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にっぽんの元気人
2020年3月時点の情報を掲載しています。

テレワーク導入は重要な経営戦略意識を変革するような提案を

 総務省委嘱テレワーク マネージャーを務め、『あなたのいるところが仕事場になる「経営」「ワークスタイル」「地域社会」が一変するテレワーク社会の到来』(大和書房刊)の著者でもあるキャリアシフト代表取締役の森本登志男さん。マイクロソフトでの職務経験が長く、佐賀県庁をはじめとする官公庁や、数多くの民間企業のテレワーク導入を支援してきた森本さんに、企業にとってのテレワーク導入の意義や、導入支援をするうえでのヒントについて聞いた。

2020年は企業のテレワーク導入が本格化する年テレワークは社員への福利厚生ではなく重要な経営戦略である

2020年はテレワーク導入が本格化するターニングポイント
BP:森本さんは、2011年に佐賀県庁のCIO(Chief Information Officer:最高情報統括監)に就任され、全国に先駆けて全庁にテレワークを導入するなど、公務員組織の枠組みに一石を投じたそうですね。今日のように「働き方改革」が本格化するかなり以前から、テレワーク推進にかかわってこられたわけですが、これまでを振り返って、日本の官公庁や民間企業におけるテレワーク導入への取り組みは、どこまで進んできたとお感じになりますか。

森本登志男氏(以下、森本氏):
佐賀県でテレワークの導入が成果を上げたことがきっかけになっていると思うのですが、2016年の佐賀県庁の任期を終えた後、多くの都道府県庁からご相談を受け訪問させていただきましたが、18年で一巡した感があり、今は市町村での動きが活発になってきています。
 市町村でも、佐賀県庁のような成果を上げる事例が出てくれば、テレワークの導入は加速するでしょう。
 一方、民間企業では、早いところは東日本大震災のタイミングで導入が広がりました。その後、働き方改革が叫ばれるようになって次の導入の波が来ました。現時点で導入の端緒に立てていない大企業がまだまだ多く存在している反面、中堅・中小企業の一部には急速に導入の機運が広がってきているように感じています。
 わたし自身、昨年(2019年)から、従業員50名前後の中小企業からテレワーク導入のご相談を受けるケースが非常に多くなりました。
 それも、デスクワークがメインではない、製造や工事の現場がメインとなるような会社が積極的になってきています。
 オフィスではなく、製造や工事の現場がメインの会社には、テレワークにはそぐわないのではないかと思われるかもしれませんが、どの会社にも間接部門は存在し、現場や出先で業務に当たる社員から発生する事務処理や顧客との契約、書類のやりとりなどの業務がオフィスで行われています。
 ご承知のように、日本人の労働力人口は年々減り続けていますが、製造業や建設業は特に人手不足が深刻なので、テレワークによる柔軟な働き方の実現が求められているようです。そのような状況にもかかわらず、積極的にテレワークに取り組み、導入している一群と、まだ検討にすら至っていない一群との格差が広がっています。

BP:テレワーク導入への動きは格差が広がっているようですが、 2020年は導入が加速する年になるとご覧になっていたそうですね。

森本氏:
いくつかの大きな外部要因が重なって、テレワーク導入を進めざるをえなくなると見ていました。
 一つは、何と言っても深刻な採用難です。人手不足の中で優秀な人材を一人でも多く確保するためには、柔軟な働き方が実現できる「魅力的な」環境を整えなければなりません。
 先ほど、格差が広がっていると話しましたが、先行する企業はすでに何年も前から人手不足の深刻化を予見し、先手を打っていたわけです。
 また、テレワークの大きなメリットは、わざわざ出社しなくても、自宅でオフィスにいるのと同じように仕事ができることですが、それを生かして業務の継続性を担保する重要性が高まっていることも、テレワークの普及を後押ししています。
 今年は7月に東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、開催期間中、都心部の公共交通が混乱することが予想されるため、この期間になるべく出勤しないように事前に取り組みを始めましょう、と総務省など1府4省が2017年から「テレワークデイズ」を毎年展開してきました。
 2019年4月から施行された働き方改革関連法が、2020年には中堅中小規模の事業者にも適用が拡大されます。そうしたタイミングが、2020年に一度に押し寄せます。さらに、ここ数年は大きな地震や台風などの自然災害が相次ぎ、交通など社会インフラの混乱によって、社員が出勤したくてもできないような状況が何度も訪れました。
 そして、今年2月以降の新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの企業で在宅勤務が行われるという状況まで生まれてきました。
 「テレワーク無しに業務の継続は無理である」という認識を持たざるをえない環境が突然生まれてしまいました。これまでにテレワークの導入を着実に進めてきた企業と、テレワークの準備ができていないまま在宅勤務に突入せざるを得なかった企業には、この期間、大きな差が生じていると予想します。テレワークの用意を何もしていなかった会社が、突然の在宅勤務でまずやらなければならないことは、自宅からインターネットにつながることのできる情報端末(PCやタブレット)と回線、それにWeb会議ツールの準備です。課のメンバー全員が自宅からWeb会議につないで、現在抱えている仕事の確認と、在宅の環境でそれらをどうこなすかを話し合うことから始めてみてください。
 事前予測を大幅に超える形で、テレワークの普及の波が訪れた2020年ですが、間違いなくテレワーク本格化のターニングポイントとなるでしょう。

制度変更を伴うことが導入を妨げる大きなネック
BP:テレワーク導入の格差が生じているというお話をされましたが、いまだに導入に踏み切れていない企業では、何がネックとなっているのでしょうか。

森本氏:
中堅・中小企業は、いざやろうと決めたらスピーディーに実現することも可能なのですが、社員数の多い大企業の中には、なかなか導入に踏み切れないところが多いようですね。
 理由はいくつかあるのですが、テレワークを実践するための情報システムの導入に加え、就業規則をはじめとする制度の変更を行う必要が生じてくる点と、情報セキュリティへの不安が大きいですね。
 大企業の場合、制度の対象となる人数が膨大なだけでなく、業務のバリエーションも広いです。同じ会社でも、それぞれの部門や職種に合った働き方は異なるので、どうやったら不公平にならないようなルールづくりができるのか、ということを考えるだけでも大変です。
 社員数が数十名程度の中小企業なら、部門間や社員同士の合意形成がしやすく、社長のトップダウンによって一気に導入まで進むケースもありますが、規模が大きいと、導入の方法や範囲を決定するための検討項目が多い上に、導入決定に向けての根回しや合意形成をするだけでも数カ月や数年かかってしまうことが珍しくありません。
 その結果、小回りの利く企業はどんどんテレワークを推進しているのに、スピード感に劣る会社だけが取り残されてしまうといった状況に陥るのです。

BP:非常によくわかります。

森本氏:
大企業の場合、テレワークでの業務を前提としたセキュリティ対策についても、結論に至るまでの時間とコストを要してしまう傾向にあるようです。
 さらには、テレワークを始めると社員が出社しなくなるので、「ただでさえ足りていない人手がますます不足して、仕事が回らなくなってしまうのではないか」という誤解を抱いている企業も少なくありません。
 人手が増えたわけではないのに、テレワークを導入することで、以前よりも効率よく仕事を回せるようになったという事例も多く存在しています。創意工夫や検討でより良い運用法を作り出すのか、検討の前段階で決めつけによる思考停止をしてしまうのか。これが先ほどお話しした格差のどちらに位置するかを分けているポイントです。

BP:そうした企業は、本誌の読者である大塚商会のパートナー企業さまにとって、テレワーク導入を提案する有効なターゲットになると思います。どうやって働き掛けたらよいでしょうか。

森本氏:
テレワークはシステムを導入しただけでは、効果的な実践はできません。制度の変革も必要となりますし、「組織風土の醸成」という要素が必要です。
 通常、大塚商会のパートナー企業さまが向き合っている得意先は情報システム部門でしょうが、テレワークの導入に関しては、総務・人事部門が意思決定に強く関わります。システムの提案だけでは、顧客の検討は進みにくく、人事制度も含めた包括的な提案を行う必要があります。最終的には経営層も視野に入れた提案活動が必要となります。
 テレワークは社員への福利厚生ではなく、重要な経営戦略の一環であるという理解を促さねばなりません。
 なぜ、経営戦略としてテレワークに取り組むべきなのかと言えば、取り組まないことによって人材確保はますます困難となり、事業の存続が危ぶまれることになってしまうからです。
 この先、テレワークを推進する企業がさらに増えていけば、それらの企業は自社の働きやすさを強烈にアピールして、人材獲得を優位に進めていくことでしょう。
 そうなると、労働人口の減少がますます進む中で、テレワークを実践していない企業は人材獲得競争で不利な立場に追い込まれてしまいます。
 2020年は、いよいよ企業のテレワーク導入が本格化するターニングポイントの年になると申し上げましたが、ここで出遅れると、人材獲得競争で大きく水を空けられてしまう恐れがあります。こうしたポイントは、顧客側の担当分野で言えば、情報システム部門ではなく、人事部門や経営層へのアプローチとなってきます。トップ同士での提案や、セミナーなどへの誘導といった方策も併せて検討すべきでしょう。

働き方改革関連法の適用で中小企業のニーズが高まる
BP:制度の変革を伴うことが、企業のテレワーク導入を妨げる大きなネックになっているというお話でしたが、読者が得意先に提案できるいい解決策があれば教えてください。

森本氏:
あくまでもひとつのアイデアですが、育児や親の介護といった自己都合で退職した元社員の方にテレワークの仕組みを使って仕事復帰してもらうという方法もあると思います。
 元社員の方の中から、限られた時間、在宅でなら働けるという方の復帰を促すのです。すでに経験のある仕事を頼むので、安心して任せられるというメリットもあります。
 この方法のいいところは、業務委託契約に基づいて働いてもらい、全社的に就業規則などの制度を変更しなくても済む点です。試験的に導入してテレワークの効果や、セキュリティ面での課題などを検証し、制度やシステムを整備して本格的に全社導入するといったステップを踏むことができます。
「ひとまず、スモールスタートから始めてみませんか?」と提案してみてはどうでしょうか。

BP:最後に本誌読者にメッセージをお願いします。

森本氏:
制度変更やセキュリティの問題など、課題が山積しているのでテレワークの導入に踏み切れないとあきらめている会社があまりにも多いようです。しかし、いま導入に踏み切らなければ、会社や事業の存続そのものが脅かされてしまいかねない状況なのですから、得意先にテレワーク導入を提案する際には、そのことをしっかり伝えたほうがいいですね。
 また今年4月には、働き方改革関連法の施行スケジュールに沿って、中小企業にも残業時間の罰則付き上限規定や5日間の有給休暇取得の義務化が適用されます。中小企業のテレワークへの対応がますます必要になってきますので、積極的に提案を行ってみてはいかがでしょうか。

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キャリアシフト株式会社
代表取締役
森本 登志男氏
MORIMOTO TOSHIO

◎ P r o f i l e
岡山県出身。京都大学工学部卒業。マイクロソフトでの16年間の勤務(米国含む)を経て、2011年〜5年間、佐賀県最高情報統括監(CIO)を務める。全国に先駆けて佐賀県庁職員約4000人を対象にした全庁テレワークを導入。ICTを活用した地域の課題解決を行い、「鹿島酒蔵ツーリズム?」(令和元年度ふるさとづくり大賞・最優秀賞(内閣総理大臣賞・総務大臣表彰))を起ち上げ、観光要素の発掘と磨き上げ、PRにおいても功績を収めた。現在は総務省委嘱地域情報化アドバイザー・同テレワークマネージャーとして、官民にわたり広範囲に全国各地で活躍。2019年ニセコで開催されたG20観光大臣サミットではモデレーターを務めた。






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