昨年下旬に公開された対話型AI 「ChatGPT」が話題だ。開発元のOpenAIにマイクロソフトが数十億ドル規模の投資を発表するなど対話型AIを巡るビジネスが活発化する中、その可能性を考える。

ChatGPT登場のインパクト

ChatGPTは、米国OpenAIが2022年11月に公開した大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)に基づく対話型AI。OpenAIは現CEOのサム・アルトマンとイーロン・マスクらが2015年にサンフランシスコに設立した世界有数のAI研究機関。マスク氏は既に役員からは退いているものの、出資自体は継続しているようだ。

「言語を指定するだけでプログラムを自動で記述する」「求める情報を要約して教えてくれる」「テーマを与えれば小説や論文まで書いてくれる」など、ChatGPTの話題は既に多くの人が耳にしているだろう。というより、既に体験された方も少なくないはず。何しろ、公開2カ月後の2023年1月には史上最速で月間アクティブユーザー数1億人を突破したまさにキラーコンテンツなのだ。

現在、ChatGPTの利用はアカウントを作成するだけで可能だ。こちらの問いかけに答えるだけでなく、回答の疑問点を訊ねることで議論を深めることができる、まさに対話型のAIであることがその特長である。

ChatGPT登場のインパクトは大きい。特に注目したいのは、GAFAに代表される巨大IT企業の動きだ。

以前からOpenAIに出資してきたマイクロソフトはこの1月、数十億ドル規模の資金提供を表明。2月には、早速同社が提供する検索エンジンMicrosoft BingにChatGPTが実装された。インターネットの検索エンジンで情報を検索すると、PV数稼ぎを目的とした無内容なサイトが上位を占めることに閉口することも多い。また明らかにデマの流布を目的としているようなサイトをいかに排除するかも課題の一つだ。それらを考慮すると、対話型AIは、グーグルの一強時代が続く検索エンジン市場におけるゲームチェンジャーにもなりえる存在だ。
グーグルも手をこまねいているわけではない。同じく今年2月に、以前から開発を続けるLLM「LaMDA」を基盤とした対話型AI「Bard」をGoogle検索への導入を発表し、一部の開発者向けに公開した。またフェイスブックなどを運営するメタもやはり2月に20言語に対応したLLM「LLaMA」を研究者に公開している。CEOのマーク・ザッカーバーグは「(大規模言語モデルは)文章の生成、対話、情報の要約だけでなく、数学の定理を解いたりタンパク質の構造を予測したりといった、より複雑な作業でも活用できる可能性を示した。メタはこのオープンな研究モデルにコミットしている」と表明する。

LLMの可能性と課題

だが現時点では、対話型AIが検索エンジンの劇的な進化に貢献したというのは難しい。Bardは試験公開の段階で早速味噌がつき、ライバルを意識した拙速な対応だったという声が社内からも挙がっているようだ。一方のMicrosoft Bingにしても、対話型AIの回答が信頼できる水準には達していないのが実情だ。

対話型AIの可能性と現時点の限界を知る上では、LLMの基本的な考え方を押さえる必要がある。LLMの第一段階になるのが、さまざまな文章においてある単語の次に続く単語を統計的に推測するプロセスだ。分かりやすく言えば、「レモンは」という言葉の次に続く「酸っぱい」「黄色い」「苦手」などの言葉の出現数をカウントし、それぞれの言葉の関係性を学んでいくわけである。このプロセスは「自己教師あり学習」としてAIが自律的に行うことができるが、もちろんそれだけで自然な対話が成り立つわけではない。

ChatGPTの場合、複数のスタッフがAIとの対話を繰り返し、優れた返答に報酬を与えることで強化学習を行ったといわれる。

実のところ対話型AIの本質は、大量の文章に基づいて生成されるもっともらしい文章にほかならない。学生であればChatGPTの用途としてまずレポート提出や論文作成を挙げるはずだが、アメリカでは既にズルをした学生を見抜く方法が教員たちに共有されつつあるようだ。一口に言えば、ChatGPTが書くレポートはあまりに文法的に正し過ぎるのだ。

LLMの課題はもう一つある。ひっかけ問題に弱い点である。一例を挙げよう。筆者の「江戸時代に普及した竪穴式住居の特徴を教えてほしい」という質問へのChatGPTの回答は以下のようなものだった。「江戸時代に広く普及していた竪穴式住居は、主に農村地帯で見られる民家の構造でした。以下にその構造を説明します……」。前提が偽である以上、以下に続く説明がすべて的外れであったことは言うまでもない。

ChatGPTとマイクロソフトの連携では、むしろOfficeツールの進化に期待したいところだ。あらためて振り返ると、ワープロの登場以来、本質的な機能向上が図られることはなかった。マイクロソフトはすでにWord、Excel、OutlookにChatGPTを活用する方針を公表している。職業柄、ワープロソフトの誤変換に常に悩まされ続けてきた身として、その効果にはぜひ注目したい。