業務改善
クリーンコア戦略で進化するERP刷新の未来
掲載日:2025/10/14

ERP刷新で注目されている「クリーンコア戦略」。ERPの標準機能を最大限に活用することで、その柔軟性と拡張性を高める戦略である。本稿ではクリーンコア戦略の概念やメリット、導入事例までを詳しく解説していこう。
クリーンコア戦略はSAP社が提唱するERP活用手法
クリーンコア(Clean Core)戦略は、ERPシステムでカスタマイズを極力排除し、標準機能を最大限使いこなすことを目指す戦略である。ERPシステムの世界的ベンダーであるSAP社が提唱する概念で、システムの複雑化を防げる。
ここではクリーンコア戦略のメリットについて、それぞれ解説する。
データ品質の確保
ERPの効果を最大化するには、データの品質と一貫性を確保しなければならない。しかし、ERPのカスタマイズが多いとデータ構造が企業ごとにバラバラになるため、データの品質と一貫性を確保することが困難である。
そこで標準機能をなるべくそのまま使うことで、データ構造の統一が可能になるため、データ品質の確保につながる。
API拡張の促進
クリーンコア戦略では、APIを活用した機能拡張を基本としている。コア部分にカスタマイズが多いと、標準API活用が困難になることがリスクであった。しかし、コア部分をなるべくそのまま活用するクリーンコア戦略であれば多種多様な外部サービスと連携でき、柔軟な機能拡張が可能である。
アップグレード対応
進化し続ける技術に対応するにはシステムのアップグレードを定期的に行わなければならない。システムにカスタマイズが多いと、アップグレード時に不具合が生じるリスクが高まるが、標準機能をそのまま使用することで未然にリスクを防ぐことができ、最新技術を速やかに導入できる点もメリットである。
業務プロセスの自動化
ERPの標準的なワークフローをベースに自動化することで、開発コストを抑制しながら効率的な業務改善が期待できる。請求書処理や予測分析などの機能は、標準データ構造との親和性が特に高く、追加開発を最小限に抑えた導入が可能である。このように、標準機能を活用することで、迅速かつ確実に自動化を実現できる。
クリーンコア戦略を導入するプロセス
ここでは、クリーンコア戦略を導入するプロセスについて、4段階に分けて解説する。
1.ERPシステムに関する現状把握
既存のERPシステムを詳細に分析し、カスタマイズ内容の中でどの部分を標準機能やAPI拡張で対応できるか特定する。
2.標準化の推進
業界におけるベストプラクティスを積極的に採用し、できる限りカスタマイズに頼らずERPの標準機能を最大限活用する。
3.サイドバイサイド拡張への切り替え
コア機能をカスタマイズする代わりに、サイドバイサイド拡張(SAPの外部プラットフォーム上で拡張)によって、標準機能だけで対応できない分野をカバーする。
4.アジャイル思考に基づく改善
システムのクリーンコア戦略を導入する際には、一度限りにとどめず継続的に効果測定を行いながら改善していく。これにより、長期的な目線でERPの刷新を図る。
ただし、クリーンコア戦略には実行する際の課題も存在する。実際の現場では最低限のカスタマイズは許容するケースが多いことに留意されたい。

クリーンコア戦略を採用した事例
最後に、クリーンコア戦略を採用した事例を二つ紹介する。
あるメーカーでは、長年ERPを運用し続けてきた結果、4万近くもの箇所でカスタマイズが行われてきた。それらの多くは10年以上放置されており、テスト工程に余計な手間がかかる状態であった。そこで、クリーンコア戦略を導入し、既存のERPシステムを見直した。
その結果、既存のシステム上で冗長な部分や現状使用されていない部分を多数特定し、カスタマイズされている箇所を6,000近くにまで削減できた。これにより、システムテストを大幅に短縮できたうえにリリース時の予期せぬ障害も減らせたのであった。
また、ある小売業界の企業では、既存ERPのコア部分に自社業務に対応するためのワークフローが独自に組み込まれていた。その結果、システムの柔軟性や保守性が低下し、業務フローの変更時にはコア部分に影響が出やすいことが課題であった。
そこで、クリーンコア戦略により100件以上のワークフローを外部プラットフォームに移行した。その結果IT部門では負担が軽減され、将来に業務フローの変更やERPのアップデートが発生した場合でも柔軟に対応できる体制を整備することが可能となった。
クリーンコア戦略でSAPの機能を最大限活用

クリーンコア戦略(Clean Core)は、ERPシステムでカスタマイズを極力排除し、標準機能を最大限使いこなすことを目指す戦略である。
これにより、データ品質の確保やアップグレード対応などさまざまなメリットを享受できる。メリットについては、成功事例も参考にされたい。クリーンコア戦略を実行するには、ERPシステムに関する現状把握やアジャイル思考に基づく改善などが必要である。
自社のクライアントには、ERPシステムの運用を効率化する手段として、クリーンコア戦略を提案してみるのも良いだろう。