生成AIの急速な普及によるAIデータセンターの建設ラッシュを背景に、半導体市場はかつてない成長局面を迎えた。中でもメモリー価格は記録的高騰が続き、IT機器だけでなく経済全体へとその影響が広がっている。本特集では、AIビジネスの構造変化とデータセンター投資の実態を手がかりに、歴史的転換期を迎えた2026年の半導体市場と今後の潮流を読み解く。

AIデータセンターが招いたメモリー価格の記録的高騰

2025年後半以降、メモリー価格が記録的な高騰を続けている。一部製品の店頭価格は以前の約7倍にまで跳ね上がり、その影響はPCやスマートフォン、ルーター、スイッチなどからゲーム機に至る、あらゆる電子製品の価格へと波及している。もはやこれはIT業界に限った問題ではなく、マクロ経済全体に与える影響を懸念する声も少なくない。

メモリー価格高騰の理由は、AIデータセンター建設ラッシュに伴う需給ひっ迫にあると説明されることが一般的だ。もちろん、それは間違いではない。だが、それだけではメモリー価格がGPU価格を上回るペースで上がり続ける理由の説明にはならないだろう。さらに言えば、GPUの処理能力に直接的な影響を及ぼすDRAMだけでなく、フラッシュメモリー製品にまで価格高騰が波及する理由も見えてこない。本題に入る前に、まずは半導体業界の近況をデータで見ていきたい。

世界の主要半導体メーカーが加盟する統計機関「WSTS(World Semi-conductor Trade Statistics:世界半導体市場統計)」は、例年6月と12月、実績値にマクロ経済や主要電子機器の動向を加味した半導体市場予測を発表している。2026年3月までの実績値に基づき、この6月に公表された市場予測は、多くの関係者の見込みをさらに上回るものだった。

WSTSが予測する2026年の市場規模は1兆5,112億ドル。前年実績の7,956億ドルを89.8%上回る大幅な伸長である。これは比較可能なデータが残る1987年以降で最大の成長率であり、1兆ドルの大台超えを含め、半導体業界にとってまさに歴史的な1年になる見通しだ。それと共に注目したいのが、メモリー半導体市場の驚異的な伸長予測である。

WSTSにおける「半導体製品」のうち「IC(集積回路)」は、増幅やデジタル変換、電源制御などを担う「アナログ」、特定の処理や制御を行うマイコンなどの「マイクロ」、CPUやGPUなどの「ロジック」、データの一時・長期保存を担う「メモリー」という四つに分類される。2026年にアナログは10.2%、マイクロは19.8%、ロジックは37.3%の成長が予測されるのに対し、メモリーは249.5%というまさに桁外れの伸長が予測されているのだ。これまでAIデータセンター需要はGPUなどのロジック半導体が対象であり、出荷額ベースではロジックの伸長に対してメモリーが出遅れる状況が続いてきた。しかし、2026年には両者の関係が逆転する見通しだ。

世界のIC 製品別市場規模の実績と予測(2026年、2027年)

次にAIデータセンターを取り巻く状況について簡単に整理しておきたい。近年のAIデータセンター建設をけん引するのが、「ハイパースケーラー」とも呼ばれるアマゾン、マイクロソフト、グーグル(アルファベット)、メタの4社である。ある調査では、2025年のAIインフラ投資額は4社合計で3,000億ドル以上に及ぶ。日本円に換算すると約47兆円となり、日本の国家予算の半分弱に相当すると言えばその加熱ぶりを理解していただけるはずだ。AIデータセンター建設ラッシュの中心地である米国では、2026年にはデータセンター建設投資がオフィス建設投資を追い抜くとみられている。

もちろん、AIデータセンター建設に必要なコストは建設投資だけではない。ネットワーク機器や電源、冷却装置などのITインフラ投資が不可欠になるが、それらの中で最も大きな比重を占めるのがAIサーバーおよび関連するGPU・メモリーである。AIデータセンターのサーバーはラック一台あたり4,500個以上の半導体チップが搭載されているとみられ、データセンター投資の半分以上が半導体調達費用で占められているという。

なぜメモリー価格は突如高騰を始めたのか

まず考えてみたいのが、メモリー半導体が高騰した理由である。WSTSの統計データを見ると、ある程度の浮き沈みはあるものの、ロジック半導体が2020年以降に安定的な成長を遂げているのに対し、メモリー半導体は2024年に急成長を遂げ、それ以降ロジック半導体を上回る成長を続けていることが分かる。AIデータセンターの半導体需要に今、どのような変化が起こっているのか。それを説明するのが、AIビジネスにおけるフェーズの変化だ。

ハイパースケーラーが主導するAIビジネスは二つの段階に分けて考えることができる。一つはLLM(大規模言語モデル)の学習(Training)フェーズ、もう一つが学習を終えたAIモデルを使って実際に答えを生成する推論(Inference)フェーズである。

あらためて整理すると、学習フェーズの中核に位置付けられるのが、膨大なテキストデータを収集して各テキストを単語より細かな単位(トークン)に分割したうえで、次に来るトークンの予測をひたすら繰り返す「事前学習」である。モデル規模にもよるが、事前学習では一連のプロセスを数兆回繰り返し、GPUクラスターは数カ月にわたってフル稼働を続けることになる。学習フェーズの主役はGPUであり、数千~数万基のGPUをネットワークで結んで並列計算を行う。

PCゲームの3Dグラフィックスを主要な用途として、並列処理によって単純計算を高速化するために生まれたGPUを一般的な計算処理に用いる道を開いたのが、2006年にNVIDIAが公開した並列計算プラットフォーム・プログラミングモデル「CUDA(クーダ)」である。CUDAは今日、LLM開発の事実上の標準プラットフォームであり、それがAIデータセンター向けGPU市場における同社の圧倒的な優位性を生み出している。

対抗馬であるAMDもシェアを伸ばしているが、AIデータセンター向けGPUに限れば、今後もNVIDIAが80~90%超のシェアを握るとみられる。ゲーム用GPUが主力であった2016年、同社の売上高は約50億ドル。10年後の2026年1月の通期決算では、2,060億ドルに急成長した。この劇的な成長を支えたのが、AIデータセンター需要であったことは間違いない。グーグルが開発したTPU(Tensor Processing Unit)など、ハイパースケーラーによるロジック半導体の内製化も進むが、AIデータセンターのGPU需要におけるNVIDIAの優位性はしばらく揺るがないとみられている。

一方の推論フェーズでは、数千~数万基のGPUのフル稼働は、数カ月に一度のペースで行う最新情報や最新知識を追加学習するプロセスに限られ、これは数日~数週間程度で完了することが一般的。推論フェーズでは、増え続けるユーザーの質問に24時間365日確実に対応し続けることが重要なのだ。

また、推論フェーズでは、学習フェーズで構築したAIモデル内部のパラメーター(重みづけ)に基づき、ある文章の次のトークンを予測することで回答を生成する。予測計算は前のトークンではなく、先行して生成された文章全体との関係性に基づいて行われるため、文章が長くなるほど計算量も指数関数的に増えてしまう。この問題を解決するのが、過去の予測計算結果をメモリーに保存することでAIモデルの動作を省力化する「KVキャッシュ(Key-Value Cache)」である。キー(K)とバリュー(V)がそれぞれ何を指すかを正しく知るにはAIモデルにおけるベクトル計算まで踏み込む必要があるが、一口で説明するなら、過去の結果を保存し、必要なときに参照することで予測計算を省力化するテクノロジーと言うことができる。

世界銀行が昨年発表した政策研究ワーキングペーパーから見えてくるのは、2024年を境にChatGPT訪問者数が急増している状況だ。また、別の調査からは、2025年上半期を境にモバイル向け生成AIアプリのダウンロード数が急増し、アプリ内課金が倍増する状況を見て取ることができる。あらためてデータを持ち出すまでもなく、直近2年ほどの生成AIの普及を実感として受け止めている方も多いに違いない。AIビジネスは学習フェーズから推論フェーズに既に移行しているのだ。

GPUがフル稼働する学習フェーズでは、途切れなくGPUにデータを供給するために膨大なメモリーが必要とされ、それがDRAM価格の高騰につながった。一方、KVキャッシュの運用では、電源を切ってもデータが消えないフラッシュメモリーが求められることになる。昨年来、フラッシュメモリーやSSD価格が高騰し始めた背景には、こうしたAIビジネスの変化がある。

ChatGPTの月間訪問者数とユニークユーザー数

なおKVキャッシュは、今後市場拡大が予想される、AIモデルが社内文書などの外部データを参照することで回答精度を向上させる「RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)」や、AIが自律的にタスクを完結させるAIエージェント、フィジカルAIの運用においても重要な役割を担うことになるとみられている。フラッシュメモリー需要の伸長は、今後もしばらく続くとみていいだろう。

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