金融業
新しい時代の決済方法
暗号資産決済の利便性や導入事例を解説
掲載日:2025/09/23

デジタル化が加速する現代においては決済方法も多様化している。キャッシュレス決済が当たり前になる中、次なるインフラとして注目を集めているのが「暗号資産決済」だ。今日において暗号資産は投機対象としてのイメージが強いが、常識を変える決済手段としての側面も確かに存在する。
なぜ暗号資産決済が求められるのか
暗号資産決済とは、商品やサービスの対価として、日本円や米ドルなどの法定通貨ではなくビットコインなどの暗号資産で支払う手段を指す。支払いに使用された暗号通貨は、そのものを別の商品やサービスの支払いに使用できるほか、法定通貨に換金することも可能だ。
暗号資産による取引は、ブロックチェーン技術の活用により、改ざんが極めて困難で透明性が高い。また、従来の銀行振込やクレジットカード決済に比べ、銀行やカード会社を介さないP2P(個人間取引)の性質を持つという点などが特長だ。
では、このような特徴を持つ暗号資産決済には具体的にどのようなメリットがあるのだろうか。企業と消費者の両面からその内容を紹介する。
企業側のメリット
一般的にクレジットカード決済では数%かかる手数料が、暗号資産決済では1%未満など大幅に少ない割合に抑えられる可能性がある。これは、特に利益率の低い業種や小規模事業者にとって大きなメリットとなることだろう。
また、暗号資産決済は、為替換算の手間や国際送金の高コスト・時間がかからないという特性がある。そのため海外からの顧客を獲得する際、複雑な国際決済や為替リスクを気にせず、シームレスな決済を提供できる。eコマースやデジタルサービスを提供する企業にとっては特に有効なメリットだ。
さらに、ブロックチェーン上の確認が完了すれば、原則として暗号資産決済が取り消し不能になる。クレジットカード決済の場合は、数カ月後にチャージバック(決済取消)が発生する可能性があるため、このリスクを防ぐことが可能だ。
消費者側のメリット
従来の決済方法においては、クレジットカード番号や口座番号といった情報が取引先に提供されていた。そのため、しばしば企業が独自に保有していた顧客のカード番号を第三者に流出させるといった事態が発生している。一方、暗号資産決済においては、全ての取引がブロックチェーン上に公開される。ただし、消費者の個人情報は取引相手に提供する必要がないため、個人の特定が可能な情報が取引と結びつけられて悪意のある第三者に渡ることはない。そのため、従来の決算方法に比べ大幅にプライバシーが保護される手段だと言える。
また、近年はクレジットカード会社がポルノコンテンツを取り扱うECサービスの決済を打ち切るケースが続出している。現時点ではポルノを中心とした事象だが、将来的にはより幅広いジャンルの決済でカードが使用できなくなる可能性が指摘されている。
一方、暗号資産決済は非中央集権的な仕組みであるため、クレジットカードにおけるカード会社のような存在の判断で決済がストップすることはない。そのため、幅広く使用可能な決済手段として今後はより価値が高まることが予想される。
暗号資産決済の導入事例
暗号資産決済は国内よりも海外において先進的であり、導入事例も多く報告されている。アメリカのとあるECサイト運営会社では、ビットコイン決済を導入した初年度において、ビットコイン決済を利用した売上の約50%が、これまで同社を利用したことがないユーザーによるものであったと報告している。すなわち、ビットコイン決済の導入により従来とは異なる顧客層が同社へ興味を抱き、新規に商品を購入する効果があったと分析できるわけだ。
また国内においては、とある家電量販店においてビットコイン決済が導入された結果、全決済方法の平均客単価に比べ、ビットコイン決済を利用した顧客の客単価が2~3倍に跳ね上がったことが報告されている。この客単価の急上昇も一因となり、同社はビットコイン決済の決済限度額を当初の10万円から3倍の30万円にまで引き上げた。
未来を拓く暗号資産決済

数多くのメリットが存在する暗号資産決済だが、目を逸らしてはいけない難点がある。それは、暗号資産自体の価格が大きく変動するため、良くも悪くも価値が定まりにくいという点だ。もちろん暗号資産は即座に法定通貨に換金すればその時点での価値が確定するのだが、みすみす価格上昇のチャンスを逃すということもビジネス的には望ましくない。また、国内における暗号資産の法的な取り扱いについても流動的であり、将来的にどのような立ち位置の存在になっているかを見定めるのは困難だ。
しかし、暗号資産決済が従来の決済方法にはない未知のポテンシャルを秘めていることは間違いない。また、現代においては「価値」や「お金」そのものが変化し、よりオープンで国境にとらわれない形が求められるようになっているという風潮もある。単なる決済手段の追加ではなく、未来の決済インフラの構築に先行投資すると思えば、決して意味のないチャレンジではないはずだ。