少し前までEIPという言葉がブームになっていたが、このところあまり取り上げられない。導入を検討してみたものの、意外と成功事例が少ないことから頓挫してしまったり、導入前に解決しなければならない問題が多すぎるなど、ITの理想と現実を突きつけられて困っている会社も多いのではないだろうか。EIPを取り巻く夢と現実のギャップは、ある意味で企業の情報システムに対して大きな課題を問いかけているともいえる。反対に、この課題に取り組み、システムを変革できる会社は、新しい成功の鍵を手に入れられるのかもしれない。? ポータルの区分 一口にEIPといっても、その基本となるポータルには大きく分けて4つの区分がある。インフォメーションポータル、ナレッジポータル、アプリケーションポータル、そしてワークスペースポータルの4つだ。 インフォメーションポータルは、いうなれば社内掲示板のようなもの。総務や人事に財務など、社内の各部門からの通達や伝達事項が定期的に掲示されて、全社的に案内するために使われる。 ナレッジポータルは、単なる通達だけではなく、社内の各部署や部門で蓄積された情報の検索や交換するなど、知的な生産業務に活用される情報の出入り口になる。 アプリケーションポータルは、出張申請や交通費の精算から、稟議書の提出や伝票の入力に在庫の照会など、業務に関連したデータ処理を中心に入出力を行うコンソール的な存在だ。 そしてワークスペースポータルは、ナレッジや情報にアプリケーション利用から個人のスケジュールに至るまで、さまざまな業務の要素が統合化された仕事のためのデスクトップとなる。 以上これら4つの用途は、導入のしやすさという点で見ていくと、インフォメーションポータルが最初で、第二段階でナレッジかアプリケーションへと発展し、最終的にはワークスペースへと進化する。そしてこのワークスペースポータルが、本当にその会社で働く人たちの情報力を支えるようになれば、それが理想のEIPとなり、勝ち組企業の原動力となるのである。 現実の課題 理想のEIPを構築して勝ち組になる。それは経営者の求める願いだが、成功例はまだまだ少なく、むしろ頓挫する例が多いのが現実だ。なぜ頓挫してしまうのか。その理由はいろいろとあるのだが、ポータルソフトそのものの技術的な部分が問題となることは意外と少ない。むしろ理由の多くは、ポータルソフトに情報やアプリケーションを提供する他のソフトやシステムにある。なぜなら、ポータルソフト自体にはそれほど機能がないからだ。 もともとポータルソフトの基本的な役割は、インターネットやイントラネットの情報をフレームなどで区切って表示する機能と、統合的なログインやサイトへのアクセス制御などにある。したがって、ポータルソフトで表示する画面を構成する情報やアプリケーションは、別に用意しておく必要がある。例えば、経営者が自分のパソコンの電源を入れたときに、昨日までの売上データをポータル画面で一覧するためには、ポータルソフトにそのデータを提供するためのシステムが必要なのだ。このシステムの部分を無視してポータルソフトだけを導入しても、経営者の求める情報は表示できない。 同様に、ナレッジポータルを実現するためにも、ナレッジを蓄積して分類/検索し、配信するためのアプリケーションが必要になる。さらに、ワークスペースに至っては、スケジュール管理やメールにコミュニケーションなどのバックオフィスとの連携が重要になってくる。 メーカーの提案する解決策 このような問題を解決するためには、はじめにしっかりした青写真を描いておく必要がある。例えば、ある理想のポータル画面を考えてみよう。その会社では社内の誰かがログインしたときに、その人に必要な情報やメッセージが的確に届けられる。その主な要素は、以下のような項目に集約されるのではないだろうか。 ・その人の行動予定 ・仕掛かり中の仕事の一覧 ・メールの着信情報 ・全社通達や部門内での情報 ・得意先または関連部署の情報 ・仕事に関連したニュースや株価など こうした基本的な情報に加えて、経営者であれば経営の情報が、営業担当者であればセールス関連の情報が、管理部門であれば社内の必要な情報など、個々に違う情報が求められる。誰がどんな情報を使っているかを判断し、その人に合った情報をバックヤードから集めてきて一覧させる。いうなれば、その人に専用の秘書がいるようなイメージに近いのかもしれない。 この希望をかなえるため、ポータルソフトだけでは不可能だとわかっているメーカーでは、ポータルソフトと他のソフトを組み合わせる形での解決策を提案している。例えば、マイクロソフトのShare Point Portal Serverでは、ポータル機能とドキュメント管理を中心としたナレッジマネジメント機能を備え、Exchange Serverと連携してグループウェア的な機能と画面を提供する。ログインに関してはWindows 2000 ServerのActive Directoryを利用して、利用者に合わせた画面を用意する。マイクロソフトの提供するOSやソフトにすべて包み込まれていさえすれば、一つの完成されたワークスペースを実現してくれるのだ。ただし、ネットワーク内に異なるOSやメッセージ系のアプリケーションが混在すると、完全な統合は難しくなる。 一方、IBMのポータルソフトは、WebSphere Portalになる。WebSphereは、IBMのミドルウェア製品全般につけられているブランド名だが、その中でポータル機能を提供するツールがWebSphere Portalだ。このポータルソフトは、独自のログイン認証を提供しているので、特定のOSやウェブサーバやアプリケーションなどに依存せずにポータルを実現できる。グループウェアにはNotes/Dominoも利用できるが、その他のシステムを組み合わせることもできる。この他にも、コンピュータ・アソシエイツのClever PathやPlumtree Softwareのように、ニュートラルな立場でウェブ情報の統合とログイン管理を行うポータル製品もある。 それに対して、同じIBMのNotes/ Dominoは、グループウェアであると同時にポータル機能も提供できる。もともと、Notesの機能をウェブ展開することを目的として開発されたDominoなので、ウェブとの親和性は高い。ワークスペースポータルという用途の多くが、グループウェア活用にあるとすれば、とりあえずDominoで構築しておいて、後から必要な情報の統合をしていく、というアプローチもあるだろう。また、マイクロソフトのGroup Boardは、Exchange ServerのDomino版のような仕組みといえる。クライアントにいちいちOutlookをセットアップしないで、Outlook Web Accessよりも多機能なグループウェア環境をウェブベースで提供する。ただし、エンジンにはWindows 2000 ServerとExchange Serverが必須となる。両社のほかにも、ウェブベースのグループウェアであれば、はじめからワークスペースポータルにしておいて、あとから情報を付け足していくことも可能だ。 1対nとn対1 ポータルの導入を成功させて、社内の情報と意思の疎通を円滑にするためには、1対nとn対1という二つの情報伝達の道筋を作り出さなければならない。 まず、1対nは経営者や管理者などから、スタッフに指示や命令を伝達する情報の流れになる。一人のキーマンが持つ情報を伝達するという意味では、管理者だけに限らず、優れたセールスマンの販売ノウハウを共有するとか、外部からの重要なニュースソースを関係するスタッフが閲覧するなど、文書回覧や館内放送よりも確実で効率のいい情報の流れを構築する。もちろん、この1対nを成功させるためには、ポータルを構築するだけではなく、社員が毎朝必ずその画面を見るようなルールや習慣作りが重要になる。この部分は、なかなかテクノロジーだけでは解決できない。大切なことは、社員が見る気になる、見る必要に迫られる情報をポータルに載せることにある。 もう一方の流れであるn対1は、社内のさまざまな部署で日常的に発生する情報が、プロジェクトの推進や経営の判断を行う個人に対して、的確かつ即時に伝えられる道筋となる。会社の財務情報をはじめ、現場で起きている出来事や経過の報告など、さまざまな情報がパイロットのコックピットのように、ポータルの画面に集められる。それは、経営者の理想であり夢でもある。そしてその夢をかなえることが、経営におけるIT活用の真髄ともいえるのだ。 何からはじめたらいいのか? それでは、実際にポータルを導入するためには、どこから手をつけたらいいのだろうか。すでにポータルの導入で成功している企業は、何が決め手となったのだろうか。その一つの手がかりは、「すべてをウェブへ」というキーワードにある。 クライアント/サーバ時代のシステムや考え方をすべて捨てて、クライアント側にインストールする特定のアプリケーションに依存せず、必要なことができる環境を構築することがポータル成功の第一歩となるのだ。例えば、メールの閲覧にウェブブラウザを使ったり、ウェブ対応のグループウェアに切り替える。旧式のWindowsアプリケーションは、メタフレームを使ってサーバベース・コンピューティングにしてしまい、ウェブブラウザから利用できるようにする。さらに、以前からあるホストコンピュータやオフコンは、ミドルウェアを組み合わせてデータの照会や入出力をウェブ対応にする。もちろん、全社的なネットワークもTCP/IPベースにし、ブロードバンドとVPNを組み合わせたり、広域LAN接続などを利用して、集中化されたサーバにストレスなくアクセスできるようにする。こうした複数の条件をクリアすることによって、企業の求める真のポータルを構築する基盤が整備される。ここまで情報システムの改革を推進できれば、あとは必要な人たちに必要な情報が行き届くようにすればいい。それは同時に、情報にアクセスする権限や範囲を決めることにつながるので、社内の情報セキュリティも強化できるようになる。 PCの普及とネットワークの利便性は、いま多くの企業に「埋もれたデータ」という問題を突きつけている。過去に作成した文書やスライドを再利用して、新しい資料や提案を作成できることは、ITを活用する大きなメリットのひとつだ。しかし現実には、日々増大していくデータのために、探すだけで時間を浪費したり、結局探し出せずに同じような文書を一から作っていたりする。そうした無駄を省き、過去の優れた知的資産を活用するためにも、ポータルの導入は大きな効果が期待できる。ポータルを導入し、その理想に少しでも近づくワークスペースを作り出すことが、企業の情報力と組織力を強化する大きな手段といえるだろう。