生成AIの高度化によりAIエージェントの業務代行が現実味を帯びる一方、人材不足やコスト面の課題などによって導入に踏み切れていない中小企業も多い。AI活用の遅れが死活問題となる今、必要なのは理想論ではなく身の丈に合った導入策だ。本特集では、AIの実装につなげるための考え方や人手不足を解消する現実解を整理する。

データから浮かび上がるAI利活用の現在地

生成AIが登場した当初、日本企業の利活用の出遅れを懸念する声は少なくなかった。しかし、ChatGPTの一般公開から3年が過ぎた今、その普及は確実に進んでいると言えそうだ。財務省が2025年12月上旬~2026年1月上旬に実施したヒアリング調査によると、AIを業務に利活用しているのは、大企業89%、中堅企業66%、中小企業65%に及ぶという。これは生成AIに限った調査ではないが、文書作成や情報収集が用途の上位を占めており、生成AI利活用の現状がある程度は反映されていると考えて間違いないだろう。ただし、中小企業についてはその限りではない。

同調査の対象企業は、各財務局が地域の景気予測を目的として継続的に行ってきた調査に重なるとみられる。地域を代表するような地場企業を対象にした調査が、一般的な中小企業の実態を表しているかというと疑問が残る。こうした中で注目したいのが、財務省調査とも重なる2025年11月中旬~12月中旬に中小機構が全国1万社の中小企業を対象に行ったWeb調査だ。その調査では、AIを「全社的に導入している」「一部の業務で導入している」の合計は20.4%で、5社に1社の割合にとどまる。社員の判断で生成AIを文書作成や情報収集に利用するケースを除くなら、この調査の方が実体に近いのではないだろうか。

対象と方法が異なる二つの調査を単純には比較できないが、ここから見えてくるのは生成AI利活用に関する大企業と中小企業のギャップである。生成AIの能力の劇的な向上を考えると、このままでは生産性に関する大企業と中小企業の格差がさらに広がることは避けられず、いずれ優勝劣敗にもつながるはずだ。日本政府は「知的財産推進計画2025 ~IPトランスフォーメーション~」の中で、AI施策のKPIとして「日本企業のAI利活用率を概ね100%まで高める」という目標を設定しているが、ITビジネスにおいても中小企業のAI利活用支援が重要な課題であることは間違いない。

業務効率化が目的であれば実はAIの必然性は薄い

では、中小企業のAI導入支援はどのような観点で行うべきなのか。まずは中小機構の調査結果に基づき、AI利活用の現状を整理しておきたい。導入済み企業が導入部署として回答したのは、「総務・管理部門」(68.3%)、「営業・販売・サービス部門」(60.3%)、「経営・企画部門」(58.5%)、「製造・生産部門」(34.9%)の順だった。導入済みのAIサービスでは、「生成AI」(82.6%)、「音声認識・音声対話AI」(29.8%)、「画像認識AI」(11.2%)、「需要予測AI」(8.1%)、「異常検知AI」(4.3%)。導入目的は「業務効率化/作業時間の短縮」(87.0%)が最も多く、2位の「品質向上」(32.3%)に50ポイント以上の差をつけた。調査では、直近3年間の売上推移に基づき、企業を「増収傾向」「横ばい傾向」「減収傾向」の3グループに分けて分析を行っているが、増収傾向グループでは「品質向上」が導入目的の38.6%を占めるのに対し、横ばい傾向のグループでは29.0%、減収傾向のグループでは26.4%にとどまる点も注目したいポイントだ。

成長企業は品質に注目?

中小企業の生成AI導入は、業務効率化や人手不足解消の観点で語られることが一般的だ。もちろん、「品質向上」に着目してAIを導入したから事業が伸長したと捉えるのは、あまりに短絡的だろう。しかし、その効果が業務の省力化にとどまらないことは留意する必要がある。

こうした観点を裏付けるのが、AIとITツールのそれぞれに対する評価である。調査では、導入済み企業に対し、AIとRPA、BIツール、チャットボットなどのITツールの評価をテーマ別に行っているが、双方を比較すると「業務効率化/作業時間の短縮」については既存ITツールの方が高く、「人手不足対応」では両者の評価がほぼ同等だった。一方で「付加価値創出」では、AIの評価(22.3%)は既存ITツールの評価(7.4%)を大きく上回っている。

効果は付加価値創出が突出

ITツールは、あくまでビジネスの道具にすぎなかった。それに対し、いち早く生成AIをビジネスに生かしてきたイノベーターやアーリーアダプターが口をそろえるのが、ビジネスの“右腕”としての生成AIの役割である。AI導入が遅れるエンドユーザー様に、業務の効率化や人手不足への対応という観点から提案を行うことは確かに効果的だ。しかし、生成AIの提案ではそれだけにとどまらず、新たな価値創造まで視野に入れた提案が大きな意味を持つことになりそうだ。

生成AI提案を考えるうえで改めて振り返りたいのが、2025年2月にPwCが発表した、日本、米国、英国、ドイツ、中国の売上高500億円以上を対象にした生成AIの実態調査である。

調査では、AI導入効果が期待以上であったグループと期待以下であったグループの双方に包括的な調査を行っているが、そこから浮かび上がったのは、組織のAI導入に関するスタンスと効果の相関関係だった。例えば、「効果が期待未満」と考えるグループが「既存業務を前提として、自社ビジネスの効率化・高度化」を図る傾向があったのに対し、「効果が期待を大きく上回る」と答えたグループが「事業モデルから見直す姿勢で、業界構造の根本から変革」する傾向が強かった。そのほか、「経営課題と捉えて経営トップ自らが推進体制に参画」「AIによる完全な業務置き換えを志向」など、全社的な取り組みがAI導入の成功を左右することが示されている。

ここから見えてくるのは、既存業務を代替するという考え方がAIの可能性を強く制約している状況だ。では、どういう視点でAI提案を考えていくべきなのか。その答えは決して一つではない。

その理由は、AI利活用の可能性の幅広さにある。ここでAI利活用を用途別に整理してみたい。オフィス業務におけるAI利活用は以下のように整理できる。

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