>コロナ禍で5年前倒しされたDX。急きょ導入された課題と解決を探る

リモートワークの処理のもたつき改善にはネットワーク環境と端末の見直しを

二度の緊急事態宣言を経て日常化したリモートワーク(在宅勤務)。その一方で、処理のわずかな遅れがストレスにつながるという不満も根強い。リモートワークで業務を行う際に処理が遅れる主な原因は、社内システムのセキュリティ対策による処理待ちによる場合と、ネットワーク回線自体の容量不足による場合がある。これらの解決策について考えてみたい。

問題が多いリモートワーカーのネットワーク環境

新型コロナウイルス感染症対策の一環として、国内企業がリモートワークへのシフトを開始したのは2020年2~3月のことだ。情報共有の仕組みの未整備や一時的な需給ひっ迫による端末調達の遅れにより、当初はさまざまな不便があったことは否めないが、その後環境整備が急速に進んだことで、そうした不満の多くは解消された。

一方で浮上しているのが、リモートワークならではの働きにくさという問題だ。実際のところ「思ったほど作業が効率的に進まない」と感じているリモートワーカーは多い。こうした状況はコロナ禍に実施された各種アンケート調査からも見えてくるが、そこで挙げられる課題は実に多様だ。「自宅ではやる気が起きにくい」という課題の解決策を提示するのは難しいが、「オフィスと比べて、PCの処理が遅れる」「オフィスと違い、業務の連携が難しい」といった課題であれば、ITによる解決も十分に可能だ。

そこで注目したいのが、「処理の遅れ」に関する課題だ。リモートワークで業務を行う際に処理が遅れる主な原因は、社内システムのセキュリティ対策による処理待ちによる場合と、ネットワーク回線自体の容量不足による場合がある。

VPNの処理待ちによる遅延

リモートワークで社内にアクセスする多くの企業は、VPN(Virtual Private Network)を採用している。インターネットを介して接続されるVPNは、費用や技術的な負担が少なく、導入が手軽なことがその理由だ。

VPNは、ネットワークに接続しているユーザー間に仮想的なトンネルを構築し、「カプセル化」と「暗号化」技術を使ってデータの安全性を確保している。自宅から会社に接続する際、セキュリティを担保するために通信データを加工処理している。さらに接続の際には、ファイアウォールはもちろん、VPNサーバーやスイッチによる認証処理が行われるため、始業時や繁忙期などでアクセスが集中すると認証処理の順番待ちが起こってしまうのだ。

VPNの概念図
VPNの概念図

この課題は機器のリプレースにより解決できる部分もあるが、運用の見直しで改善できることもある。

例えば、生産、販売、在庫管理、人事給与、財務会計などの基幹系システムは、認証処理やネットワークに多少の負荷がかかったとしてもセキュリティ対策を優先すべきだ。しかし、コミュニケーションや事務処理の効率化、意思決定の支援などに活用される情報系システムは、できるだけ負荷を減らすことが業務の効率化につながる。情報系システムと基幹系システムを分離することで、負荷の分散だけでなく、情報漏えいリスクを低減するセキュリティ対策としてもパートナー様が提案する価値がある。提案としては、基幹系システムを仮想化し、情報系システムやインターネットから物理的にアクセスできなくする方法などがある。

ネットワーク回線自体の 容量不足

VPNを使用中にインターネットだけが遅いと感じる場合は、社内ネットワークのインターネット回線に問題がある可能性がある。VPNに接続してWebの閲覧を行う場合、インターネットを介したリモートアクセスで社内のネットワークに接続し、そこからインターネットに接続するといった形になるが、そもそもVPNは、平時であれば同時にアクセス可能な従業員数を全体の1~2割程度を想定して設計するのが一般的だった。ところがコロナ禍により緊急事態宣言が発令されたことで、企業はリモートワークの実施を迫られた。そのため想定を超えるアクセスが起こったのだ。当然、同時に多くの従業員がアクセスすればネットワーク回線の許容量を超える。その結果、リモートワークの継続が不可能になる、仮につながったとしても非常に通信速度が遅くなるといった問題が発生しているのだ。

昨年の緊急事態宣言から約1年が経ち、大手企業ではハードウェアや回線の増強といった改善策がとられているという。ただし中堅・中小企業の設備投資では専用線に敷設する予算を捻出できず、プロバイダーを変更するぐらいしか手立てはない。このようなVPNの根本的な課題を解決する手段として注目を集めているのが「SD-WAN」だ。

VPNの課題を解決するSD-WANとは?

「SD-WAN」とは「Software Defined – WAN」の略で、WANを仮想化することで一元管理し、現在の通信環境を効率化する仕組みのこと。単一のソフトウェアによりネットワーク機器を制御し、ネットワーク構成や設定などを柔軟に変更できる技術にはさまざまなメリットがある。その中でもネットワークエッジを設置することで、プロキシサーバーなどを経由せずに直接アクセスするローカルブレイクアウトが注目されている。これは直接インターネットやクラウドサービスにアクセスできるようにする仕組みのことで、トラフィックが一部に集中することを抑え、通信環境をコントロールできる。

ローカルブレイクアウトの概念図
ローカルブレイクアウトの概念図

VPNによるインターネットへのアクセス増大はファイアウォール周辺のボトルネック化に直結するが、例えば、社外で利用するMicrosoft 365やWindows Updateなどセキュリティが担保されたサービスは、クライアント端末から直接クラウドサービスにアクセスすることでこの問題は大きく改善する。一方、一般のインターネットアクセスについてはこれまで同様プロキシサーバーやUTMを経由することで従来同様のセキュリティが維持できるというわけだ。

リモートワーク時代にはPCに求める機能が変化

効率的なリモートワークを行うため、ネットワーク環境の次に注目したいのは端末のスペックだ。これまでは表計算やワープロ入力などの単純作業やブラウジングによる調査が業務の中心であれば、PCのスペックについては、それほど厳密に選定されていなかった。モバイルに便利な軽量でコンパクトな製品であれば、問題なかったのだ。

しかし、コロナ禍による業務形態の変化は、PCに求める機能にも変化をもたらしている。その顕著な例が、一般化したWeb会議への対応だ。これまでのPCにもカメラや音源は機能として搭載されてはいたが、使用頻度は低くとくに重要視されていなかった。しかし実際に自分の映像を相手に伝えるのであれば、少しでも綺麗に映るカメラが求められる。昨年の緊急事態宣言の前後に外部接続のWebカメラが欠品となったことも記憶に新しい。また、Web会議で音声伝達の不備は、商談や打ち合わせの致命的なミスにつながってしまう。少しでも危機に不安がある場合は、専用マイクやヘッドホンの導入をおすすめしたい。

一般的なデスクワークを前提にするなら、CPUは4コア以上、メインメモリーは8GB以上、ストレージはSSDというスペックが一般的な目安になる。具体的には、CPUはノートPCの場合、Core i5、Ryzen 5以上というのが一定の目安。メインメモリーについては、大容量のデータを取り扱ったり、複数のアプリケーションを起動するような場合、8MB以上であればよりスムーズな操作が期待できる。ストレージについては、アプリケーション起動の素早さだけでなく、モバイル端末の耐衝撃性という観点でもSSDの搭載機種が望ましい。

業務で動画編集の需要増には新しいPCの調達サービスを

コロナウイルス感染防止のため、多くの企業が訪問による打ち合わせをリモートで行うようになったことで、営業活動やオフィスでの業務に変化の兆しが出ている。それが業務に動画を積極的に取り入れる動きだ。ある企業では、これまで紙のパンフレットを利用していた会社案内を動画配信に切り替えるという。また、自社製品やサービス内容の紹介を動画配信へシフトする動きもみられる。業務で頻繁に動画を扱うとしても、確認などの視聴であれば先に述べたPCスペックで問題はない。ところが動画の編集を行う場合は、とたんに不満を感じるようになる。PCを使った業務の中でも動画編集と3D CADの用途は、高いスペックを必要とする。その大きな違いが画像処理のチップであるGPUを搭載している点だ。今後、動画編集を業務で行うようになれば、GPUを搭載したワークステーションの導入が増えるかもしれない。

昨年の緊急事態宣言の発令の際、企業はさしあたりリモートワークをするため、税制に有利な10万円以下のノートPCを大量に支給したという話も聞くが、前述のような用途や使い方によって不満が出はじめている。今後、すでに支給したPCの一部がリプレースされる可能性も高く、ビジネスチャンスが期待できる。

また生産性向上という観点では、マルチディスプレイ環境の構築やプリンター配備も検討すべき課題の一つだ。それと関連して注目したいのが、リモートワークに求められるハードウェアやアクセサリー、サービスを用途に応じて最適化し提供する日本HPの新サービス「HP Business Boost」だ。業務に応じたハードウェアおよびセキュリティサービスをパッケージ化し、従業員の自宅を含む勤務先への訪問修理を提供することが同サービスの第一のポイント。さらにそれを利用しやすい月額料金で提供することがもう一つのポイントになる。

ローカルブレイクアウトの概念図

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