【連載】
5Gがもたらす生活の変化(3)
5Gの普及で生まれる新たなビジネスチャンス
掲載日:2021/10/05
最近盛んに耳にするようになった「5G」。携帯電話事業者各社が新しいサービスを次々と展開する中で、本連載では5Gが我々の生活にどんな変化をもたらすかを紹介してきた。連載の最後は、5Gの普及によって予想される新たな需要を考えていく。今後のビジネス転換への参考になれば幸いだ。
「ローカル5G」が新たなビジネス分野を切り拓く
連載第1回で解説したように、5Gには「高速・大容量」「低遅延」「多接続」という3つの利点がある。この利点を生かし、5Gの普及によって恩恵を受ける業界は自動車業界、家電業界、ロボット業界、建設機械業界、スポーツやイベント興行事業者、コンテンツ配信業界などさまざまだ。当然それぞれの業界において、5G対応IT機器へのリプレース案件や新規導入案件の需要が増すことになる。
しかし、5GがIT業界に与えるインパクトはそれだけではない。5Gでは4Gまでとは違った通信サービスの利用が可能になるのだ。それが「ローカル5G」である。ローカル5Gとはその名のとおり、5Gの通信インフラを企業や自治体が「自営網として」構築し、IoTなどで活用しようという考え方だ。
5Gは本来無線WANとして広域をカバーするための技術だが、その低遅延や多接続といった特性を生かし、IoTやスマートファクトリーなどの新たなビジネス分野を切り拓くために提案されたソリューションが「ローカル5G」である。
現行の4Gは基本的に携帯電話事業会社のみがサービスを展開しており、ローカル5Gでもネットワークを構築するには総務省に申請を行い、無線局免許を取得する必要がある。しかし公平性の観点から、当分の間は既存の携帯電話事業会社にはローカル5Gの免許が与えられず、それ以外の事業者に免許が与えられることになっている。
総務省は、2019年12月17日にローカル5G制度の概要や必要な手続きを示した「ローカル5Gの導入に関するガイドライン」を策定・公開し、2019年12月24日からローカル5Gの無線局免許の申請受付を開始した。
それによると、ローカル5Gは自己の建物内や土地内でその所有者が自ら構築する「自己土地利用」が基本とされている。しかし、建物や土地の所有者から依頼を受けたベンダーやSIerも、ローカル5Gの免許を取得できる。
ローカル5Gの導入メリットは?
ローカル5Gの導入には莫大なコストがかかる。自社でローカル5Gのネットワークを構築する場合、基地局とコアネットワーク設備に必要な合計金額は最低でも数千万円レベルだ。量産が進めば数百万円レベルに下がることも考えられるが、それでもかなりの初期投資が必要になる。
一方で、ローカル5Gの導入にはさまざまな利点もある。初期投資をしたうえで得られるローカル5Gの導入メリットを紹介しよう。
Wi-Fiよりも広範囲をカバー
従来局所的なネットワークに活用されてきたWi-Fiによる通信は、狭い範囲に限られている。そのため大規模な工場など広い場所や、屋外での通信はカバーしきれないという制限があった。
一方、ローカル5Gはもともと携帯電話で使われることを想定した通信規格なため、広範囲の通信がカバーできる。そのため、大規模な工場など産業用途としてWi-Fiの代わりにローカル5Gを活用可能だ。
セキュリティの担保
ローカル5Gは自エリア内でネットワークを構築するため、外部ネットワークと切り離して運用可能だ。また、周波数によってはサービスエリア外への電波の漏えいが少ないため、高度なセキュリティの実現が期待できる。
安定性があり通信障害の影響を受けにくい
ローカル5Gは、Wi-Fiや公衆回線などと比較しても低遅延や高速伝送が担保される。また、帯域を占有できるため混雑や干渉の心配もない。災害時や大規模なイベントの発生時に多くのユーザーがキャリアの5G回線を利用すると、ネットワークの混雑が発生して接続困難になる可能性があるが、ローカル5Gのように独立したネットワークであればそのような心配はないのだ。
また、仮に不具合が出たとしても自前で修理を行うことですぐにネットワークを復旧できるメンテナンス性も備えている。
自社工場や医療現場を変えるローカル5G
ローカル5Gの導入で、大幅な業務の改善が期待できる。例えば、自社工場のオートメーション化。スマートファクトリーなどと呼ばれる、高度に自動化した工場内において産業用ロボットやロボット台車などの通信をローカル5Gで行うようにすれば、より高速で安定した通信が可能になり、生産の効率化につながる。
また、医療現場において、医療データをスムーズにやりとりしたいというニーズは大きい。大病院でローカル5Gを導入することで、医療データのやりとりが効率化される。そうすると患者の待ち時間が長いといった問題を解決できるほか、過疎地での遠隔診断、治療にも利用できる。
業務の効率化や人出不足が課題となる昨今、業務改善が見込めるローカル5G関連市場が伸びてくることは間違いない。大手ベンダーやSIerなどにおいて新たなビジネスチャンスとなり得る分野であり、その動向には注目したい。