【連載】
5Gがもたらす生活の変化(1)
10年ぶりに進化した次世代の携帯電話通信技術
掲載日:2021/08/17
2020年春から携帯電話事業者各社が「5G」を冠するサービスや新機種を次々と発表し、5Gという言葉を盛んに耳にするようになった。しかし「5Gとは?」という問いへ的確に答えられる人はそう多くない。そこで今回は5Gとはそもそも何のことか、その特長と課題を解説する。
「第5世代移動通信システム」略して「5G」
昨今よく見聞きする「5G」(ファイブジーまたはゴジー)とは、第5世代移動通信システムを意味する略語である。5Gの「G」は「Generation」のことで、つまり世代を意味する。移動体通信システムと聞くと難しく感じられるかもしれないが、普段誰もが当たり前のように活用しているスマートフォンや携帯電話に使われている無線通信技術のことだ。
5Gの前は「4G」、その前は「3G」ということになる。日本で4Gサービスが開始されたのは2012年、3Gサービスが開始されたのは2001年であり、おおよそ10年ごとに移動通信システムの世代が新しくなっている。
5Gは「高速・大容量」「低遅延」「多接続」という3つの利点を持つ。現行の4Gと比べながら、3つの利点について紹介する。
高速・大容量通信
通信速度の向上は3つの利点の中でも分かりやすい。通信速度が速くなることで、大容量データのダウンロードやアップロードがより短時間で終わる。
4Gの通信速度は、最大1Gbps程度。1秒間に1Gbitのデータをダウンロードできる。比べて5Gの通信速度は最大20Gbps。4Gの20倍の速度で通信が行われる。
例えば、2時間の映画のデータ量(DVD画質)を4GBとすると、4Gではダウンロードに約32秒かかる計算となる。しかし5Gのフルスペックならそれがたったの約1.6秒で完了する。
通信の低遅延
データを送信してから、それが受信されるまでのタイムラグのことを遅延という。例えば、スマートフォンを使ってビデオ通話を利用すると、音声や動画に少しズレがあり、遅れて届く。これが遅延によるものだ。
4Gでは遅延が10ms(0.01秒)ある。携帯電話網を利用した遠隔操作で建設現場の重機を動かす、または手術ロボットを動かすといった場合、この遅れにより精密な操作が難しかった。しかし、5Gなら遅延は1ms(0.001秒)となる。4Gと比べて10分の1の遅延になるため、こうした遠隔操作の違和感は減り、精度が大きく向上する。
同時多接続通信
同時多数接続とは、一つの基地局に同時に多数のデバイスを接続できることを指す。私たちが利用しているスマートフォンや携帯電話の電波は、「自分のスマートフォン→自分の近くの基地局→相手の近くの基地局→相手のスマートフォン」というように、必ず基地局を経由して相手に届いている。
お祭りや初詣など多くの人が一箇所に集中して、スマートフォンや携帯電話がつながりにくくなった経験がある人も多いだろう。これは基地局の同時接続数の制限によるものだ。
5Gでは、これまでのスマートフォンや携帯電話だけでなく、いわゆるIoTと呼ばれる家電やセンサーなど身の回りのあらゆる機器がネットに接続されることが前提とされている。そのため同時接続数が4Gと比べて数十倍に向上しているのだ。
5G利用の課題
5Gでは通信速度向上とは別に、利用可能な周波数帯も追加。新たにSub 6と呼ばれる6GHz未満の周波数帯と、ミリ波と呼ばれる28GHz帯を利用できる。Sub 6は、4Gで使われてきた周波数(3.5GHz帯や2GHz帯、1.7GHz帯など)と近い周波数なので、技術的なハードルもそれほど高くはなく、カバーエリアも広い。しかし、ミリ波の利用には課題がある。
上に挙げた5Gの3つの利点をフルに生かすためには、カバーエリアが広いSub 6と帯域幅が広く高速通信が可能なミリ波の併用が必須となる。だが、ミリ波はこれまでに使用されてきた4Gなどの周波数と比べて、「長い距離電波が飛びづらい」「電波の回り込みがあまりできず、建造物などに弱い」と電波の伝わり方に特性がある。このことから5Gを利用できるエリアは狭くなる傾向があり、利用を拡大するには基地局を増やす必要がある。
このことから、5Gサービスをあまねく利用するにはまだまだ課題があり、実際、現在は企業や自治体などでの限定的な導入にとどまっている。しかしこの課題を解決し、5Gが普及することで我々の生活は大きく変わっていくだろう。次回は5Gの普及が我々の生活にどのように関わってくるのかを解説していく。