官公庁・文教
ICT教育の最前線
導入の背景と未来への期待
掲載日:2025/03/25

文部科学省が掲げるGIGAスクール構想では、令和時代のスタンダードとして教育ICT環境の整備が進められており、ICTの活用は教育現場にも普及している。今回は、実際の教育現場でICTがどのように活用されているのか、また今後の展望について解説する。
日本の「情報」教育の変遷
「令和6年版情報通信白書」によると、2023年の日本でのインターネット普及率は86.2%に達しており、インターネットやICT機器が生活に不可欠な存在になっていることがわかる。
インターネットの普及は、1994年頃の「インターネット黎明(れいめい)期」、Windows 95が発売された1995年から2000年頃までを「インターネット普及開始期」、2001年から2010年頃までが「定額常時接続の普及期」、2011年以降を「スマートフォンへの移行期」と分類される。
日本での情報教育は、1980年代に一部の学校で「コンピューター室」が設置されたことが始まりとされているが、当初の目標は「情報教育の設備化」だった。
1990年代になると中学校の「技術・家庭」科で「情報とコンピューター」が必修化された。当時はPCが各家庭で普及していなかったにもかかわらず、コンピューターの基本構成や機能を知り、操作方法を習得することが目標とされ、情報教育が進められていた。
しかし、2021年に文部科学省が公表した「学校教育情報化の現状について」によると、日本の学校教育におけるICTの活用状況はOECD加盟国で最下位を記録。また同資料によると、その背景としてインターネット環境の不足、教員自身のICT技能への不安が挙げられる。
Society5.0の実現を目指す政府にとってもICT教育は不可欠なものであることは変わらないだろう。
小学校~高等学校でのICT教育の違い
現在、進められているICT教育はデジタル機器の操作や機能を覚えることだけを目的としていない。
文部科学省が発表した「教育の情報化に関する手引」によると、ICT教育を推進する目的は、学習の基盤となる資質・能力である「情報活用能力」を育成するためであると述べられている。
GIGAスクール構想により、児童・生徒は一人1台の端末をもつようになったが、小学校から中学校のフェーズごとに目的や使い方が異なっている。
小学校でのICT教育
小学校ではICTに慣れ、基本的な操作能力を身に付けることを重視している。
授業ではキーボードを使った文字入力、電子ファイルの保存・整理、インターネットの閲覧や電子メールの送受信といった基本操作や、インターネット上でのルールやマナーを学習する。
また、情報以外の科目でもICT機器が活用されている。埼玉県のとある公立小学校の算数の授業では、電子黒板にデジタル教科書の内容を表示してポイントを説明。児童は手元の端末で解き方を考え、クラス全体に向けてオンラインで発表する。教師は意見を総括して解説を行う。
中学校でのICT教育
中学校では、技術・家庭科の科目の「情報に関する技術」にて、プログラミング学習を行うほか、ICTが社会や環境に与える影響などもより詳しく学習する。
文部科学省が2020年に公表した「中学校技術・家庭科(技術分野)におけるプログラミング教育実践事例集」によると、AIの画像認識技術で社会問題の解決に取り組んだ事例や、音楽配信システムを活用したコンテンツ開発など、より実践的なプログラミング教育が行われている。
高校でのICT教育
高校では、「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」が科目に加わった。情報Iは、プログラミングや情報通信ネットワークとデータの活用、情報社会における問題解決などを学ぶ科目となっている。情報Ⅱでは、情報システムの仕組みやさまざまなデータ活用などを目指す。
「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」を学習することで、国家資格であるITパスポートを取得できる程度の知識を習得できるとされている。
GIGAスクール構想とデジタル教科書

2019年より始まったGIGAスクール構想は、全国の児童・生徒一人に一台のデバイスと高速ネットワーク環境を整備する取り組みだ。2019年度からは学習者用デジタル教科書が制度化され、紙の教科書との併用も始まっている。
これらの取り組みにより、ICT教育は加速しているが、一方で教師のICT技能に偏りがある点も指摘されており、その解消に向けて校内や各自治体教育委員会による情報発信や研修も催されている。今後はこれらによるサポートだけでなく、地域の実施体制に応じたフォローも重要になるだろう。
生成AIが急激に広がっている状況を踏まえると、ICT教育の中身もまた変化する可能性がある。教育現場に関わる立場でなくても、学習指導要領の変更やGIGAスクール構想などの進捗状況により、ITベンダーとしてサポートできることがあるはずだ。