太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーが広く浸透したことを受け、電力供給には新たな課題が浮上している。それは電力ピーク需要への対応という課題だ。よく知られるように、時間帯や季節によって電力需要には大きな変動がある。東日本大震災後の電力需給ひっ迫を機に、企業等ではピークカットやピークシフトという考え方が普及したが、それにより夏場のエアコン稼働に代表されるピーク需要が解消されたわけではない。
一方、日射量や風の強さなど天候に左右にされやすい再生可能エネルギーは、ピーク需要に柔軟に対応するのは困難だ。また太陽光発電のピークの供給電力過剰は、送配電系統の不安定化の原因にもなっている。そのため再生可能エネルギーの比重を高めつつ、電力の安定供給を図るうえでは需給ギャップを調整する仕組みが不可欠になる。
現在その役割を担っているのは、発電量をきめ細かく調整することが可能な火力発電である。この問題は、再生可能エネルギーの利用が進めば進むほど、火力発電の重要性が高まるというジレンマにもつながっている。特に、石炭火力発電は温室効果ガスの主要な排出源とも目されているだけに、温暖化問題を考えるうえでも、火力発電に頼らない需給ギャップ調整の新たな仕組みが求められる。
解決策として期待されるのが、仮想発電所(VPP:Virtual Power Plant)という考え方である。太陽光発電や蓄電池、電気自動車(EV)といった多様なエネルギーリソースを一元的に制御することで、一つの大きな発電所としての役割を担わせることがその基本的な考え方。具体的には、再生可能エネルギーによる発電を蓄電し、必要に応じて供給する仕組みといえる。そこにおいて大きな役割を果たすのが、IoTやAI、そして取引情報などのデータを同期して記録するブロックチェーン技術だ。
発電所という言葉からは、巨大な蓄電池を地下に埋設し、需給の変化に対応するシステムを連想しがちだが、仮想発電所が想定するエネルギーリソースは決してそのようなものではない。リソースの一つにEVが
挙げられていることからもうかがえる通り、オフィスのBCP用蓄電池などを含む、既存の様なエネルギーリソースをきめ細かくコントロールすることで需給ギャップの調整を行うことがその大きなポイントだ。
例えば、大型リチウムイオン電池を製造販売するエリーパワーが2018年に東京電力、関西電力などをパートナーとして行った実証実験では、オフィスビル内に分散配置された数百台のBCP用可搬型蓄電池が仮想発電所の蓄電システムとして利用された。
ビジネスモデルとしての仮想発電所では、分散型エネルギーリソースを統合制御し、電力を提供する事業者はアグリゲーターと呼ばれる。アグリゲーターはさらに、需要家等とVPPサービスを締結してリソース制御を行うリソースアグリゲーターと、リソースアグリゲーターが制御した電力量を束ね、一般送配電事業者や小売電気事業者と取引を行うアグリゲーションコーディネーターに分けられる。
これまで再生可能エネルギーは、国が固定価格で買い取ることを約束し、既存の発電システムとの差異を国民が電気料金で負担する固定価格買い取り制度(FIT:Feed in Premium)で普及が進められてきた。だが2022年4月以降は電力市場の実勢価格に基づいて取引が行われ、補助金を上乗せするFIP(Feed in Premium)と呼ばれる新制度に移行する見通しとなっている。欧州などで先行する取り組みだが、再生可能エネルギーの場合、市場の変動に応じて電力供給をコントロールすることは困難だ。仮想発電所は、FIPへの移行後も再生可能エネルギー導入を促進していくうえで大きな役割を果たすことが期待されている。