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PROFILE

日本クラウドコンピューティング株式会社 代表取締役社長
清水 圭一 氏

明治大学政治経済学部卒業後、大手IT企業を経て、2010年に日本クラウドコンピューティング株式会社を設立。以来、従業員50名以下の中小企業を対象に、経営者視点・業務視点でのAI・IT活用のコンサルティング、導入支援、研修、講演活動を実施。中小企業の実情に沿ったAI活用支援を行っている。

もはやAIは業務効率化のツールにとどまらず、企業経営を支えるインフラとして機能し始めている。特に中小企業では、身近な業務への活用から投資対効果を実感しやすく、迅速な変革につながる可能性が高い。しかし、実際にはどこから導入し、どのように成果を引き出すべきか分からないケースも多いようだ。そこで、日本クラウドコンピューティング株式会社の代表取締役社長として中小企業に特化したITコンサルティングを行う清水圭一氏に、実践知に基づくAI利活用のポイントを聞いた。

AIの果実を刈り取るにはどこから取り組むべきか

AI利活用を巡る、大企業と中小企業の格差を指摘する声が少なくありません。こうした中、清水さんは自社サイトなどで中小企業に特化したAI利活用のヒントを積極的に発信されています。本題に入る前に、従業員50名以下に特化したITコンサルティングというビジネスを立ち上げられた理由からお聞きしたいと思います。

清水 圭一氏(以下、清水氏):私は大学卒業後に就職したIT企業で長くエンタープライズ営業を担当してきましたが、数百億円規模のプロジェクトの場合は携わるスタッフも多く、効果が見えるのは何年も先の話になります。一方、システム部門を持たないような中小企業の方とお話しすると状況は全く異なるわけです。得てして経営者自身が担当者というケースもあり、そのスピード感は大企業とは比較にならないほど早いのです。こうした中、むしろ中小企業の方が意義ある仕事ができるのではないかと強く感じました。従業員50名以下という数字自体に大きな意味はありません。システム部門を持たない企業の目安という意味合いが大きいですね。

また、私が今の会社を立ち上げた2010年当時、SaaSに代表されるクラウドサービスの台頭期であったこともその判断を後押ししました。クラウドサービスの最大の特長は、これまでエンタープライズ企業にしか使えなかったようなツールを中小企業も月額課金で使えるようになった点にあると考えています。AI利活用についてもそれは同じです。中小企業だからこそスピード感ある導入が可能だという観点から提案を続けています。

清水さんが生成AIに注目されたのはいつ頃のことですか?

清水氏:自社の業務にAIを使い始めたのは2023年頃です。実際に使い始めると、例えば会計システムへの入力で分からない点があった際にも、AIに聞けばサポートに問い合わせるまでもなく解決できてしまうわけです。その可能性にはすぐに気づかされました。

AI利活用が「バズワード化」する一方、どこから手をつけるべきか悩む企業は少なくありません。導入プロセスを具体的に教えていただけますか?

清水氏:中小企業の導入支援で常に私が心掛けているのは、まずは身近なことからAIに仕事を任せてみるという観点です。OCRによる経費精算の自動化はその一例です。特に経営層の場合、毎月の経費精算に1時間以上掛けていることも珍しくありませんから、投資対効果の明示が可能です。また、業務マニュアルの整備も第一歩としておすすめしているAI利活用の一つです。中小企業の場合、人事労務の業務マニュアルが用意されているものの、データ更新が行われていないために実際は使われていないというケースも珍しくありません。こうした場合、生成AIに既存マニュアルを読み込ませたうえで、修正点を音声入力することが有効です。順序を気にすることなく思いついたことから入力すれば、AIがそれを上手にまとめてくれます。業務マニュアルをアップデートしておくことで、AIとの対話による検索が可能になることも注目したいポイントです。

法務分野における活用もその一つです。中小企業は弁護士との顧問契約を結んでいないことも少なくありませんが、その結果、契約書の不利な条文を見落とすなどのリスクが否めません。顧問弁護士の費用は月5~10万円が一般的です。スポットでチェックを依頼することもできますが、この場合、一案件につき2~3万円が相場です。AIであれば、条文を読み込ませるだけでそのリスクを的確に洗い出すことができます。

これらの提案に共通するのは、投資対効果が明確である点です。1人の経費精算に1時間掛けていたなら、従業員50名の企業は50時間の省力化が可能です。マニュアル整備は、多くの中小企業が直面している属人化の解消に大きな役割を果たすはずです。まずは投資対効果が見えやすいところから取り組みを開始することが重要なポイントになります。

データドリブン経営にもAIが果たす役割は大きい

清水氏:経営計画書の作成もおすすめしたいと思います。従業員50名以下の中小企業の場合、経営計画書を作っていないことも珍しくありません。目先の仕事への対応に追われて手が回らないのは仕方ないことですが、経営計画書を作成することで見えてくる課題は少なくありません。しかし、これもAIに決算書を読み込ませることで簡単に作成できてしまうのですよ。「交際費が多すぎる」など経営者にとっては耳が痛くなる指摘も多いのですが、当社の顧客の場合、AI利活用をきっかけに経営計画書を作成し、経営判断に取り入れるようになったというケースも多いですね。

DXではデータドリブン経営が重要視されていますが、特に中小企業がそれを実現するためには、データを分析してビジネスに反映することができる人材の確保が難しいという課題がありました。それだけに、今後データ利活用の領域でAIが果たす役割はかなり大きくなりそうですね。

清水氏:まさにそのとおりです。具体例を挙げると、経営計画書の次のステップとして人事考課におけるAI利活用を提案しています。中小企業の場合、従業員の評価において経営者や上司の主観が大きなウエイトを占めることがあります。それを全て否定するつもりはありませんが、従業員が安心して働き続けるうえでは「正当に評価されている」という実感が重要です。AIによる客観評価と人間による主観評価の併用は、従業員の定着率向上において大きな意味を持つはずです。

また、あまり指摘されることはありませんが、従業員の自己啓発支援という観点でもAIは大きな役割を果たします。優れた人材を中途採用することは従業員間の大きな刺激につながりますが、中小企業には、こうした刺激が乏しいのが実情です。そんな中、経営者が率先してAIを利活用することは、業務を知り尽くしたスーパーマン社員が中途入社したのと同じような効果があるのです。実際のスーパーマン社員と違い、どれだけ経営者に重用されても、妬みなどによって社内がギクシャクする心配もありません。まさに理想の中途採用社員です。当社の顧客には、AIを活用して何十年も続けてきた仕事のやり方の見直しが進んだケースもありますが、「中途入社した優れた同僚」としてのAIが大きな役割を果たしたと言えるかもしれません。

逆に、中小企業のAI導入において注意すべき点として、どんなことが挙げられますか?

清水氏:まず挙げておきたいのは、目的が明確化できないまま導入してはいけないということです。特に補助金・助成金の活用を前提としてAI導入を検討する場合、こうした状況に陥ることが少なくないようです。何を目的として導入するのか、しっかりと整理しておく必要があるでしょう。また、AIリスクを過大に受け止めることも避けるべきです。自社データが学習に利用されることを懸念する声は少なくありません。しかし、大企業であればともかく、中小企業が懸念すべき事柄であるかというと、それは疑問です。導入リスクを考えることは決して間違いではありませんが、極力、客観的に考えるべきです。AI利活用ではハルシネーションも課題の一つですが、リスクがあるから使わないという選択は、AIに関しては現実的ではありません。使う側のリテラシー向上を通してリスク低減を図ることが重要です。

ノーコ-ド開発が導くオンプレ回帰の動き

いったんAIから離れますが、今後のITビジネスを考えた際のキーワードとしては何を挙げますか?

清水氏:まず挙げておきたいのはセキュリティですね。CEO詐欺など新手の手口が次々と現れる中、企業規模を問わず、特にメールフィルタリングなどのセキュリティ機能や従業員教育などへの投資は惜しむべきではありません。また、来年1月にはWindows Server 2016のサポートが終了しますが、セキュリティの観点ではOSアップグレードを確実に行うことも重要です。ちなみに米国では今、オンプレミス回帰が大きなトレンドになりつつあります。タイミング的にWindows Server 2016 EOSへの影響があるか分かりませんが、今後日本でも同様の傾向が現れる可能性があることは押さえておく必要がありそうです。

なぜ米国ではオンプレミス回帰が進んでいるのですか?

清水氏:大きな理由の一つとして挙げられるのが、AIのコーディング能力の向上です。クラウドの利点として、多様な業務パッケージが低額の月額課金で利用できることを挙げましたが、クラウドとはいえ、安く利用できるツールばかりではありません。中には1アカウントごとに数万円が月額課金されるようなサービスも存在します。その一方で、プログラミング知識を持たない人でもAIとの対話を通してコーディングを行うことが可能です。こうした状況を受け、ベンチャーやスタートアップを中心にAIを活用したアプリ開発の内製化を選択する傾向があると指摘されています。

実は私もAIで自社の営業支援アプリなどを内製していますが、当社のような中小企業が必要とする機能を備えた業務アプリ程度なら、本当に簡単に作れてしまいます。かつてパッケージ製品に合わせた業務見直しの有義性が盛んに提唱されましたが、それは大企業だからこそあてはまる話です。また、以前と違い、サーバー運用管理に関する負荷も大幅に低減されています。AIによる業務アプリ開発の内製化を起点としたオンプレミス回帰は、今後日本でも進むのではないでしょうか。

最後に読者の皆様へのメッセージをお願いします。

清水氏:顧客の課題を理解し、整理するうえで、AIは絶好のテーマです。ゴルフが趣味だという方であれば、AIによるスイング最適化のような話題から始めてもいいと思います。AIを起点にした会話はきっと、さまざまなビジネスの気づきにつながるでしょう。

AIは驚くほど仕事ができる優秀な中途社員
経営者の右腕として
従業員に強い刺激を与える存在だ