インターネットを使って利益を出す。そのためにあるいくつかの方法の中で、直接の物販に結びつく電子商取引(EC:エレクトロニック・コマース)やオークションは、そのビジネスモデルが明確でわかりやすい。一時期の仮想店舗賞賛の時代は終わり、今はバーチャルとリアルの組み合わせが最適だと言われているが、果たして本当にそうなのだろうか。むしろ、ネットバブルの頃のECサイトは、インターネットの真の価値や意義を見出せないままに、ユーザから取り残されてしまったのではないだろうか。その意味について、とあるデータ検索システムのテクノロジーから考えてみよう。 儲かるECサイトの秘訣はどこにあるのか 以前に、この連載でHMVジャパンのECサイトを取り上げたことがある。同サイトでは、ジャンルごとに専門のスタッフがいて、最新のCDやお勧めの一枚などを丁寧に紹介していた。そうした努力と、HMVというブランド力が合致して、国内でも有数のECサイトとして売り上げを伸ばしていた。その一方で、ECサイトは立ち上げてみたものの、なかなか予想していたような売り上げに到達していない企業も多い。その理由の中には、ECサイトそのものの認知が低かったり、商品の紹介が不十分だったり、価格や商品が魅力的ではないなど、さまざまな要因が考えられる。儲かるECサイトでは、利用者が求める品物が妥当な価格で手軽に買えるかどうかが、何よりも重要だ。それに加えて、サイトからの情報発信によって、利用者の潜在的な購買意欲を刺激できるかどうかも大きな鍵を握る。amazon.comのレコメンデーション機能は有名だが、そうした機械的な部分だけではない「接客」と同等の情報サービスが求められている。 しかし、一方でそれだけの手間をかけても、採算が取れるのかどうかがわからないと、なかなか会社として取り組めないことも確かだ。ECサイトで販売する商品に余程の特殊性や優位性がなければ、すぐに同様の商品を安く売っているECサイトに顧客を奪われてしまう。あるいは、決済にかかる手数料や送料を計算すると、近くの店で買った方が安い、ということにもなりかねない。それだけに、いまや単にECサイトを立ち上げるだけでは、収益よりも出費の方が多くなりかねない。 儲からないからECサイトを出さない方がいいのか、それとも儲かるECサイトを育てていくのか。それはかなり高度な経営判断になる。また、ECサイトそのものを自社でホスティングするのか、xSP型のサービスに委託するのかも迷う選択だ。ECサイトを自社で運営すれば、自由なサイトのデザインと柔軟かつ多様な検索キーを設定できる。自社のURLをそれほど積極的にPRする予算がなければ、とにかく頼りになるのは検索サイトでのヒット率になるからだ。その意味では、「サーチされる力」が問われている。 大なり小なり、人は購買という行為を楽しみたいと思っている。そして、何らかの商品やサービスを求めたいと考えている。そうした期待に対して、きちんと商品が検索エンジンにヒットしてくれるかどうかは、かなり重要な要素になる。また、検索エンジンがキーワードをヒットしたときに、その前後の関連する文章が、どれだけ手短に端的に商品の特徴を現しているかということや、利用者の購買意欲を刺激する内容になっているかなどが、そのリンクをクリックしてくれるかどうかを左右する。こうした地味だが基本的な情報発信をきちんとしているか否かが、ECサイトの売り上げに大きな影響を与えている。 さらに、日本では携帯電話によるアクセスも大きな市場になっているだけに、サイトのデザインにもさらなる工夫が求められる。購買にまで結びつかなくても、新製品の案内やサイトへの誘導などに利用できるかどうかは、集客数に大きく関わってくる。 これら一連の設計や運用をしっかりやろうとすれば、やはり片手間では対応できない。また、一つのコンテンツをウェブブラウザの種類に合わせて自動的に変換したり、用途別に保存できるようなツールの活用も必要になる。さらに、ECサイトそのものにもシステムとしての工夫が求められる。例えば独自のポイント制や会員管理などのシステムだ。加えて、顧客情報を管理するとなれば、そのデータベース管理だけでなく、個人情報保護といった観点からのセキュリティや情報漏えい対策も求められてくる。今後は、そうした基本的なシステムとしてのインフラをしっかりと構築しているECサイトが、円滑で安全な運用を推進できるだろう。 一方で、こうしたことを自社ですべて賄うのは不可能と判断して、集合店舗型のECサイトに出展したり、決済や顧客管理だけをASP型のサービスと連携したり、ホスティングそのものをアウトソーシングする例も多い。そうした選択は、自社のコアビジネスに集中するという意味においては、かなり賢い選択といえるだろう。ITシステムの運用や保守にかかるコストと人的な資産を削減して、「店舗」としての「接客」に専念することは、ECサイトの成功にとって重要なポイントだ。 しかし、委託型のECサイトを運営するときの注意点は、先に触れた「サーチされる力」への配慮にある。例えば、販売したい商品が委託先サイトのデータベースに格納されている場合、通常の検索エンジンではヒットしない可能性が高い。また、サーチされたとしても、検索結果の一部からは商品の特徴や魅力などがわからないことも多い。 もちろん、自社でECサイトを運営している場合には、掲載商品が的確に検索できるシステムの提供が重要になる。商品点数が多くなれば、それだけ目的の商品に出会う確率は低くなる。それを補うためには、自社サイトの「サーチされる力」を高める必要がある。しかし、現実にはそこに大きな壁がある。その壁について解説する前に、ECサイトの強力なライバルともいえるオークション系サイトについて考えてみよう。 成功しているオークション系サイトの特長 日本のオークションのサイトにはかなりの明暗がある。米国をはじめ海外で成功しているeBay.comは、日本での事業を撤退してしまった。変わって日本では、ヤフーオークションが会員数や取引数の面で優勢だ。これは、ヤフーのブランド力やサイトの認知度を活かし、会員数を獲得したことが大きな理由といえるだろう。オークション系のサイトでは、出品者も購買者も数の多さが重要になる。品揃えも購買量も、参加者の数によって賑いと成約率が比例してくるからだ。 また、オークション系サイトでは、出展された物品を静的なページとして掲載しているケースが多く、検索エンジンでヒットすることが多い。そのため、ECサイトではみつけられない物品をオークション系サイトで発見する例も多々ある。 ECとオークション。どちらもサイトにアクセスする人たちが、何らかの物品などを購入するという目的は同じだ。しかし、二つのサイトには、大きな違いが一つある。それは、売るべき商品を出す側の違いだ。通常のECサイトでは、そのサイトを運営または利用している商店や企業ごとに、特定の方向性がある。それに対してオークションでは、何が出てくるかわからない。もちろん、ある程度の分類はあるとしても、すべての物品がその枠に収まるとは限らない。それでも、出品する側は少しでも多くの利用者に探し出してもらいたいと願って、さまざまな検索キーを設定する。ここでもやはり「サーチされる力」を意識した出品者の意欲が感じられる。 しかし、オークション系サイトの検索も万能ではない。そこにはやはり、テクノロジーの限界による壁が立ちはだかっている。それは、データを探し出すデータベース管理システムの問題にある。 RDBの限界 一般的に、何らかの情報を蓄積して利用するためには、データベースが利用される。そして、数あるデータベースの中でも、データを表のイメージで管理するリレーショナル型データベース管理システム(いわゆるRDBMS:以下RDB)が使われることが多い。著名なOracleやDB2をはじめとして、Microsoft SQL ServerやオープンソースのMy SQLにPostgreSQLなど、多くのデータ管理システムがRDBというアーキテクチャを採用している。そして、多くのECサイトやオークション系サイトでは、実用十分な検索能力を発揮しているように思われる。 しかし、果たして本当にそうなのだろうか。もしも、もっとデータベースの検索機能が優れていたら、見落とされていた商品を利用者が探し出せるのではないだろうか。 その可能性を考えるために、RDBの技術的な限界を考えてみよう。インデックスの問題だ。 RDBのインデックスは、検索を効率よく高速にするために用意される特別な管理ファイルだ。ある検索要求に対して、いちいちデータベース本体を探していては、時間がかかるという理由から、あらかじめ検索される頻度の高いフィールドのデータだけを別ファイルとして管理し、検索要求に対して短時間での解決を試みる。そして、多くのECサイトやオークション系サイトで設定されている商品分類やキーワードなどが、このインデックスとして管理されている。 ところが、RDBにとって検索効率を向上させるインデックスには、大きな欠点がある。それは、インデックスを増やしすぎると検索性能が落ちるという点だ。また、フィールドの設計などを変更すると、インデックスの再編成や再構築が必要になる。そのため、一度運営を開始したサイトでは、余程のことがない限り、データベースの設計変更や更新は行わない。しかし、それが反対にそのサイトの「サーチされる力」を低下させ、競争力を失うことにもなる。 XML型データベースファイルの夢と現実 RDBの限界を突破するために、いまいくつかの新しいデータベース技術が登場している。それは、決して新参者というわけではなく、10年から20年以上の実績のある技術だ。しかし、これまであまり日の目を見なかったのは、今ほどインターネットが普及して問題が表面化するまでは、誰もRDBの限界に注目しなかったためだ。 この半年で、筆者が取材などを通して知った画期的なデータベース技術が二つある。富士通の「Interstage Shunsaku Data Manager」と、インターシステムズジャパンの「Cache(キャシェ)」だ。富士通の製品は、XML型データベースファイルを活用したデータ管理システムで、RDBでは困難な多重階層型のデータ管理を実現する。例えば、一件の伝票をデータ化しようとするときに、XMLのタグを使って1対nのデータ保存を可能にする。一方の「Cache」は、全世界88カ国で10万システム以上の導入実績を持つポストリレーショナル・データベースといわれ、オブジェクト型のデータ管理を実現している。 これらの新技術に共通した特徴は、RDBの欠点の克服にある。表の形式で制約の多いデータベースに対して、柔軟性と高速さによる革新を目指している。「サーチされる力」や「探す力」が、ITにおける新たな勝ち組を生み出す今、改めて自社システムやサービスにおいて、そのインフラとなるデータベースについて再考してみるべきではないだろうか。