【連載】
モビリティビジネス Starter Book(6)
ローカル5Gとプライベート5Gの違いとは?
掲載日:2022/3/01

5Gが、第5世代移動通信システムを意味することはご存じだろう。しかし、5Gには、「パブリック5G」と「ローカル5G」という利用形態があり、さらに「プライベート5G」という新たな利用形態も発表されたことは知らない人も多いのではないだろうか。ここでは、企業内ネットワークとして期待される「ローカル5G」と「プライベート5G」について解説していきたい。
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「パブリック5G」「ローカル5G」に続く
第3の5G利用形態「プライベート5G」
5Gとは5th Generationの略で、第5世代を意味する。4Gの後継となる移動通信システムであり、「高速・大容量」、「多接続」、「低遅延」という3つの利点がある。
日本では、2020年3月にNTTドコモやau、ソフトバンクが5Gの商用サービスを開始、続いて2020年9月には楽天モバイルが5Gサービスを開始した。これらのサービスは、携帯電話事業会社が自社でネットワークを構築・運営することで実現しており、「パブリック5G」と呼ばれる。
4Gまでは、基本的にこうした形態でしかサービスを運営できなかったが(ネットワークを借りて運営するMVNOはあった)、5Gでは、多接続や低遅延といった5Gの特性を活かしてIoTやスマートファクトリーなどの新たな市場を切り拓くために、工場内などのローカルなニーズに基づく比較的小規模な通信環境を構築する「ローカル5G」という利用形態が提案された。
ローカル5Gのネットワークを構築するにはパブリック5Gと同様に、総務省に申請を行い、無線局免許を取得する必要があるが、公平性の観点から当分の間、携帯電話事業会社にはローカル5Gの免許は与えられないことになっている。
総務省は「ローカル5Gの導入に関するガイドライン」
を策定・公開
ローカル5Gでは、パブリック5Gとは別の周波数帯が割り当てられているため、互いに干渉することはない。2019年12月にはミリ波の28.2GHz~28.3GHz帯がローカル5G用として割り当てられているが、2020年12月には28.3GHz~29.1GHz帯までと、4.6GHz~4.8GHz帯、4.8GHz帯から4.9GHz帯がローカル5G用として追加割当された。
ローカル5Gは、一般企業が無線局免許を取得して自社だけで使うのが基本だが、代わりにSIerや通信事業者が免許を取得してローカル5Gのネットワークを構築・運用し、他社へサービスを提供することも可能だ。

総務省は2020年12月18日に、追加割り当てされた周波数帯についても免許申請の受付を開始した。2021年1月25日時点で、アンリツや京セラ、シスコ、NEC、日立製作所、富士通、NTT東日本など大手企業を中心に43の企業や自治体がローカル5Gの免許を申請している。
これまで企業や自治体が限られたエリアでネットワークを構築する場合は、主にWi-Fiが使われてきたが、ローカル5Gが構築できれば、Wi-Fiでは難しかった分野にも応用が広がる。
例えば、工場内にローカル5Gを構築すれば、遠隔からモニタリングしたり、制御を行うスマートファクトリーが実現できる。5Gは、ネットワーク構成によって「NSA」(Non Stand Alone)と「SA」(Stand Alone)に大別できる。
NSAは、ネットワークコアが4Gで、データ通信のみ5G基地局を使い、制御信号は4G基地局を使う方式、SAはネットワークコアが5Gになり、データ通信も制御信号も5G基地局を使う方式だ。
当然、NSAよりもSAのほうが性能が高く、NSAでは5Gの3つの利点のうち「高速・大容量」しか実現できない。パブリック5Gも、当初は4G基地局を流用できるNSAでスタートしたが、2021年10月からソフトバンクが日本初の5G SA商用サービスを開始、2021年12月にはNTTドコモも法人向けに5G SAサービスの提供を開始した。ローカル5Gに関しても、当初はNSAのみの免許であったが、2020年12月の制度改正によって、SA方式のローカル5Gも構築できるようになった。

ローカル5Gの弱点は、免許や電波使用料が必要で、運用負荷が高いことと、ネットワーク構築のために多大な設備投資が必要なことである。また、パブリック5Gとは異なり、周波数帯が異なるため利用可能なスマートフォンが限られるといった問題もある。
特に設備投資のハードルは高い。そこで新たに誕生したのが「プライベート5G」である。プライベート5Gは、パブリック5Gとローカル5Gの中間に位置する利用形態であり、携帯電話事業会社(いわゆるキャリア)に割り当てられた電波を使い、携帯電話事業会社がサービスとして、企業内の5Gネットワークを提供するというものだ。
ローカル5Gとは異なり、各企業が免許を取得する必要はなく、設備投資も不要になるため、導入のハードルが低いことがメリットだ。利用する周波数帯もキャリアと同じため、キャリアが用意している豊富なスマートフォンをそのまま利用できる。
「ネットワークスライシング」がプライベート5G実現の鍵
プライベート5Gを実現するための鍵となる技術が「ネットワークスライシング」である。ネットワークスライシングとは、5Gネットワークを仮想的に複数のネットワークに分けて使う技術であり、5G SAでのみ利用できる。
ネットワークスライシングでは、通信の用途に応じてデータをスライス(分割)して制御できるので、例えば、建設機械の遠隔制御用には「低遅延」スライスを使い、映像の伝送には「高速・大容量」スライスを使うといったことが可能になる。
プライベート5Gは、このネットワークスライシングによって、企業や自治体のさまざまな用途に応じて、その限られた範囲内で個別にカスタマイズしたネットワークを提供するという、マネージドサービスである。

プライベート5Gについて、積極的なのがソフトバンクである。ソフトバンクは、2020年5月に、プライベート5Gのサービスを2022年に開始すると発表している。韓国ではすでにプライベート5Gが実用化されており、大企業だけでなく中小の自動車部品工場でも採用されているという。
また、2019年11月29日に開催された「第16回itSMF Japanコンファレンス/EXPO」において、NTTドコモの中村武宏氏が、講演内でプライベート5Gについて「地方にある工場のスマートファクトリー化はもとより、期間限定で利用されるイベント会場、建設現場などに簡易な基地局を設置するといった用途では、低コスト、迅速にサービスが提供できるプライベート5Gが有効」と語っており、NTTドコモもプライベート5Gには大きな期待をかけているようだ。