【連載】
ITトレンド解説 XR(2)
XRの未来図
掲載日:2021/08/03

仮想空間を介してヒトやモノを引き合わせられるXR技術は、新型コロナウイルスの影響で難しくなった従来の対面型営業への打開策として注目を集めている。本連載の第2回では、XR技術が高まり広く一般化した未来にフォーカスし、将来的に新技術が変えるビジネススタイルの可能性を考えていく。
XR技術の現在地

XRの代表的な技術である「VR」では、ゴーグルやHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を通して立体映像を体験するシステムが主流となっている。映像が立体的に見えるのは、左右の目へ異なる映像を見せるアプローチによるものだ。
機器内のディスプレイにおいて、両目に微妙に異なる映像を流しつつユーザーの動きに合わせた映像を維持することで、より立体的に認知できる仕組みになっている。
VRを実現するうえで、HTCの最新機種「HTC VIVE Cosmos」では、画面解像度が片目あたり1,440×1,700ピクセル、リフレッシュレート90Hzのディスプレイを、Oculusの「Oculus Quest 2」では1,832×1,920ピクセル・90Hzのディスプレイを採用している。いずれも旧機種から解像度が向上し、仮想空間をよりリアルに認識できるようになった。
仮想を現実と誤認するラインとは

ハードウェアのスペックが上がるほどに、体験できる映像は現実に近づいていくわけだが、人間の目のスペックにも限界はある。一説によると8K(7,680×4,320ピクセル)が人間の識別できる画素数の限界(視覚距離にもよる)で、VR HMDの場合、片目あたりの解像度が8Kに達したとき、人間は仮想空間と現実空間をほとんど区別できなくなるのだという。
つまり、VRの技術がそのレベルに到達したとき、人間は仮想空間を「別の現実」として認識する。世界旅行も宇宙遊泳も、異世界転生すら現実として体験できるのだ。いささか空想的ではあるが、決して絵空事ではない。
Appleは2018年に、片目8KのVR/AR両用デバイス「T288」(コードネーム)を開発中と報じられている。また、Oculusの親会社に当たるFacebookも、2016年に片目8K映像の撮影が可能な360度カメラ「Surround 360」を発表。いずれも完成には至っていないが、先端企業が現実同然の仮想世界を実現し得る技術を推進しているのは事実で、その結実もそう遠い未来ではないだろう。
VRがビジネスシーンを一変

現状のVRはエンターテインメント分野での活用が目立ちがちだが、片目8Kの領域まで達したとき、ビジネス全般のありようを一変させるポテンシャルを秘めている。例えば、コロナ禍のリモートワークで活躍したビデオチャットが、VR版に発展したとしたらどうなるか。
従来は伝えきれなかった微妙な表情や素振り、息づかいまで伝えられるため、実際に対面したときと同様、相手に寄り添った意見交換ができるだろう。バーチャル背景もさらにリアルとなり、環境を変えてリラックスしたり緊張感を高めたり、柔軟な思考を喚起する可能性にも期待できる。
人間が距離や時間の制約から解放されれば、コミュニケーションの機会は増加し、従来では考えられないような遠距離でのコラボレーションも実現できるかもしれない。もちろん移動にかかるコストも大幅に低減できるため、リソースの有効活用も可能だろう。
XRを身近にするメガネ型デバイスの可能性

AppleはT288がうわさされる一方で、レンズ部がそのままディスプレイとして機能するメガネ型デバイス「Apple glass」を開発中と目されている。こちらは具体的な機能こそ明かされていないが、VRおよびARに対応とされており、視界にフロート表示されたWebブラウザやニュースなどのアプリをジェスチャーで操作したり、目の前の風景にナビ情報を表示したりといった使い方が予測されている。
必要に応じてVRディスプレイを通してビデオ通話をしたり、ワイプ表示された相手先と相談しながら手元の作業を進めたりと、柔軟な使い方ができるとも想像される。頭部の半分を覆うHMDよりもはるかに装着しやすく、屋外でも軽量に取り回せると考えれば、こちらもまたXRを身近なものとし、新たなコミュニケーション形態を実現し得る技術と言えるだろう。