金融業
急速に広まる金融AI!
導入事例と今後の可能性を考察
掲載日:2025/03/04

さまざまな業界で急速に広まっているAIの活用。金融業界でも投資支援や顧客対応など、さまざまな領域で活用が進められている。日本銀行の調査によると、業務でAIを導入している金融機関は約6割にも上るという。今回は金融機関におけるAIの導入事例や今後の可能性を紹介していく。
AIの利活用が進む金融機関
日本銀行が2024年4月から5月にかけて実施したアンケートによると、金融機関におけるAI活用が急速に広まっていることが分かった。アンケートによると、約3割の金融機関が既に生成AIを業務に取り入れており、検証中の金融機関も合わせると約6割の金融機関が生成AIを業務で利用していた。また、生成AIだけでなく「業務効率化」や「顧客サービスの向上」を目的とした従来型のAIの活用も6割以上の金融機関で行われていることが紹介されている。

生成AIの導入目的は、大半の金融機関が「業務効率化/コスト削減」を挙げている。具体的には「文書の要約」や「文書の校正」「翻訳」など、文書の理解や事務処理の効率化を目的に利用しているケースが多かった。書面を扱う業務が現在も残る金融機関において、生成AIの活用はDX推進を実現するうえで重要なツールの一つとなりうることが推測される。

金融機関で利用されているAIツール
金融機関ではさまざまなAIツールが利用されているが、自社に適した生成AIサービスを構築した金融機関も見受けられる。一般公開されている生成AIサービスは、入力したデータがAIの学習に利用されるため、情報漏えいなどのセキュリティリスクが高いが、自社内で構築したツールは社内の限られた環境のみで動作し、学習データにも利用されないため安心して利用できる。
また、国内AIスタートアップ企業のELYZA社が独自開発した大規模言語モデル「ELYZA Brain」を用いて、実証実験を行った事例も報告されている。同実験ではオペレーターの顧客向け文書作成時間を従来の業務フローと比較して50%省力化することに成功した。
金融機関におけるAI活用事例
金融機関で実際に利活用されているAI事例を解説する。
投資支援
ある大手生命保険会社では2024年10月より外国株式の運用計画を作成するシステムに、自社開発したAIを導入している。AIが過去のデータを踏まえて景気局面に応じた収益性の変化を定量的に算出し、この分析を参考に外国株式の運用計画を立てられるという仕組みだ。このAIを導入することで、社内全体での投資戦略の精度が高くなることが期待されている。
業務効率化
前述した日本銀行の調査にもあるとおり、業務効率化を目的にAIを導入している金融機関は多い。
例えばある大手損害保険会社では、2023年10月より社内向けに構築された生成AIアシスタントの活用を開始。文書・資料作成や情報検索、議事録の要約などの業務効率化を図っている。同生成AIアシスタントを駆使する社員が増えれば、業務の生産性はさらに向上することが見込まれる。
また、ある証券会社でも2024年12月に生成AIを活用した社内文書検索システムを導入。社内ルールの検索や問い合わせにかかる業務時間を最大で約6割削減できることが見込まれている。マニュアルや手続きが多い証券業界において、大きな業務効率化の効果が期待される。
審査業務支援
大手生命保険会社は生命保険の「引受査定」と呼ばれる、年齢、収入、健康状態などから顧客が保険の引受が可能かどうかを判断する審査業務にAIを活用した予測モデルを導入している。傷病歴や現在の健康状態を踏まえて判断を行う現行の手法に加えて、新たにAIを用いた同社独自のリスク予測を組み合わせることで、より高精度な査定を実現するという。
また、ある地方銀行では2025年1月より、住宅ローンの融資可否の審査業務にAIサービスを導入し、AI審査を開始した。これにより同行は「対象業務全体の約50%が人の審査を介さず、自動かつリアルタイムで判定される見込み」としている。AI審査により審査時間が短縮されれば、顧客にもメリットは大きい。
金融×AIの可能性

金融機関は個人情報や取引・決済情報、市場データなど膨大な情報を取り扱うため、セキュリティ面では細心の注意を払う必要があるが、情報の読み解きや要約、データ分析などに強みを持つAIを活用することのメリットは計り知れないだろう。
前述した地方銀行とは別の銀行でも、AIを活用した投資人材の育成や投資先選定の試験運用が2025年春から予定されている。この試みは国内金融機関ではユニークな取り組みであり、その効果が注目されている。金融機関におけるAI活用は依然、拡大の余地があるため、最新動向を探りながらビジネスチャンスを逃さないように準備しておきたい。