製造業

いまや海外での生産はリスクになる?
製造業の国内回帰が進む理由を解説

掲載日:2025/05/27

今や海外での生産はリスクになる? 製造業の国内回帰が進む理由を解説

2023年、世界有数の半導体企業が熊本に大規模な生産工場を開設すると発表し、大きな話題となった。昨今の製造業ではこのような日本国内に生産拠点を移す動きが進んでいる。この方針転換の裏にはどのような背景があるのだろうか。これまでの製造業の変遷と比較しながら今後の展望も探っていく。

製造業の海外生産拠点の変遷

経済産業省がまとめた「第51回 海外事業活動基本調査概要」によると、特にアジアにおける進出がめざましく、現地法人の数は2021年度の集計で約1万1,000社に上り、そのうちの約8,400社が中国やASEAN諸国といったアジア諸国が占めている。また、近年は中国だけでなくタイやインドネシア、ベトナムなどに拠点を分散して、リスクを抑える動きもみられる。

アジアでこれほど進出が進んだ背景には「労働力コストの低さ」「資材、原材料、製造工程全体、物流、土地・建物などのコストが低い」 などの理由が影響していることが考えられる。

一方、海外に生産拠点を置く中で「産業の空洞化」も指摘され続けてきた。産業の空洞化は単に雇用や技術が海外に流出するだけではなく、国内製造によって得られたはずの税収も減少するため、国家規模の損失であるとの意見もある。

昨今における海外生産

昨今、急速に存在感を発揮しているのが、製造業を国内回帰させる動きだ。経済産業省が発表した「2023年版ものづくり白書」の資料によると、2022年からの1年間で、中国および香港に新規の生産拠点を置いた国内企業が65社であるのに対し、中国および香港から日本へ移転した国内企業は100社となっている。

ASEAN地域や韓国など一部の例外はあるものの、ほとんどの地域で、海外に新規の生産拠点を置くよりも国内回帰を行う企業の数が多いという結果になった。

また、同資料によると、企業が国内回帰を選択した理由として最も割合が高かった回答は「新型コロナ感染症への対応」が27%、次いで「為替変動」で26.4%、「人件費の上昇」が21.4%と続く。このように昨今の製造業は国内回帰を進める企業が増えていることが分かる。

国内回帰による新たな課題と解決策

しかし、製造業の国内回帰が進む中で、新たな課題が浮き彫りになっていることも事実である。以下に主な課題とその対策を紹介したい。

製造業の就業者数の減少

国内回帰を進めるうえで最大の課題は人手不足だ。前述した「2023年版ものづくり白書」によると、製造業における就業者数は2002年~2022年の21年間で約1,200万人から約1,044万人へ減少している。対して全業種を総合した就業者数は、約6,300万人から約6,723万人と増加していることから、相対的にも製造業に就く人数が減少していることが分かる。

人口減少が社会問題となっている日本では、今後も製造業の就業者の大幅な増加は期待できないため、業務効率化が有効な対策となるだろう。特に重要になるのが、オートメーション(自動化)技術である。いわゆるスマートファクトリーの実現を目指し、積極的なDXの推進によって、人間の関わる業務を極力減らしていくことこそがポイントとなるだろう。

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設備投資によるコストの増大

国内回帰を阻むもうひとつの課題が、生産設備の導入や管理にかかるコストの増大だ。

そこで注目したいのが中小企業向けの補助金制度である。例えば独立行政法人中小企業基盤整備機構は、「IT導入補助金制度」を実施している。同制度は、中小企業や小規模事業者がDXの導入により労働生産力を向上することを目的とした補助金制度だ。補助金額は年度や枠によって異なるものの、2025年版ではITツールの導入に対して最大450万円の補助が受けられる。

先行き不透明な国際情勢の中で、これまでの海外を生産拠点とした製造業はリスクとなりうる可能性もある。製造業の根幹である生産業務を国内に移す国内回帰の流れは、事業の安定化を図るうえで不可欠な対策なのかもしれない。

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