【連載】
ITトレンド解説 XR(1)
コロナ禍で注目を集めるXRとは
掲載日:2021/03/23

新型コロナウイルスの影響で、従来は対面で行っていた打ち合せや商談などがオンラインに置き換わることが増えている。そんな中で注目されているのがVRをはじめとする「XR」だ。仮想空間を介して人や物を引き合わせられるこの技術は、ビジネスのありようをいかに変えていくのか? その未来を3回にわたり解説する。
移動や接触をしなくてもリアルな対面を実現するXR
新型コロナウイルスにより、営業の手段が大幅に制限されている。その主な要因は感染症予防を考慮して、先方へ直接会いに行きにくい点にあり、Web会議システム等で代替している企業も多いことだろう。
しかし通話アプリでは発言が通じづらかったり、商品の実物を介してのアピールがしづらかったりと、コミュニケーションが不十分になる側面があるのも事実だ。そこで注目されるのが、人間を移動や接触といった概念から解放しつつ、よりリアルな対面を実現してくれる「XR」技術だ。XRとはVRやARといった現実と仮想空間を融合させる技術の総称のこと。近年これらの概念が共存するコンテンツが生まれていることからそれぞれの境界線が引きにくくなっているため、「多様なリアリティ体験」といった広義の言葉として生まれたものだ。
XRを構成する各技術

VR(Virtual Reality/仮想現実)
VRは仮想の世界を現実のように体験できる技術。現在の主流はHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を通して、CGや全天球カメラの映像で構築された世界を体験する形式(スマートフォンをVR用ゴーグルに挿入するといった、簡易的な体験方法もある)だ。現実での視点とバーチャル空間での視点が連動しており、身体や首を動かすことで、360度全周囲を見渡すことが可能。
従来はゲームやアミューズメントでの使用例が多かったが、このコロナ禍で、ライブやスポーツをバーチャルで観戦する仕組みも脚光を浴びている。また、研修医の実習や心理療法など、医療現場にも活用の余地はあるだろう。
AR(Augmented Reality/拡張現実)
ARはユーザーが認識する現実の光景上に、仮想世界や情報等を表示する技術。具体的には、スマートフォンやHMDを通して見た現実の映像の上に、データや画像を重ね合わせて表示する形式だ。
わかりやすい例でいえば、現実の風景上にポケモンが現れる位置情報ゲーム「Poke’mon GO」は代表的なARコンテンツ。また、AmazonやIKEAのショッピングアプリで実現している、現実の部屋に家具類のCGを表示し、設置時のイメージを購入前に確認できる仕組みもARだ。
IT機器においても、AppleがiPhoneのニューモデルをARで提示したり、プリンターメーカーが機構を見せたりと、製品のアピールに活用している事例が目立つ。ちなみに、真逆の概念として「AV(Augmented Virtuality/拡張仮想)」もあり、こちらは仮想空間に現実の情報を重ね合わせて表示する技術である。
MR(Mixed Reality/複合現実)
MRは「コンピューター上の仮想の世界と現実の世界を密接に融合させる」技術で、VRとARを組み合わせたような、中間的な仕組みといえる。代表的な製品としては、マイクロソフトのHMD「Microsoft HoloLens」システムなどが挙げられる。
具体的にはHMD上の現実空間の中に3DCGを表示するといった形式でARと似ているが、他の人と同じ物を見ながら操作するなど、遠隔地のユーザー間で体験を共有できる点が大きな特長だ。現状では産業分野を中心に計画や工事・設計の効率化などに活用され始めている。
SR(Substitutional Reality/代替現実)
SRは仮想世界を現実の世界に置き換えて認識させる技術。2012年に理化学研究所が開発したシステムでは、被験者に現在の現実空間とよく似た過去の映像を見せ、それを現在起きている現実のように感じさせ、錯覚を起こさせることに成功している。まだ実験段階ではあるが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療に役立つ可能性や、より現実感の強いエンターテインメントへの活用が模索されている。
現実を拡張する注目の分野
以上、さまざまな可能性を秘めたXRの概要を紹介した。まだ発展途上の技術ではあるが、IKEAの事例のように、現実に浸透しつつあるのも事実だ。これらの技術が進歩したとき、私たちの暮らしはどのように変わり、ビジネスにおいてどんな影響があるのだろうか。次回はその未来を追っていこう。