【連載】
くらうどーる
仮想デスクトップを手軽に導入!
「Windows 365」がくらうどーるに登場
掲載日:2021/09/07

Microsoftが新しい仮想化ソリューション「Windows 365」を2021年8月2日にリリース。2021年9月中には「くらうどーる」にも追加された。MicrosoftではIaaS型のAzure Virtual Desktop(AVD)を提供しているが、Windows 365はDaaS型のVDI(仮想デスクトップ)となる。では、いったいどこが違うのか、メインのターゲットユーザーはどこなのかを確認しておこう。
Windows 365のターゲットユーザー
Windows 365はクラウド経由でWindows 10、11を使うVDIサービスだ。
従来のVDIはシステム管理者の負担が大きく、費用もかかることから、導入するのはシステム部門のある大手企業が中心であった。
しかし、テレワーク推進に伴って、中小企業でもVDI導入を望む企業が出てきている。時間や場所の制約なしに働くためには、PCの持ち出しや個人のデバイス・PCの使用も考えなくてはならないからだ。
PCをオフィスの中で使う場合は、物理的にロックしておけるが、持ち出した場合は紛失・盗難のリスクが生じる。また、ネットワークを通してサーバー攻撃を受ける危険性も高くなる。こういったリスク対策として、VDIは有効だ。
クラウド型VDIの場合、業務上のデータはクラウド上にあるため、万が一PCの紛失・盗難があっても社内のデータは守られる。
また、災害でPCが起動しなくなるようなことがあっても、代替PCからデータへのアクセスが可能なため、BCP(事業継続計画)対策としてもVDIは有効だ。
近年の災害やコロナ禍から、VDIを取り入れる企業は次第に増えていくだろうと見られている。こういった潮流から、Windows 365のターゲットユーザーは、PCを使う全業種にわたると考えられる。
今まで派遣社員にはモバイル用のPC貸し出しが難しいという理由で在宅勤務を認められなかった企業も、Windows 365により解決できる可能性もある。
Windows 365では次のことが実現できるからだ。
● 従業員は、いつでもどこからでも会社のリソースに安全にアクセスできる。
● 派遣社員や臨時従業員も安全に会社のリソースやアプリにアクセスできる。
● 私物のPCの利用(BYOPC=Bring your own PC)が可能になる。
Windows 365は、Windowsマシン以外に、MacやAndroid、iOS端末からも利用でき、それぞれに専用クライアントアプリも用意されている。
仮想デスクトップ環境はストリーミング配信となり、Windowsマシンで作業途中にサインアウトした場合でも、iOS端末で終了したところから作業再開することができる。まさしく「いつでも、どこでも」を実現できるということだ。
また、Windows 365はMicrosoftのクラウドサービスとシームレスに連携できることも強みだ。
Windows 365の機能とAVDとの違い

Azure Virtual Desktop(以下AVD)は、システム管理者がAzure上にVDI環境を構築する必要があるが、新たに登場したWindows 365はライセンスを購入すればすぐに使える。AVDでシステム管理者が管理していたコンソールを、Microsoft側で管理しているためだ。
AVDの利用は必然的にシステム管理者がいるような大規模企業に限られてきたが、Windows 365はサブスクリプション型での契約のため中小企業でも導入が検討できる。そのためもあってか注目度は高く、Microsoftが提供していた試用版は申し込みが多く短期間で予定数に達してしまった(2021年8月現在)。
AVDは従量課金制だが、Windows 365は、月額固定料金のサブスクリプション型であることが大きな特徴だ。契約は1ユーザー/月となるため、月ごとに人員追加、減数時のライセンス増減が柔軟に実施可能で、予算も立てやすい。
(ただし、Enterprise版は一部従量課金の設定あり)
従業員一人一人のPC使用状況、要望に応じて、CPU、メモリ、ストレージのスペックを選べる。例えば動画ソフトなどを使う従業員と、バックオフィス担当で経理ソフトしか使わない従業員とでは、必要なスペックは全く異なる。こういった場合、それぞれに合わせたプランで契約できるため、必要な分だけの課金で済む。
なお、プラン変更については、Enterpriseのみサイズ変更機能を使うことでアップグレードが可能となり、ダウングレードは不可となっている。Businessはアップグレード、ダウングレードともに不可となっている。
AVDはWindows 10、11、Windows Serverのマルチセッション・デスクトップとして利用できるが、Windows 365はWindows 10、11のシングルセッションのみとなるなど、AVDでできることが全てカバーできるわけではないことには留意しておきたい。
Windows 365は各ユーザーが個別の仮想デスクトップを使用するが、AVDでは複数のユーザーが単一の仮想デスクトップを共有することも可能だ。また、AVDではWindowsのみならず、Windows Serverも対象となる。
Windows 365のプラン
Windows 365には300名以下の中小企業向けの「Windows 365 Business」と上限人数を制限しない大企業向けの「Windows 365 Enterprise」の2種類がある。
それぞれにセキュリティ管理の方法が異なるなどの違いはあるものの、システム構築が不要なことと、セキュリティが強化されていることに変わりはない。
Enterpriseは、プロビジョニング・管理にMicrosoft Endpoint Managerを使用し、脅威対策やデバイス管理を行う。システム管理者がいるのであれば、Business版よりも応用範囲が広いと言える。ただし、そのため以下のライセンス付与が前提条件となっている。
● Windows 10/11
● Microsoft Endpoint Manager
● Azure AD P1
● Microsoft Azure サブスクリプション
この4点は個別に購入が可能だが、Microsoft 365 F3/E3/E5、Microsoft Business Premium、Microsoft 365 Education学生使用特典のサブスクリプションにも含まれる。
さらに、Azure上に仮想ネットワークを作成し、仮想マシンを設置するなどの事前構築も必要となる。Azureの従量課金料金も発生するため、注意が必要だ。
それに対して、Business版は、前提条件も設定も不要で、WebブラウザーでWindows 365ポータルにアクセスするだけで使える。
Windows 365の仕様と価格
Windows 365 Business (中小企業向け) |
Windows 365 Enterprise (大企業向け) |
||||||
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Basic | Standard | Premium | Basic | Standard | Premium | ||
ユーザー数 | 300ユーザーまで | 無制限 | |||||
スペック /価格 |
最小 | 1vCPU 2GB RAM 64GB |
2vCPU 8GB RAM 126GB |
4vCPU 16GB RAM 128GB |
1vCPU 2GB RAM 64GB |
2vCPU 8GB RAM 128GB |
4vCPU 16GB RAM 128GB |
3,260円 | 6,120円 | 9,510円 | 2,720円 | 5,570円 | 8,970円 | ||
最大 | 2vCPU 8GB RAM 256GB |
2vCPU 8GB RAM 256GB |
8vCPU 32GB RAM 512GB |
2vCPU 8GB RAM 256GB |
2vCPU 8GB RAM 256GB |
8vCPU 32GB RAM 512GB |
|
5,980円 | 7,340円 | 22,010円 | 5,440円 | 6,790円 | 21,470円 | ||
プロビジョニング /管理 |
Windows 365ポータル ※ windows365.microsoft.com |
Microsoft Endpoint Manager (脅威対策、デバイス管理) |
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デスクトップ版アプリ (Office/Outlook /OneDrive) |
● ※ Officeありの365契約が別途必要 |
● ※ Officeありの365契約が別途必要 |
|||||
Microsoft Teams | △ ※ 通話 /チャットのみ |
● | ● | △ ※ 通話 /チャットのみ |
● | ● | |
Microsoft Visual Studio Power BI Dynamics 365 |
× | × | ● | × | × | ● | |
ハイブリッド 特典 |
割引 | あり(最大16%割引) | なし | ||||
内容 | Windows 10 Proデバイス使用ユーザーへの運用 | 前提条件のMicrosoft 365ライセンス適用ユーザーは追加ライセンス不要 | |||||
ネットワーク利用料 (ダウンロード) |
なし(基本料金に含まれる) ※ データ量の制限あり |
Azure帯域幅の価格が適用 (従量課金/GB) |
|||||
前提条件 | Windows 10/11 |
不要 | 必要 ※ Microsoft 365 F3/E3/E5、Microsoft Business Premiumに含まれる |
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Microsoft Endpoint Manager |
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Azure AD PI |
|||||||
Microsoft Azure サブスクリプ ション |
不要 | 必要 (仮想NW構築、帯域幅課金のため) |
注意点
● 1つのCloud PCで複数ユーザーの共有は不可。
● ハイブリッド特典を利用する場合は有効なWindows 10 Proライセンス付きのデバイスを所有し、かつ主に仕事に利用するデバイスである必要がある。また、割引適用のためにWindows 10 Proライセンス付きデバイスから月1回以上、Windows 365へのアクセスが必要。
● Windows 7~10で使用中のアプリはWindows 365との互換性はあるが、事前の検証を推奨。
Windows 365のセールスポイント
テレワーク推進やセキュリティ強化を考えている企業に、Windows 365が有用であることをアピールしたい場合、セールスポイントは以下の点に集約できる。特にシステム担当がいない中小企業は、ベンダーにシステム構築を依頼することなく導入できることは大きいメリットだろう。
● デバイスを問わず利用できるパーソナルなCloud PC
● 簡単に導入できる
● ユーザーごとに月単位で契約できる
● コンピュートとストレージの拡張が容易
● VDIの経験・スキルが不要
トライアル版は現在受付を中止しているが、まずは最小構成での契約を勧めて、使用状況に応じてアップグレードできることを伝えてみてはいかがだろうか。