IT関連の記事を読むと、ERPやSCMにCRM、SFAなどの三文字用語が紙面を踊っていることが多い。 経営戦略に基づく情報戦略を実現するために、そうした高度なシステムを構築することも、確かにIT導入の効果としては期待できる。しかし、それよりも今、改めてグループウェアというものに注目してみてはどうだろうか。おそらく、ExchangeやLotus Notesといった製品には、いまさら目新しさや注目すべき新機能はないのかもしれない。だが、だからこそあえて、まだグループウェアを経験したことがない顧客にその効果を訴えることも、新しい勝ち組みを作る秘訣といえるだろう。 WordやExcelよりも効果は絶大 ある専門商社のシステム導入の事例を取材したときだった。その会社のシステム担当者は、グループウェアが社内に大きなIT革命をもたらした事実を語ってくれた。 「WordやExcelの講習会を開いても、結局は使う人しか使わないから、全員にパソコンを普及させても効果がなかったんです。ところが、グループウェアだと全員が毎日使うようになったので、パソコンの利用が促進されました」 いまや、パソコンの利用=Word、Excelと思われがちだ。しかし会社によっては、誰もがパソコンを使って文書を書いたり計算をしているわけではない。また、老舗企業ほど上司や役員はパソコンを使わずに部下や秘書に頼んでしまうことが多い。そのため、いくらWordやExcelの使い方を教えても、パソコンの習得にはつながらないというのだ。それに対して、グループウェアならば毎日のようにパソコンに向かい合って、実際に操作するようになるという。 これまた、先の商社の事例だが、ここでは試験的に三つある営業部の二つにだけ、グループウェアを導入した。そして、社長の机にもパソコンを置いて営業部のスケジュールが確認できるようにしたという。そうしたら、「何でA君の予定はわかるのに、B君の予定が調べられないんだ」という質問が出たという。そこで情報システムの担当者は、次のように答えた。 「それは、全員にパソコンが行き渡っていないからです」 これで、この会社では全社的なパソコンの導入と、本格的なグループウェアの利用が決定したという。 パソコンも英会話のようなもの この会社の例だけではなく、パソコンをどうしたら社員に使ってもらえるのか、苦労している経営者や管理者は多いのではないだろうか。パソコンの技能の修得は、ある意味で語学の勉強に似ている。短期間の特訓や付け焼刃の知識では、パソコンを本当に使うことは難しい。むしろ、仕事を通して継続的に利用し、毎日の習慣の中で、気が付いたら使えるようになっていた、ということが多い。 もちろん、キーボードの操作や日本語入力など、練習が必要な基本的技能もある。しかし、グループウェアのような日常的に仕事で使うソフトを用意することは、何よりもパソコンを使う環境を促進し、日常会話のような感覚でマウスやキーボードを操作できるようになる。そして、グループウェアの操作に慣れてくれば、いまの日本で本当に求められているIT革命が社内に起きると思えるのだ。それこそが真のITによる勝ち組みを生み出す基盤となる。 建設会社とグループウェア グループウェアを導入したことで、いままでのビジネスが大きく変わった例は多い。おそらく、現在のIT産業に関わる会社の多くはすでに何らかのグループウェアを導入しているのが当たり前だろう。しかし、IT業界の常識とは反対に、オールドエコノミーと呼ばれる旧来型の産業界では、いまだに紙や声によるコミュニケーションが一般的だ。さすがに、電子メールだけはインターネットの普及にともなって、かなり一般にも浸透してきたが、グループウェアとなるとその知名度や認知度は低い。 これも、ある地方の建設会社の事例だが、Webブラウザだけで入力や閲覧の操作ができるグループウェアを導入し、社長が率先して使うようになったところ、60才を超えた社員もちゃんと日報代わりの電子メールを発信するようになったという。また、グループウェアによるコミュニケーションは、社員の飲み会の回数も増やしたという。いままでは離れた現場で作業する者が多かったため、なかなか個人個人の予定を調整するのが難しかったという。しかし、掲示板やスケジュール表などを共有することによって個人の出張や帰社予定がわかるようになり、誘える回数が増えたのだという。 飲み会が増えただけでは成果があったようには思われないかもしれないが、現場で仕事をする者たちが集まる場と時間を増やすことは、コミュニケーションの面で重要な情報交換を促進する。とかくグループウェアの効果というと、離れた場所にいる者同士がパソコンとネットワークだけで業務を効率化できるようになる、と訴えられがちだが、現実の成果は違うところにある。グループウェアによって、いままで以上に人と人の和が広がり、それぞれが顔を合わせ時間を共有することに大きな意味と価値が生み出される。こうした効果を訴えることによって、いままでグループウェアを利用できなかった会社にも、ITによる新しい成功をもたらす機会を与えられるのだ。 グループウェアで成功するということ グループウェアを導入することでどんな成功が得られるのか。IT業界で働く者にとっては「いまさら何を」と思われるかもしれない。しかし、この業界での常識が世間の企業にそのまま通用することは少ない。むしろ、電子メールしか使ったことがない人の方が多いのではないだろうか。 グループウェアを導入する最大の意味は、「共有」することの重要さと価値を社員全員が理解することにある。日本人がもともと得意としているチームワークや協調性を重視したビジネスを、より円滑に効率よく推進する原動力として、グループウェアは機能する。特にスケジュールの共有や電子ホワイトボードのような機能は、効果絶大だ。全社員に一括して情報を伝えられ、互いのスケジュールを調整しながら効率よく会議や客先訪問などの予定を組めるようになれば、ビジネスのスピードが加速する。それこそが、まさにIT革命による企業の俊敏性を実現する。 効果を活かすために努力すべきこと グループウェアの導入は、単にシステムを構築するだけでは意味がない。仮に提案する企業に専任のシステム管理者がいない場合には、ASPによるサービスを利用するなど、利用する仕組みそ のものを考える必要がある。