インターネットの普及によって、パソコンの画面の中にカラフルな写真やイラストが映し出されることが当たり前になった。また、インクジェットプリンタが広く行き渡り、年賀状や手紙などもカラフルになってきた。いまやパソコンとその周辺機器に「色」があるのは当然のこととなり、これからはその「色の違い」がビジネスの勝敗を左右する大きな力となりつつある。今回は“色”で勝つためのITにおける最新事例を探ってみた。 カラーレーザープリンタの進化 ここ1、2年の間に、カラーレーザープリンタは価格・画質・速度という三つの点で大きな進化を遂げた。 まず、価格に関しては一昔前のモノクロレーザープリンタ並みに安くなってきた。もちろん、いまではモノクロレーザープリンタもかなり安くなっているが、昔からパソコンを使っているユーザーからすれば、最新のカラーレーザープリンタはかなりの割安感があるはずだ。 次に画質だが、カラーの再現性という点において、各社ともに性能が上がっている。特に、カラーマッチングやドライバの色補正機能が改善されたことによって、普通紙でもそれなりに綺麗なカラー印刷ができるようになってきた。 そして速度の面では、4サイクルやタンデム機の改良が進んで、1分間に30枚以上の印刷が可能になってきた。こうした基本的なコストパフォーマンスの向上に加えて、ネットワーク対応が充実し、紙のハンドリングも多彩になってきた。まさに、2003年はカラーレーザープリンタの当たり年となる機運がある。 色使いがビジネスを左右する カラーレーザープリンタがコストパフォーマンスを向上させ、普及に勢いがついている背景には、大きく二つの理由がある。一つは、ハードウェアそのものの進化だ。日本のレーザープリンタ技術は世界でも群を抜くもので、その上に激しい競争がある。そのため、短期間に技術が急速に進化する。デジカメ同様にカラーレーザープリンタ市場も、日本企業のもっとも得意とする分野なのだ。 もう一つの理由は、カラーで成功しているビジネスが登場している点にある。今回の連載でも、カラーによるビジネスの成功が大きなテーマとなる。単にカラーレーザープリンタの性能を列記するだけならば、わざわざ紙面を割く必要はない。むしろ、これだけ進化しているハードウェアがまだ十分に活用されていない理由や、反対に成功を収めている事例を探ることで、新しいITのビジネスが見えてくるのだ。 そうしたビジネスという視点でカラーレーザープリンタを考えると、大きな可能性にあふれていることに気づく。もっとも単純なビジネスモデルは、「印刷」の置き換えだ。現在のカラーレーザープリンタは、1枚あたりの印刷コストが約8〜18円くらいの単価になるので、その枚数を試算すると少量の印刷物であればカラーレーザーで出力したほうが安くつく。この他にも、頻繁に数字の変わる店頭の価格表やメニューに、自動車や住宅などの見積書や販売カタログなど、カラーで印刷することで付加価値の上がる情報は多い。また、不思議なことにインクジェットで印刷したカラー出力と比べて、トナーを定着させたカラー印刷の方が高級だと感じる傾向がある。そのため、同じプレゼンテーションの資料でも、カラーレーザーで出力したほうが好感度を上げられる。つまり、おしなべて「攻めのドキュメント」においては、カラーレーザープリンタでの出力が威力を発揮するのだ。 色とITの深い関係 ITと色が密接な関係を持つようになったのは、1995年のWindows 95が起点と考えられる。それ以前にも、カラープリンタは存在していたが、ワープロソフトや表計算ソフトなどはモノクロが一般的だった。しかし、Windows 95の普及とインターネットの爆発的なブームが、PC画面上でカラーを目にすることを当たり前にした。もともと、日本ではカラフルさが好まれる傾向が強かったため、個人用のプリンタはインクジェットを中心に急速に普及した。それに加えて、デジタルカメラの普及やプレゼンテーションの活性化によって、カラー化の波は一気に押し寄せてきた。 そうした背景もあって、カラー出力をサポートするカラーレーザープリンタに対する潜在的な需要は広がっていった。しかし、現実には業界が期待しているほどにカラーレーザープリンタの売り上げ比率は伸びていない。それはなぜだろうか。 その理由としては、経済的な状況が大きく影響していると考えられるが、なによりも「カラーで攻めのビジネスをする」という意欲や熱意が冷えていることに問題があると思う。確かに、モノクロに対して印刷コストのかかるカラーレーザープリンタは、無計画に導入してしまうとランニングコストが膨大になる。カラー複合機などでランニングコストの高さを経験している管理者や経営者にとっては、カラーというだけで高いものという先入観を抱いてしまうだろう。 だが、コスト面での節約ばかりを考えていると、それよりも大切な社員の士気を落とすことになりかねない。カラー出力を早く快適に使えるようになれば、自ずと自分で作るドキュメントには色を使いたくなる。普段は数字だけしか出さない見積書に、なんとなく色をつけてみたりデジカメの画像を入れようと試みたりするかもしれない。そのときに、顧客に納品する商品の色や体裁がわかるようなデジカメの画像があるだけでも、見積書としてのサービスレベルは向上する。また、社内の会議でも配布する資料に色があれば、そのプレゼンテーション力に大きな差が出る。もし、色分けされて視認性のいい会議資料の効果で議事進行が30分でも短縮されれば、それだけで貴重な人件費の節約になるかもしれない。こうした「攻め」の観点からカラードキュメントの有用性を再発掘することが、営業や企画を中心とした業務の革新につながると考えられるのだ。 ITで色を活用することがビジネスを成功に導く おそらく、単に色のついた文書を作るだけならば、そんなに「IT、IT」と大げさに騒ぐことはない。ことによると、モノクロの印刷にラインマーカーを引いた方がインパクトのある文書になることもある。そのため、カラードキュメントによる成功を実現するためには、もっと本格的なITによる色の活用を指向しなければならない。その一つのキーワードが、オンデマンド・プリンティングだ。これは、「逐次印刷」という意味合いの言葉で、データベースに蓄積されたドキュメントをベースとして「必要なときに必要な量だけ」出力して利用できる印刷環境の実現を目指すもの。特にマニュアルや技術資料などの分野で威力を発揮する印刷ソリューションといえる。 少し変わったオンデマンド・プリンティングの成功事例では、あるスーパーマーケット・チェーンでの店頭POPがある。その日の朝や夕方に変更される特売商品のPOPなどを本社とネットワークされたカラーレーザープリンタによって出力することで、正確な価格表示とリアルタイムでの訂正が可能になる。もちろん、あらかじめプロがデザインしたテンプレートに、本部から送られてきた価格データが差し込み印刷されるので、手書きのPOPよりも綺麗で目立つカラードキュメントを作ることができるのだ。 もっと身近な活用例では、あらかじめプロのデザイナーにワープロソフト用のテンプレートをデザインしてもらい、社内のレターヘッドなどの印刷と保管コストを削減することもできる。また、全社的にカラーレーザープリンタを導入しても、権限のある人だけにカラー印刷をさせるようなプリンタドライバやネットワーク・プリンタ管理ツールを活用すれば、ランニングコストも正確に管理できる。こうしたITを組み合わせることによって、カラーレーザープリンタを活用したカラー印刷には大きな付加価値がつく。