Linuxが深く静かに日本の企業にも浸透し始めている。その中心は、エンタープライズ・コンピューティング環境であるため、日常的にWindows系クライアントを利用している人たちには、なかなか知られていないのだが、2002年の調査資料でも、Linuxを1台以上は導入している企業が、64.3%にも達しているというものもある。そして、2003年にカーネル2.6が登場したことによって、エンタープライズでの利用が加速してきたのだ。 第三段階に入ったLinux市場 Linuxという名前は以前から目にしていても、実際に使った経験のあるPCユーザーはまだ少ない。Windowsと比較すると、どうしても専門性が高く趣味性も強く感じられてしまうからだろう。確かに、1999年に登場したLinuxは、マスコミに取り上げられるほど話題にはなったものの、エッジ分野や研究目的での利用が多かった。それでも、手元にあるPCでUNIXが使えるというだけでも、理工系PCユーザーにとっては、好奇心を刺激する出来事だったのだ。その上、インターネットの急速な普及と相まって、商用ベースのOSよりも、早いコード修正や情報公開、新規開発やサポートなどが自主的かつ積極的に進められている。気がつけば世界規模でのコミュニティが誕生し、海外のサイトだけではなく、国内のサイトにも多くの情報が溢れるようになった。 そして、21世紀を迎える頃になって、Linuxは第二段階へと成長した。ディストリビュータが成長し、安定したバージョンを提供できるようになってきたことに加え、IBMをはじめとする大手ベンダーによる本格的なサポートのビジネスへの採用が加速していった。この頃から、既存の商用UNIXに対する、コストパフォーマンスの優位性が注目されるようになり、特にWeb関連のベンチャー企業のシステム構築において、積極的に採用されるようになった。また、商用OSよりもオープンソースの方が、バグやパッチ情報が豊富で、むしろ信頼できるという評価を出すシステムインテグレータも増えてきて、本格的なミドルウェアやソリューションへのポーティングがはじまってきた。 こうした大きな成長機運に乗る中で、カーネル2.6の登場によって、Linuxの本格的なエンタープライズ対応が加速されてきたのだ。現実に、第二段階まではWebやサーバなどの用途が主体だったLinux導入だが、2002年の後半からは、アプリケーションサーバやデータベースサーバ用途の需要が急成長を続けている。事実、大手のベンダー製品だけでも、IBMのWebSphereにOracleの9iASやWebLogicなど、Linux対応の優れたアプリケーション・サーバが取り揃っている。もちろん、Oracle 10gやDB2などもLinux対応であり、さらにオープンソースのデータベースやアプリケーションサーバも利用できる。つまり、Linuxを取り巻く市場の成長と変化は、その利用者に対して、これまで以上にオープンな選択肢を取り揃えているのだ。 Linux採用の利点はどこにある Linux成長の背景には、商用UNIX市場の衰退がある。オープンソースを採用する最大のコストメリットは、ライセンス料の低減にある。これまでの商用UNIXでは、サーバの規模や利用者数などを元に、ライセンス料を徴収してきた。しかし、オープンソースではライセンスによるビジネスモデルを成立することが難しい。つまり、利用者にとっては、ライセンス料そのものを支払わなくてもいいケースが出てくるのである。それこそ、すべてのコードをインターネットからダウンロードして、自分でサーバを構築してしまえば、ほとんどコストはかからない。 しかし反対に、すべてを自己責任で賄わなければならないとなると、企業での採用は躊躇される。そこで、ITベンダーやディストリビュータでは、サービス&サポートによる収益構造を作り出した。また、IBMやOracleのように、OSの部分で収益が減少しても、ミドルウェアやデータベースサーバの部分で、しっかりとした収益が確保できるビジネスを確立するケースも出てきた。こうしたサービスやサポートの環境が整ってきたことによって、Linuxを基幹系に採用する企業も登場してきたのだ。 しかし、単にLinuxを採用したからといって、それでコストが軽減され、企業の競争力が強化される、というわけではない。Linuxを採用して勝ち組になるためには、オープンソースの持つ利点と、サービス&サポート型ビジネスモデルの優位性を活かしたIT戦略が不可欠なのだ。まず、オープンソースの利点とは、主導権の獲得にある。これまで、OSの改版やサポート期限などは、すべて開発元に主導権を握られていた。多くのソフトベンダーは、ソフトウェアの改版によって大きな収益を得られたので、2〜3年ごとにOSの改版を行ってきた。そして、過去のバージョンは置き去りにされ、利用者は好むと好まざるとに関わらず、改版に従ってきた。しかし、オープンソースでは自らがサポートできる限り、同じバージョンを5年でも10年でも使い続けることができる。事実、UNIXというOSの仕組みそのものは、もう20年以上も変わってはいない。これだけ安定したプラットフォームは、他にはないのだ。 サービス&サポート型ビジネスモデルへの移行は、企業規模に関わりなく、最適なITソリューションを導入できる可能性を広げる。Linuxベースに構築するWebアプリケーションの構造は、エンタープライズ規模から中堅・中小規模の企業まで、利用するサーバの性能に差こそあれ、基本的な仕組みは変わらない。 いうなれば、大型トラックを買って荷物を運ぶか、軽トラで賄うかというような違いでしかない。したがって、どんな規模の企業でも、企業規模に合わせたサービス&サポートが用意されることによって、平等なIT導入が実現し、経営戦略のための最適なITソリューションを導入できるようになるのである。 もちろん、こうした理想が形になるためには、Linuxをベースとしたソリューションが、ASP型のサービスとして提供されたり、ミドルウェアやアプリケーションがパッケージ化されて、容易に導入できるようになる必要もある。それでも、LinuxというオープンなOSには、これまで不可能だったことを可能にする力が秘められているのだ。 Linuxはデスクトップの夢を見るのか これまで、商用UNIXを使った経験のあるエンジニアであれば、ほんの数日あるいは数時間のトレーニングでLinuxは使いこなせるようになる。なぜなら、Linuxが商用UNIXと違う点は、オープンソースであることと、対応するCPUの柔軟性に尽きるからだ。カーネル2.6になり、エンタープライズ規模のサポートなど、テクノロジー面での進化も遂げているが、コマンドラインから入力する命令のほとんどは伝統的なUNIXそのもので、シェルやスクリプトなども同じだ。 一方、一般的なPCユーザーの関心は、GUI環境とアプリケーションにあるだろう。Windowsクライアントを置き換えられるまでに、GUIの操作性や対応するアプリケーションが充実するのかどうかが、今後のLinux市場を左右すると見ている。 しかし、現実のLinuxはサーバ用途とインターネット対応の組み込み機器に浸透し活躍している。その事実を認識しておかなければ、今後さらに加速するオープンソース時代に対して、勝ち組となるIT戦略を的確に立案できなくなるのだ。