IoT・AI
BodySharing®ではロボットの体験を人間と共有することも可能です
H2L,inc., CEO 琉球大学工学部 教授 東京大学大学院工学系研究科 教授
玉城 絵美 氏
掲載日:2025/12/16

デジタルを用いてロボットやアバターと人間を相互接続することで、個人の体験を拡張できる世界を実現するBodySharing®(ボデイシェアリング)。スポーツトレーニングやリハビリテーション、就労人口の減少が続く農業などで活用が始まっている中、固有感覚の伝達による「体験共有」という革新的な技術を創造した玉城絵美氏に、BodySharingの実装によって広がる可能性とイノベイティブな発想のルーツについて聞いた。
トップアスリートの生理学的にありえない動きをデータで証明
BP:玉城さんは現在、琉球大学工学部教授として学生たちの指導にあたる一方、経営者としてBodySharingという新たな概念の社会実装に取り組まれています。まずはBodySharingとはどのようなものなのか、ご説明いただけますか。
玉城 絵美氏(以下、玉城氏):重要なポイントになるのが「体験の共有」です。定義としては、人間の身体情報を、コンピューターを介して人と人であったり、人とバーチャルキャラクター、人とロボットが共有するための概念や技術要素、インターフェイスを包括する概念になります。例えば、キーボードやマウス、タッチパネルのようなインターフェイスデバイスの新バージョンと受け止めてもらえると助かります。
BP:人体の動きを記録するテクノロジーには、3次元の動きをデジタルデータとして認識するモーショントラッキングなどがあります。従来の人体の動きの可視化や共有の方法論との違いはどこにあるのでしょう。
玉城氏:例えば、りんごを握ったときに感じる重さや手指の動き、力の入れ具合などの固有感覚は、体験の共有に不可欠な要素です。BodySharingは、力の入れ具合の可視化を通し、固有感覚の共有を可能にすることが大きな特長です。以前私たちは、あるメダリストの方の力の入れ具合の可視化に取り組んだことがあります。事前ヒアリングでお聞きした当人の筋肉の使い方は、バイオメカニクスでは説明のつけようがないようなものでした。しかし弊社の筋変位センサデバイスを装着いただき、力の入れ具合を可視化すると、ご本人の説明通りに筋肉が使われていました。これまでプレーを見て想像するしかなかった、トップアスリートの筋肉の使い方を共有できてしまうことがBodySharingの大きな特長です。
BP:デバイスを装着し、アスリートによるお手本を真似ることで、誰もが同じようなプレーをできるようになるわけですか?
玉城氏:メダリストと同じプレーができるとまでは言いませんが、これまでにない視点のトレーニングが可能になることは間違いありません。例えば、プロゴルファーのスイング時の力の入れ具合をアマチュアが体験共有する実験では、スコアが100から80に改善されています。ただし能力は完全に定着するわけではなく、数カ月に一度、プロの力の入れ具合を共有することでスコアの維持が可能になるようです。
BP:力の入れ具合の可視化はどのような仕組みで行われているのですか?
玉城氏:当初、脳から出力される電気信号で筋肉の状態を読み取ろうとしたのですが、とても微弱な電気信号を増幅しようとすると、蛍光灯の電波やテーブルに触った際の静電気まで増幅してしまうため、現実的ではありませんでした。私たちは赤外線を使った光学的方法を採用し、筋肉のふくらみを直接読み取る方法で固有感覚を可視化しています。

応用研究も基礎研究もないゼロからのスタート
BP:今回ぜひお聞きしたいもう一つのテーマが、玉城さんのイノベーターとしての発想力、行動力の部分です。そもそも体験共有という新しい概念に思い至った経緯から教えていただけますか?
玉城氏:これまでいろいろな場でお話ししてきたことですが、私は大変な引きこもりでして、その一方では、アウトドアなどさまざまなことを体験したいという思いも持っていました。振り返ると、直接的なきっかけになったのは、高校時代に大病をして入院した際の体験でした。退屈な入院中、大部屋で大人気だったのが、おばあちゃんたちだったんです。入院患者が飢えている「体験」を誰よりも多く持つのが彼女たちだからです。6時ぐらいから起き出して、おばあちゃんたちの面白い話を聞くようになったとき、強く感じたのが体験の重要性でした。入院患者を取り巻くのは、究極の上げ膳据え膳の世界です。その生活の中でさまざまな体験が出来たら最高じゃないかと思ってしまったのです。
BP:なるほど。でも居ながらにいろんな体験ができたら面白いと思うことと、実際にその仕組みを実現することは大違いですよね。 玉城氏:はい、まさにそのとおりです。ここから先は聞くも涙、語るも涙の世界なのですが、大学の工学部に進学した私がまず行ったのは、既存サービスの調査でした。最初に注目したのは当時普及が進んでいたテレビ電話の可能性でしたが、これは視覚や聴覚に基づく受動的な体験に過ぎず、私が考える体験共有を満足させるようなものではありませんでした。次にサービス化を前提にした応用研究に取り組む企業を探しましたがやはり見つかりません。このあたりで嫌な予感もあったのですが、基礎研究を調べてみても、それすらないわけです。こうなると私自身が基礎研究から始めるほかありませんよね。
BP:それはいつ頃のことでしたか。
玉城氏:修士課程1年の2006年頃のことです。しかし、基礎研究が製品化されるには、何十年という時間を要することが珍しくありません。そこでまず考えたのは、一切寄り道せずに目標実現に取り組んだら、最短でいつ目標に到達できるだろうかという問いでした。私は2029年をゴールにしたロードマップを作成し、博士課程に進学して基礎研究で博士号を取得する一方、ベンチャーキャピタルでインターンとして働かせてもらい、経営や知財管理の知識の習得に努めました。法人を立ち上げ、多くの企業との協業を開始した今は、そろそろ仕上げの段階に差し掛かっています。
BP:すごい行動力ですよね。そのモチベーションはどこにあったのでしょう?
玉城氏:ちょっと変わった言い方になりますが、私の場合、サボりたいという動機が全ての前提にあるんです。そもそも上げ膳据え膳で体験だけを共有したいという考え方自体がそうですよね。目標を最短距離で実現したいと考えたのも、やはりサボりたいからなんです。
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