ブロードバンドが急速に普及している。しかし、あるプロバイダーからの情報によれば、その利用は夜間に集中していて、昼間はがらがらに空いているのだという。 夜しかインターネットにつながない。それは、おそらく日本の一般的なインターネット利用の現状だ。 そしてブロードバンドを取り巻く情報も、その多くがコンシューマという見えない大衆を追っていて、実際のビジネスに結びつく提案が少ない。そんな中にあって、最近とても興味深い事例を取材した。 今月は、そんなブロードバンドの勝ち組について考えてみよう。 ブロードバンドはTVに勝てるのか? ブロードバンドの成功事例に触れる前に、現在のブロードバンドを取り巻く大きな疑問について分析してみよう。おそらく、多くの読者はブロードバンドといえば、放送に匹敵するほどの動画や音楽が楽しめるようになる、というCMや広告をどこかで目にした経験があるのではないだろうか。ブロードバンドのメリットや優位性を伝えるために、ある時期かなり多くの広告が投入され、その多くがTVを超えるかのように語られていた。 確かに、ブロードバンドは将来的にはTVを超えるメディアになると思う。しかし、それは映像の質や量が優劣をつけるものとはならない。インターネットを大きなコンピュータだと考え、その情報処理と伝達能力を活用した配信モデルを提供しなければ、結果としてブロードバンドによる映像配信はTVに勝てないだろう。 むしろ現在のブロードバンドを考えるときにもっとも重要な要素は、「常時接続の安さ」にある。それまで高い従量課金に泣かされていた一般ユーザーが、ブロードバンドによって常時接続が固定料金で使えるようになった。その結果として、インターネットのコンテンツを閲覧する価値観が変わってきた。いままでは、少しでもページの表示が遅いとすぐに他のサイトに移ってしまったり、夜11時以降というテレホーダイ時間にアクセスが集中するなど、日本ならではの傾向が見られた。そして多くの生活者たちに「インターネットは夜に見るもの」という意識や生活習慣が定着していた。 しかし、ブロードバンドでいつでも課金を気にしないでインターネットが使えるようになれば、その利用スタイルは一変する。おそらく、パソコンをいつでもスタンバイの状態にしておいて、テレビの電源を入れるような気軽さでお気に入りのサイトにアクセスするようになるだろう。そうなれば、もはやテレビを見ているよりもニッチでコアな情報が手に入るようになる。それはテレビや新聞などでは実現できない、新しい情報伝達の経路になる。もちろん、すでにこうした情報はインターネットの中に溢れているが、そこにたどり着けるユーザーが少なかったのだ。そして、一般市場での変化はこれから時間をかけて起こるもので、短期的にはわからないものだ。むしろブロードバンドの普及では、ビジネスにおける変化の波の方が早いかもしれない。 ブロードバンドVPN ブロードバンドによる大きなビジネスの成功。それは、VPNに勝ち組みの法則がある。フレームリレー網を中心にセキュアな広域ネットワークを構築していた企業の多くが、今後はブロードバンドVPNに向かって急速にシフトしていくだろう。そして、このブロードバンドVPNによるシステム提案をするSIer(システム・インテグレーター)やソリューションベンダーにも、大きなビジネスのチャンスがある。 雑誌などでも紹介されている三菱電機ビジネスシステムでは、社内のフレームリレー網をIP-VPNとADSLを利用したブロードバンドVPN網に入れ替えた(下図参照)。その結果としてネットワークの回線コストが減少し、通信速度が飛躍的に向上した。その結果、いままではバッチ処理で転送していた業務用のデータが、高速で短時間にやり取りできるようになった。もちろん支店間でのインターネット利用が高速化され、イントラネット用に開発した業務用システムも広域で利用できるようになった。通信コストの削減は、広域でサービスを展開するあらゆる企業に対して大きなソリューションとなる。そのシステムを構築し提案できる企業は、インテグレーターとしての勝ち組みになる大きな可能性を秘めている。その鍵を握る技術が、ブロードバンドVPNといえるだろう。 企業系ネットワークのブロードバンド化 なぜブロードバンドVPNなのか。VPNであれば、すでにISDNやIP-VPN網があるだろう、と思う読者も多いはずだ。確かにインターネットを積極的かつ先進的に利用している企業の多くは、早くからIP-VPN網を利用したり、ISDNによるインターネットVPNを活用していた。だが、これらのVPN網ではコストと速度の面で大きなボトルネックがあった。基本的にはフレームリレーとあまり大差のない通信速度による広域通信網であるため、オフコンや大型機で構築したシステムをわざわざIP-VPN網に合わせてリストラクチャリングするまでの要求には至らなかったのだ。 ところがブロードバンドVPNでは、その価値観が一変する。1.5Mbpsや8Mbpsという速度は、条件が良ければイントラネットで社内のWEBサーバにアクセスしているような操作感を実現する。ある試算によれば、そのパフォーマンスは速度でフレームリレーの10倍、コストで3/4になるという。これだけ圧倒的なコストパフォーマンスを見せられては、もはやオフコンでフレームリレーというシステムは、勝てなくなる。 鍵を握るブロードバンドVPN ところで、ブロードバンドVPNを利用するにあたってひとつだけ注目しておきたい技術がある。VPNルータの選択だ。 VPNルータは国内でも数多く製品が出ているが、1.5Mbpsや8Mbpsという速度に対応できるVPNルータは意外と少ない。なぜならVPNで利用するセキュリティや暗号化の処理が通信速度に影響を与えるからだ。おそらく、30万円以下のVPNルータで満足な速度を実現する製品はまだ少ない。筆者の取材経験によれば、古河電工のFITELNET F40がブロードバンドの要件を満たす速度を実現している。反対に、ISDN時代の低価格なVPNルータは128Kbpsのパフォーマンスを出すのがやっとであり、ブロードバンドVPNを提案するときにVPNルータの選択を間違えると大きな失敗になるので、注意が必要だろう。 ブロードバンドVPNのシステムモデル ブロードバンドVPNによる企業の広域ネットワーク網が構築できるようになると、システムモデルはかなりシンプルなものになる。通信速度が高速になることから、すべての情報資源を中央に集中できるようになるのだ。フレームリレー網の時代にはデータの転送速度に制限があったことから、本社だけではなくそれぞれの拠点に高性能なオフコンやシステムを導入し、夜間などにバッチ処理でデータを転送していることが多かった。 しかし、ブロードバンドVPNになれば、すべてのシステム資源を中央に集中し、支店や営業所はWEBブラウザでアクセスすればよくなる。つまり、数年前から米国でシステムモデルの主流となっているWEB型三階層システムの構築が可能になる。これは、新しいシステム提案のビジネスチャンスをもたらす。ブロードバンドVPNによるシステムモデルは、まさにこれからの時代を担う新しい勝ち組みを創造する基盤となる。 高速で低価格な通信インフラとなるブロードバンドだが、それにVPNを組み合わせることによってはじめて、企業が求めるコストパフォーマンスに優れたセキュアな広域通信網を構築できるのだ。そして、ブロードバンドVPNによる高速通信インフラは、新しいシステムモデルを実現し、WEB技術を利用したアプリケーションの可能性を切り開くものになる。 IP電話の可能性 ブロードバンドで注目されているサービスには、IP電話もある。IP電話は、その品質も向上し近い将来には電話番号も正式に認可され、FAXなどの受信も可能になるといわれている。そのため、個人の家庭だけではなく企業での利用が加速される可能性は高い。 IP電話そのものはまだ普及の途中にあり、NTTをはじめとしてキャリア企業各社やプロバイダーなどが宣伝を繰り広げている。そのため、IP電話の勝ち組みと思える企業や事例はまだ登場してきてはいないが、ブロードバンド化を推進する上でかなり重要な要素になることは確かだ。 新生銀行に見る次世代のシステムモデル ブロードバンドによる勝ち組みの姿を考えるときに、新生銀行の情報システムはとても参考になるモデルだ。旧長銀から再出発した新生銀行では、シティバンクの情報システムを構築したエンジニアを採用し、システムを刷新した。新しくなったシステムでは、すべての情報をIPネットワークに乗せるモデルとなっている。 旧長銀時代には、本支店を結ぶネットワークに6種類の通信回線が使われていたという。それは、ATM、WEB、音声通話、監視映像、基幹系、情報系だった。新システムでは、これらをすべて1本のIPネットワークに統合した。その結果、通信インフラにかかるコストは激減した。特に、音声通話とATMなどの監視映像をIPネットワーク網に統合したことは大きなコスト削減につながった。 この新生銀行のシステムモデルは、まさにブロードバンドVPNによる新しいシステム構築の雛型となるものだ。 今後に向けて ブロードバンドの波は、確実に企業にも浸透する。しかし、単に回線が高速になるだけでは、新しいビジネスの機会は生まれない。ブロードバンドを大きなビジネスにするためには、WEB型三階層モデルやイントラネットを活用したアプリケーションを提案することが何よりも有効だ。フレームリレーがブロードバンドVPNになることによって、WEBアプリケーションが現実的なソリューションとして、さまざまな企業に提案できる基盤を作る。この分野はさらに進化が進み、より高速で安定した回線が提供されるようになる。 その時代の波に乗り、新しいシステム提案をセールスできる企業が、これからの勝ち組みとなるだろう。