コロナ禍が落ち着きを見せ始めて収束に向かう中、2023年は、マイクロソフト製品のサポート終了が迫っている。まず、Office 2013のサポートが2023年4月11日に終了する。また、Windows Server 2012/2012 R2(以下2012/R2)の延長サポートは、2023年10月10日に終了する。これまでのように入れ替え需要があれば、パートナー様にとってビジネスチャンスのはずだが、今回は様子が少し違うようだ。ここからは、サポート終了におけるパートナー様のサーバー入れ替えビジネスを中心に考えてみたい。

出遅れが目立つ2012/R2の入れ替え。その商機を改めて考える

2023年10月のWindows Server 2012/2012 R2のサポート終了が迫る中、対象サーバーの移行はあまり順調とは言えないのが実情のようだ。その理由として挙げられるのが、企業のサイバーセキュリティの意識の変化だ。だが、ハードはいずれ陳腐化する。サーバーOS のサポート終了というマイルストーンを商機として生かすには何が必要なのか。それを改めて考えてみたい。

EOS後も20万台超が稼働。商機はこれからも続く

Windows Server 2012/2012 R2(以下2012/R2)の延長サポートが2023年10月10日に終了する。Windows Server 2012のリリースは2012年9月、Windows 8からWindows 8.1へのアップデートに対応してWindows Server 2012 R2がリリースされたのは2013年10月のことだ。このサーバーOSのサポートは、Windows Server 2012リリースから11年後の今年10月に終了することになる。

Windows Server OSのサポートライフサイクル

調査機関によると、2021年6月時点で国内で稼働するWindows Server 2012/R2サーバーは約45万台。同調査では、EOS(End Of Support)時点で20万台超のWindows Server 2012/R2サーバーが稼働し続ける見通しという。2年近く前の調査になるが、サーバー移行に必要な準備期間を考えると、この数字は今も大きく変わっていないと考えられる。

ではなぜ、Windows Server 2012/R2 EOSからの移行に出遅れが目立つのだろうか。近年の半導体不足や円高に加え、その理由として、企業の情報セキュリティに対する意識の変化を指摘する声も多い。OSサポート終了後のリスクとしてまず挙げられるのが、マルウェアの脅威の増大である。だが、OSをアップグレードしたからといって、必ずしもデータが安全に守られるわけではない。そもそも、サポートされたクライアントPCを踏み台に攻撃を仕掛ける脅威には、最新のサーバーOSによる防御も無効と考えざるを得ない。

一方でリモートワークの一般化や世界的な地政学リスク増大、さらにはBCP対策の強化などの観点から、企業の情報セキュリティに対する意識はこれまでになく高まっている。企業としてはEDR(Endpoint Detection and Response)など、ネットワーク全体を視野に入れた新たなセキュリティ対策にIT予算を振り向けたいのではないだろうか。逆説的だが、確かにセキュリティ意識の向上がサーバーOS移行の決断の遅れにつながっているという見方もできそうだ。

一方で、サポートの有無を問わず、ハードウェアの老朽化や陳腐化は避けて通ることができない。サーバー製品メーカー各社によるリプレースの目安は約5年。ミラーリングやバックアップによりデータの安全が担保されていたとしてもリプレースは避けられない課題である。EOSに伴うリプレース提案では、これまで以上に新たなベネフィットが見える提案が求められる。

EOS後も同じサーバーを使い続けるリスク

まずはWindows Server 2012/R2 EOSの対応策を簡単に整理しておきたい。Windows Server 2012/R2の移行先はWindows Server 2016/2019/2022になるが、特にアプリケーションサーバーの場合、最新となるWindows Server 2022は互換性の観点でためらわれることも多いようだ。対応策は基本的に以下の4通りに分類できる。

インプレースアップグレード

現時点でWindows Server 2012/R2を実行している環境に、新バージョンのWindows Serverをインストールして置き換える。ワークロードやデータを新環境に移行する必要がないため、移行のハードルは極めて低い一方で、移行元・移行先のバージョンの組み合わせに制約がある点には注意が必要だ。Windows Server 2012がアップグレード可能なのはWindows Server 2016のみ。Windows Server 2012 R2がアップグレード可能なのはWindows Server 2016またはWindows Server 2019に限られる。なおWindows Server 2016は2027年1月にサポートが終了するため、対応後にも短期間で再度アップグレードする必要が生じる。またこの方法ではハードの老朽化には対応できないため、いずれ対応が必要になる。

リプレース

バージョンのWindows Serverを新規インストールし、現行の環境からアプリケーションやデータを移行する。OSサポート終了とハード老朽化の双方を解決する最も堅実な方法だが、新環境の構築とワークロード・データ移行には一定の工数が必要になる。また移行元OS・移行先OSの組み合わせに制約はないが、バージョンを飛び越えた移行には十分な検証が求められる。

ESUによる延命

実はWindows Server 2012/R2は、延長サポート終了後も「拡張セキュリティ更新プログラム(ESU)」が最長3年間にわたり有償で提供される。ESU期間中は、マイクロソフトが「緊急」と「重要」に分類するセキュリティ修正プログラムが配布され、一定の情報セキュリティが担保される。ESUは原則として、移行が困難なサーバーへの緊急対策として提供される。購入には、ソフトウェアアシュアランスまたはそれに相当するServer サブスクリプションが必要で、エンタープライズ アグリーメント (EA)、エンタープライズ アグリーメントサブスクリプション (EAS)、サーバーおよびクラウド加入契約 (SCE)、および教育ソリューション加入契約 (EES) 経由で購入する。なおWindows Server 2012/R2をMicrosoft AzureやAzure Stack HCIに移行して継続利用する場合、ESUが無償で提供される。

マイクロソフトのサイトではESU取得方法が公開されている

クラウドへの移行

ある調査によると、Windows Server 2012/R2の移行先としてクラウドを想定する企業は30%に及んでいる。ただし全面的なクラウド移行を選択する企業はさほど多くなく、多くは管理工数の削減や情報セキュリティの観点から、一部のサーバーをクラウドに移行するようで、ハイブリッド化は重要な選択肢の一つになると考えられる。

Windows Server 2012/R2の用途は、ファイルサーバー、データベースサーバー、アプリケーションサーバー、Webサーバー、メールサーバー、ドメインサーバーなど。クラウドへの移行のしやすさではActive Directoryなどのドメインサーバー、アプリケーションサーバー、ファイルサーバーが挙げられる。

Windows Server EOSへの4つの対応策

Azureによる巻き取りの意思を隠さないマイクロソフト

次に押さえておきたいのが、Windows Server 2012/R2 EOSにおけるマイクロソフトの立ち位置である。関連する各種施策からは、Microsoft Azureへの誘導に向けたこれまでにない強い狙いがうかがえる。

2022年10月にスタートした、Microsoft Azure移行準備の支援を行うサーバー移行支援キャンペーンはその一つである。支援の対象となるのは、①オンプレミス環境のアセスメント、②クラウド移行の計画を立てるクラウド導入(CAF)ワークショップ、③一部ワークロードをクラウド上で検証するPOC(ランディングゾーン)の3ステップ。実際にMicrosoft Azureを移行先に選んだ場合、本番移行においても手厚い支援が得られる。

条件を満たすことで、最長3年間のESU無償提供が得られることも注目ポイントだ。対象となるのは、以下の三つのパターン。

①Azure 仮想マシンに再構成
既存アプリケーション・ワークロードをAzure VMware Solutionで再構成する。

②VMware環境でクラウド移行
VMware ベースのワークロードをオンプレミスから Azure に移行する。

③Azure Stack HCI
実はオンプレミスのサーバーリプレースでもESUを無償で利用することが可能だ。それはAzureサービスの一環として提供されるAzure Stack HCIアプライアンスを活用する方法である。

Microsoft AzureやAzure Stack HCIへの移行で無料ESUの利用が可能になる

Azure Stack HCIは、特にSMB市場において注目される最小2ノードから運用できるHCI(Hyper Converged Infrastructure)。HCIによる管理工数の削減に加え、Microsoft Azureとオンプレミス環境の統合管理が可能という特長を備えている。オンプレミスのサーバーリプレースにもESUを無償提供する背景に、将来的なMicrosoft Azureへのワークロード回収の狙いがあると考えて間違いないだろう。

サーバー管理工数の削減が重要なキーワードに

マイクロソフトは多様なキャンペーン施策でMicrosoft Azureへの移行を促しているわけだが、移行先に関する調査からもうかがえるとおり、企業のクラウド移行の機が熟しているわけではない。こうした中、セキュリティに代わるベネフィットとして、何を提案すべきなのだろうか。

それを考える上で大きなヒントになるのが、サーバーメーカー各社の提案だ。次にWindows Server 2012/R2 EOSの際の各社の提案内容を各社特設サイトや配付資料を通して俯瞰したい。

NEC

特色としてまず挙げられるのが全方位的な対応だ。「クラウド連携による柔軟な容量の確保」「レプリケーションによるBCP強化」「HCIによる管理工数の削減」「セキュリティ対策」など、エンドユーザー様のニーズを網羅するコンテンツは、Windows Server 2012/R2 EOSを受けた提案を考える上でも有意なものと言える。中でも注目したいのが、Azure File Syncによるオンプレミスのサーバーとクラウドの連携提案だ。利用頻度が高いファイルのみオンプレミスで保持し、低いデータは管理情報のみオンプレミスに残す運用は、操作性とBCP対策やストレージ拡張性の両立を実現する提案として注目する必要があるだろう。

NEC特設サイト

富士通

特設サイトにおいて既存サーバーの運用課題として指摘するのは、大きく「テレワーク推進」「BCP」「統制強化」「仮想化基盤の管理省力化」の4点。その解決策として「VDIの導入」「OS標準機能でできる仮想化HAクラスターやDR対策」「クライアントPCからサーバーまでを一元管理できるActive Directory、アップデートを一元管理できるWSUS」「HCI導入」を掲げる。リモートワークの普及が進む中、サーバーリプレースを機にVDIへの移行を希望するケースもありそうだ。また複数拠点にサーバーを配置するエンドユーザー様の場合、仮想化HAクラスターやDR対策も重要なキーワードになる。

HPE

IT人材不足に伴うサーバー管理工数の削減は多くの企業が直面する課題だ。二つの方向からこの課題への独自の解決策を用意したのがHPEである。一つは、同社の主力サーバー製品であるHPE ProLiantサーバーが実装する独自開発プロセッサー「HPE Integrated Lights-Out(iLO)」を基盤としたリモート監視機能の強化だ。最新サーバーには、クラウドベースの機械学習とパフォーマンス監視を組み合わせたAI主導の運用を追加することで、パフォーマンスを最適化すると共に、問題を予測して回避する機能も実装された。

もう一つが、サーバーの導入、監視、管理を行うクラウドネイティブな管理コンソール「HPE GreenLake for Compute Ops Management」を利用したサブスクリプションサービスである。オンプレミス環境をクラウド同様に月額課金で運用できる同サービスは、従来のサーバー管理者の工数を大幅に削減することが期待されている。

HPE特設サイト

Lenovo

特設サイトは開設していないが、以前からマイクロソフトとの協業を重視する同社の取り組みで特に注目したいのが、Azure Stack HCIアプライアンス製品への積極的な対応である。Microsoft Azureとの連携によってハイブリッドクラウドとして利用でき、一部のクラウドサービスをオンプレミス環境で利用することもできるAzure Stack HCIは、ESU無償提供もあり、Windows Server 2012/R2の有力な移行先候補になり得る。

Lenovo特設サイト

最後にWindows Server 2012/R2移行提案をベネフィットという観点で整理したい。まず注目したいのは、サーバー管理工数の削減という観点だ。情シス部門がITインフラの管理に追われる状況は、DX推進という観点において大きな課題であり続けている。この状況を変えるため、守りから攻めの情報システム部門に変わるのであれば、HCIによる管理工数の大幅な削減は大きな意味を持つ。管理工数の削減という観点では、ハードの管理が不要になるクラウド移行も大きな意味を持つ。その第一歩として、Azure File SyncやAzure Stack HCIによるハイブリット化に注目したい。特にBCP対策の強化を検討する中小企業の場合、クラウドの活用は重要な選択肢になる。また、HPE ProLiantに代表される管理工数削減に向けたメーカーの取り組みにも注目する必要がある。

さらにリモートワークへの対応という観点では、サーバーリプレースを機にしたVDI導入も重要なキーワードになるはずだ。企業のWindows Server 2012/R2 EOS対応の出遅れは、経営環境の流動性が増す中、IT投資の次の一手を見極めようとする姿勢の反映とみることもできる。サーバーリプレース提案ではDXまで視野に入れる必要があることは間違いない。

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