【連載】
ITトレンド解説「インダストリー5.0」(2)
機械と人が協働する「インダストリー5.0」とは
掲載日:2021/11/30

インダストリー5.0のコンセプトは、高度なオートメーション(機械による自動化)と人との協働だ。インダストリー4.0時代からの取り組みである「スマートファクトリー」や「サイバーフィジカルシステム」をベースとしつつも、その中で人がどのように働いていくのかがポイントとなる。
オートメーションと人が協働する未来の工場とは

前回紹介したように、スマートファクトリーでは工場に備えられているロボットなどの製造機器・各種センサーをはじめとする制御機器・従業員の操作するPCやスマートデバイスなど、さまざまな場所からデータを収集し、それらを学習・分析することで高度なオートメーションを実現する。
さらにインダストリー5.0では、工場内で働く人に安全で効率の良い配置や動線を示すなど、必要に応じて最適なタイミングで情報を提供する仕組みが求められる。ほかにも次世代型の軽量型協働ロボット(コボット)など、機械と一緒に働くための充実した設備が必要だ。
では、機械の保全を例にとって考えてみよう。工場内のセンサーデータを分析し、機械の故障時期を事前に把握する予知保全の仕組みを導入する工場は多い。そこでインダストリー4.0のスマートファクトリーでは「交換部品を自動的に手配する」「生産ラインを変更する」「人員配置を変更する」といったことを、工場自体が自律的に判断して実行する。
さらに一歩進んだインダストリー5.0では、保全対象の機械近くで人が働いているのであれば「部品交換の指示を出す」「交換部品や作業に必要なコボットを作業者に届ける」「部品交換手順のマニュアルをビジュアルで表示する」といったことなども実行できる。実際、部品やコボットの配送には、工場内を自在に動くロボットやドローンを利用する工場も存在しているのだ。
データを仮想世界でシミュレーションする重要性
スマートファクトリーには、現実世界(フィジカル空間)から取得したデータを仮想世界(サイバー空間)で分析し、シミュレーションする「サイバーフィジカルシステム」の仕組みと、そのシミュレーション結果をフィジカル空間に自動(または簡単な指示)で反映できる仕組みが不可欠だ。
前述の機械保全でいえば、「製造機械の部品交換が必要」と判断した後に「機械故障による製造ラインへの影響」「部品の手配に必要な時間」「交換作業にかかる時間」「交換作業を実施できる従業員の配置」などさまざまな要因を事前にシミュレーションし、実際の手配を行う。
もちろん全てを自動化する必要はない。機械故障による部品交換が必要となる旨を工場の責任者にアラートし、シミュレーションの結果を示すことで、最終的には人が判断して指示を出すことも可能だ。
インダストリー5.0では人が再び生産の現場に戻ってくる

インダストリー5.0の目的は、より賢い生産システムを作り出すことにある。これまで多品種の少量生産、あるいは受注生産に対応するためには、従来型の大量生産向けの工場では対応が難しく、リードタイムの短縮も容易ではなかった。この問題を解決したのは、IoTやAI/MLなどのデジタルテクノロジー、ロボット/コボットなどのロボティクス、顧客のニーズに柔軟に応えられるサプライチェーンだ。
これまで、工場の自動化による失業者の増加は大きな社会問題だった。しかし、インダストリー5.0が生産現場に再び人を戻すのであれば、新たな雇用が生まれることになる。しかも機械によるサポートやナビゲーションによって作業負担が軽減するため、高齢者でも従事できる作業は多くなるだろう。
少子高齢化が社会問題になっている現状において、インダストリー5.0の取り組みが不可避であることは間違いない。