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2004年5月時点の情報を掲載しています。
日本の電子産業が徐々に回復基調に転じてきたようだ。社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)の佐々木元会長(=NEC会長)は、3月の定例会見で、「90年代のバブル崩壊、それに続くITバブルの崩壊で厳しい環境にあった電子産業は、いよいよ上昇機運にある」と宣言。「2004年の電子産業の市場規模は20兆円を突破するのは確実だ」と、強気の見通しを示した。
ここ数年、20兆円を割り込んでいた電子産業は、2003年実績では前年比6.6%増とプラス成長にはなったものの、やはり19兆2961億円と20兆円を突破できないままでいた。
だが、昨年12月時点に同協会が予測した2003年見込みが、前年比5.8%増の19兆823億円としていたことに比べると、最終実績はそれを遙かに上回るものとなっており、業界関係者の予測を越える形で市況が回復していることがわかる。佐々木元会長が、強気の発言をするのも当然といえるだろう。
さらに、2004年を見ると、需要を後押しする要因がいくつか見られる。一つが、今年夏に開催されるアテネオリンピックだ。4年に1度のオリンピックは、電機業界に特需を生むのはこれまでの経緯からも明らか。特に今年の場合は、地上デジタル放送の開始や、薄型テレビ、DVDレコーダーなどの注目されるデジタル家電が目白押しとなっている。このため、オリンピック需要によって、これらの機器の販売の伸びが期待される状況にある。
実際、すでにデジタル家電の需要は驚くべき成長を遂げている。JEITAの調べによると、2003年実績では、デジタル家電機器が含まれる「映像機器」は、前年比22%増。また、高機能カメラ搭載をはじめ大幅な進化を遂げている携帯電話を含む「無線通信機器」は前年比25.3%増と大幅な伸びを見せている。
また、商戦期であった昨年12月単月の民生用機器の生産実績は前年同期比28.4%増。そのうち「映像機器」は前年同期比41.6%という高い伸びになっている。加えて、地上デジタル放送の受像器は、今年2月末までに60万7,000台を出荷しており、「極めて順調な滑り出しを見せている」(佐々木会長)と、その出足を高く評価している。こうした動きを捉えて、業界筋では、デジタル家電の勢いはしばらく持続するに留まらず、さらに需要が加速すると見ているのだ。
二つめには、これらの需要増に伴って期待される半導体消費の増加だ。デジタル家電の心臓部には、いまやPC並の高集積回路が使用されている。システムLSIの技術もデジタル家電の重要な構成要素だ。デジタル家電の需要増に伴って、半導体需要も同時に拡大するのは明白である。
そして、三つめには、世界的な景気回復基調による需要拡大だ。なかでも、中国市場における旺盛な消費意欲の高まりは、国内の電子産業においても、大きな期待を寄せているファクターの一つだといえる。
では、電子産業においてアキレス腱はないのだろうか。この点に関しては、佐々木会長は次のように指摘する。「懸念材料をあげるとすれば、部品の供給不足やそれに伴う部材価格の上昇だろう。また、物流における船舶の絶対数の不足など、電子産業固有の問題以外の要素を念頭に置く必要があるだろう」このコメントからもわかるように、電子産業の成長そのものには疑いがないとの姿勢を見せているのだ。
しかし、電子産業のなかでは大きな変化が訪れているのは事実だ。それは「主役の交代」という言葉で示すことができるかもしれない。90年代、電子産業の成長の原動力となったのは明らかにPCであった。だが、今回の佐々木会長のコメントからもわかるように、今後の成長エンジンは、PCからデジタル家電に主役が移ると位置づけているのだ。
佐々木会長は、今後の電子産業の成長について、「確かに、PCもそれなりの市場規模はある」と前置きしながらもこう話す。「デジタル家電という新たな商品が市場の回復を牽引している。中国などの東アジア地区の購買が上昇していることで、デジタル家電やそれに利用される半導体の需要も旺盛だ。今後の電子産業の成長を支える重要なジャンルはデジタル家電であり、この構図は当分続くだろう」。
市場拡大の牽引役は、PCからデジタル家電に移行している。佐々木会長のコメントは、PC市場が、今後は、これまでのような大きな成長が見込めないと、業界団体が認定したことともいえる。
だが、日本の産業構造全体を考えるならば、米国企業が主導権を握っていたPCから、日本の企業が主導権を握ろうとしているデジタル家電の台頭は、歓迎すべきものだともいえる。そのなかで、日本の企業はどう復活するのか。PC市場の行方とは別に、日本の企業の強みが発揮できる環境へ移行してきたことは喜ばしいことだとはいえそうだ。
大河原 克行
1965年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、'01年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。現在、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊アスキー(アスキー)などで連載および定期記事を執筆中。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社刊)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社刊)など。
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