【連載】
ITトレンド解説 XR(3)
XR技術で生まれる新たなビジネス
掲載日:2021/08/17

仮想空間を介してヒトやモノを引き合わせられるXR技術は、新型コロナウイルスの影響で従来の対面型営業が難しい昨今、その打開策として注目を集めている。第1回、第2回とXRについて掲載してきた本連載の最後は、現在におけるXRの活用例を紹介。今後のビジネスを転換する参考になれば幸いだ。
購入前に商品を試せるARマーケット

VRゴーグルの片目8K化やメガネ型デバイスによるAR/MRの一般化など、XRがまだまだ発展途上な技術であることは前回紹介したとおりだ。とはいえ、現時点でもビジネスへの実用は十分可能で、事例も年々増えている。
例えばARを活用すると、実寸の商品があたかも自室にあるかのように表示できる。ニトリはこの概念をうまく活用している企業の一つだ。同社はリビングスタイルが提供するインテリア試着ARアプリ「RoomCo AR(ルムコエーアール)」に、500点以上の自社製品データを提供。ユーザーが設置した家具類の感覚を事前に確認できるメリットは大きく、購入の後押しとして期待できる。
こうしたARの活用例は他社でも見られ、Appleは新型iPhoneのサイズ感を発売前にARビューアーで披露。OKIデータもプリンター「COREFIDO C650dnw」のARデータを公開し、“クラス世界最小”のサイズを分かりやすくアピールしている。
ユニクロもまた、AR技術を古くから活用している企業だ。AR技術とデジタルサイネージを活用した試着システム「UNIQLO MAGIC MIRROR」を、2012年に大日本印刷と共同開発し一部店舗に設置している。
利用者が商品を試着した状態で鏡の前に立ち、タブレット端末で指定することで、色違いの商品を着たときの印象を体験できる仕組みで、試着の手間が大幅に軽減。客は商品選択の幅を広げられ、店舗側はより多くの商品を手にとってもらえる。
この「AR試着」はハイブランドにも広がっており、ディオールは新作メンズスニーカーの試着ができるARレンズを、カメラアプリ「スナップチャット」用に提供した。グッチも同様にメイクを試用できるレンズを公開し、エンゲージメントの増加を見込んでいる。米スポーツ小売Champs SportsもナイキのスニーカーのAR試着を始めるなど、今後の一般化が予想される。
購入前の疑似体験といった意味では、不動産業界が導入を進める「VR内見」も今後の普及が予測される。文字どおり、現地を訪れなくとも部屋の様子を確認できるため、コロナ禍でも安全に利用できる。ほかにも時間の制約や客同士のバッティングの心配もなく、より利用者とリーチしやすくなる施策と言える。
VRでトレーニングを安全かつ低コストに

VRによる疑似体験をトレーニングに用いる事例も多い。清水建設は2020年、インターンシップをオンラインで実施。VR配信プラットフォーム「Blinky Live」を介して建設現場を360度コンテンツとして提示している。
学生は現場をリアルに体感しつつ、現場担当者から直接説明を受けることが可能だ。現場体験が難しくなっているコロナ禍において有用な手法で、体験者のほぼ全員から好評を博したという。このようにVRトレーニングは危険が伴う業界で広く用いられており、例えば航空業界では航空機の整備や誘導などの体験システムが、大手ルフトハンザをはじめ広く採用されている。
身近なところでは、松屋フーズもトレーニングにVRを採用。受講者はVRヘッドセットを介して、手本を見ながら調理手順や器具の使い方を学習できる。ほかにも券売機の操作やピーク時の混雑対応など、幅広いプログラムを実装。近年の雇用事情に鑑みて、中国語やベトナム語にも対応している。
時間と空間の壁を取り払う「VR出社」

リモートワークをさらに進め、オフィスそのものをVR化する企業も現れている。AI翻訳を手がけるロゼッタは、2020年10月より本社機能をVR空間に移転。バーチャルデスクトップアプリ「vSpatial」を社員個人の執務室に、バーチャルコラボレーションプラットフォーム「Spatial」をミーティングに使用。自社技術を用い、言語と国境の壁を超えるオフィスを目指すという。
このバーチャルオフィスはコニカミノルタも採用している。こちらはクラウドオフィス「RISA」に社員が出社。アバターを介して会話できるなど、リモートワークで起こりがちな孤独感の払拭(ふっしょく)に一役買っている。
こうしてXR技術の導入例やメリットを見ると、活用の幅広さが改めて分かる。分野を問わず導入の余地があり、活用次第でビジネスをより発展できる技術として、今後も注目したい。