートも含め、500万円以内に収めることも十分可能だ。
「1Uで2ノード搭載可能HCIは機能的には、4、5台のVMが動かせるというのが一つの目安です。HCIには省スペース化というメリットもありますが、その観点で1Uサーバーに注目するエンドユーザー様も多いですね。実際、レノボの場合、1Uサーバー2ノード構成がHCIの売れ筋の一つです。特に狭いオフィスの場合、2U分のスペースで電源冗長化まで図れるという特長が広く受け入れられています」
コロナ禍を受け、オフィス環境の見直しを進める企業も少なくない中、4、5台のVMが稼働するサーバーリプレースであれば、1UサーバーによるHCI提案は重要な選択肢の一つになりそうだ。
10VM程度のサーバーリプレースでは、2Uサーバー2ノード構成のThinkAgile MXシリーズ オールインワンモデルに注目したい。BP事業部オリジナルとして提供されるキャンペーンモデルの場合、2Uサーバー2ノード構成によるHCIを構築や5年間の保守込みでパートナー様に580万円(税込)で提供する。エンドユーザー様専用電話番号を用意し、技術者と直接話せるといったサポートの充実度も注目したいポイントだ。
5年後の縛りとしても期待したいHCIソリューション
マイクロソフトのHCIには、ローレンジ価格帯への対応に加え、もう一つ大きな特長がある。それはIOPS性能の高さだ。BP事業部オリジナルモデルはキャッシュがSSD、キャパシティ領域がHDDという低コストを意識したハイブリッド構成だが、それでも2ノード構成で40万IOPSという他社製品を大きく凌駕するスピードを実現している。
「圧倒的な速さの背後には、それぞれの設計思想の違いもあります。例えばNutanixの場合、CPU、メモリがアーキテクチャ世代を問わず拡張が可能というメリットを持つ一方、処理速度が旧世代のアーキテクチャに引っ張られてしまうというデメリットがあります。それに対し、拡張に制約を課すことでハードの性能を最大限に引き出すというのがマイクロソフトのHCIの考え方です。どちらが優れているかは、拡張性を優先するか、それともスピードを取るかという考え方次第で変わってきます。Nutanixの場合『メモリを追加したのにスピードが変わらない』という声も少なくありませんが、それもこうした基本思想が関係しています」
IOPSの速さに注目したVDIへの活用も進みつつある。マイクロソフトがVDIソフトを提供していないこともあり、これまで同社のHCIソリューションをVDIに利用する事例は多くなかった。しかしセキュリティ製品で有名なSkyをはじめとする、サードパーティによるVDIソリューションの登場により、その状況は変わりつつある。
「Skyさんとのコラボレーションはオールフラッシュで構成しているのですが、IOPSの速さもあり、『これはオーバースペックだったかもしれないね』という話をしているところです。なおギガスクールなどの文教市場を対象にした同ソリューションは現在、製造業などへの水平展開も進みつつあります」
オンプレサーバー移行提案の基本といえる、5年後を見据えた最適解を提案するという考え方はHCIであっても同じだ。HCIという新たな仮想化基盤への移行は、次回選定の縛りとして機能することも考えられそうだ。
「Windows Server 2012/R2のEOSが2023年に迫る今、HCIが重要な選択肢になります。マイクロソフトはWindows Server 2022でもHCIをサポートすることをすでに明言しています。サブスクリプション化されたAzure Stack HCIも含め、マイクロソフトのHCIソリューションが5年後のハード選定において、一定の縛りになることも十分期待できると思いますね」