新聞やテレビなどの報道によれば、日本の経済にも景気回復の兆しがあるという。確かに、1,000万円を越える高級車が売れていたり、100万円を越える豪華な海外旅行に申し込みが集まるなど、いわゆる「景気のいい話」が目に付くようになってきた。IT業界でも、かつての過剰な情報投資による在庫の調整が終わり、堅実かつ定期的な投資が戻りつつある感もある。しかし、そうした継続的に利用されるITとは別に、経営や事業に貢献するIT投資があってこそ、IT業界における真の好況がある。それが今回のテーマである全体最適化と営業支援につながるITのあり方なのだ。 全体最適化の基本は営業貢献 全体最適化というキーワードが、経営課題として考えられるようになって久しい。IT関連の事例やソリューションを取材していても、その背後には必ずといっていいほど「経営課題」が横たわっている。そしてその課題の多くが、経営資源をいかに効率よく活用するか、社内のさまざまなリソースを最適に配分し、組織全体としての理想的なバランスを取るかにある。情報の個人への集中化や、スキルを持っている人材の偏りがあればあるほど、経営という観点から組織や事業を見ると、計画通りに物事が進まなくなるのだ。 そうした管理的な面とは別に、全体最適化には個人の経営参画意識や、ビジネスモラルを高めようとする目的もある。それがITソリューションで使われることの多いキーワードの「コストセンターからプロフィットセンターへ」なのだ。人事部門や総務部門、購買や管理など、社内で直接的な利益に結びつく仕事をしているのではなく、バックオフィスとしてビジネスを支えている部門は、これまで「合理化」のみを目的としたIT導入が推進されてきた。間違った誤解によるリストラの蔓延といえるものだ。 しかし、真にITを業務の全体最適化に役立てている企業では、そうしたコストセンターという意識を脱却して、組織やビジネスに貢献する生産性の高い仕事をしているというモラルがある。例えば、人事部門にしても、単なる社員の給与や在籍管理を行うだけではなく、その能力や人的な資産価値をデータベース化して、経営者や管理者に役立つ人材リソース情報センターとなり、経営に貢献できる部門へと発展できる。つまり、バックオフィスとして後方支援を行っていた部門が、その業務を「サービス」という意識に切り替えて、経営に貢献する仕事をしているとなれば、利益や経費に対する考え方も変わってくるのだ。それこそが、営業支援や営業貢献という考え方であり、社員がすべて経営するという意識を持つことによって、組織の新しい行動スタイルが生み出されていく。 サービスと営業に貢献するITとは 管理や総務など社内のサービス部門が、販売や製造などの直接的な売上に結びつく業務をサポートするためには、次のものが必要だ。つまり、これまでの書類や内線電話による伝達手段から、ITを活用した連絡網への切り替えと、全社的に利用できる業務サービスを実現するソリューションだ。例えば、総務部門がITで業務に貢献するためには、社内の各種申請や業務通達に関するやり取りを電子化し、各部門に対してサービスとして提供する必要がある。そして、そのサービスを構築するためにかけた予算を明確にすると同時に、そのサービスがどれだけビジネスや業務効率の改善に貢献しているかを数量化して評価しなければならない。その結果として、総務部門という部署が会社の経営に対してどのくらい貢献しているのかが明確になる。 これまでも、会社における総務部門のようなバックオフィスの存在は、必要不可欠だった。しかし、これからはその必要性を明確に数字で表し、その部門に働く人たちにも、経営への参画意識を高める必要がある。すでに、ITの活用で成功している企業の総務部門や情報システム部門には、そうした意識や意欲がある。また、小さな組織では、電子メールやインターネットにグループウェアや情報共有など、コミュニケーションのために必要となるITインフラを構築する部門が、総務部に任されている例も多い。幸いにも、総務部門にITがわかる人材がいれば、導入や運用も円滑に推進されていくのだろうが、もしも人材に恵まれなければ外部のスタッフやベンダーに依頼することになる。そうなると、より明確に投資したコストは数値化されるのだが、反対にかけたコストがいかに社内の業務改善に貢献しているのかまでは、数値化できない。その結果、経営者から見れば、ITにお金を投入していても、見返りがないと思われてしまうのだ。 ITの効果を数値化するための取り組み それでは、実際にどのようすれば社内に対するITサービスを数値化できるのだろうか。その具体的な取り組みは、すでに海外のシステムベンダーを中心にはじまっている。例えば、コンピュータ・アソシエイツ株式会社の「iCan Meter」というコンポーネントは、全ドメイン中の使用量、パフォーマンスデータを収集し、アクティビティレポートを作成できる。そして、同じく「iCan Bill」というコンポーネントを利用すれば、リアルタイムで利用量や処理されたイベントに基づいた請求も算出できる。それは、ITサービスが電気やガスのような使われ方をする時代を見越したミドルウェアといえるだろう。 「iCan Meter」や「iCan Bill」ほど大規模なものではなくても、システム管理ツールを利用することも重要だ。ツールを使って、サービスを提供する部門が保有しているITリソースが、どの部門にどのくらい使われているのか、負荷を発生させている処理や窓口はどこにあるのか、といった現状の分析を行うだけでも、ITの効果を数値化する上においては重要な取り組みとなる。 目標は収益に貢献するITの実現 ECサイトやSFA、CRMなどを除けば、企業で導入するITの多くが「投資という名の出費」を求めてくるコストだと捉えられることが多い。そうした理由から、多くのシステムベンダーはTCOの削減というセールス文句を連呼している。しかし、どんなITであっても、その使い方次第では、いくらでも収益に貢献できる仕組みと成り得るのだ。商品を売る最前線は営業部門であっても、その活動を影で支えている部門やスタッフがいるからこそ、円滑なセールスが可能になる。それは舞台のようなもの。スポットライトを浴びる人たちは、そのライトを当てるスタッフや、音楽を奏でたり幕を引くスタッフがいるからこそ、その舞台で引き立ち、収益が得られる。同じようにビジネスにおいても、それぞれの部門やスタッフの連携があってはじめて、真の収益性が高いビジネスが実現する。そして、そのビジネスという舞台装置において、ITの占める役割は以前よりも大きくなっている。もはや、電話や電気と同じくらいに、ITがなければビジネスは動かなくなりつつある。そうしたITの重要性と、合理化だけではない価値や導入意義を理解して実践できる経営者がいる会社が、日本でも増えてきているために、ここ数カ月で話題になる「好況感」があるのかもしれない。