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2005年1月時点の情報を掲載しています。
米IBMが、中国最大のパソコンメーカー聯想(Lenovo)に、パソコン事業を売却するというニュースは、2004年末のパソコン業界を激震させるものとなった。
売却に関する詳細な内容については、日刊紙をはじめ各誌で詳しく報道されていることから、ここでは詳しくは触れないが、聯想がIBMブランドのパソコンを今後5年間に渡って継続的に製造すること、米IBMが聯想の株式の18.9%を所持し、聯想が生産したパソコンを引き続き販売していくことなどが盛り込まれており、単なる事業売却とは異なる契約内容となっている点が特筆される。
来日した米IBMパーソナルシステムズグループ バイスプレジデントのピーター.D.ホテンシャスは、「グローバルなパートナーシップを組むこと、排他的な契約を結んでいること、5年間のロゴ使用など、非常に高いレベルでコミットをしていることの表れ」と語るが、その点でも単なる売却とは異なる点が明白だ。
ところで気になるのは、ThinkPadの研究開発拠点となっている大和事業所の今後の行方だ。
日本IBMによると、大和事業所のパソコン担当の社員らは、聯想が設立するパソコン新会社へとそのまま移行することになるが、引き続きThinkPadの開発に携わることには変わりがないという。
ThinkPad生みの親でもあるIBMフェローの内藤 在正バイスプレジデントは、「これまでは、IBMの枠というなかでの製品開発だったものが、それを超えた開発ができるようになり、技術者の能力をさらに発揮できる場が提供されることになる」と語る。内藤氏は、「大和事業所の技術者は、IBMのパソコンを作りたいのではない。ThinkPadを作りたいと思っている」と言い切るが、そうであれば、まさに今回の事業売却は、大和事業所の技術者にとってプラスになるという言い方ができるのだろう。
一方、今回のIBMのパソコン事業売却で、業界の注目を集めていることがある。それは、今後、IBMのようにパソコン事業から撤退するメーカーが相次ぐのか、という点である。IBMの売却発表を前に、調査会社の米ガートナーは、2007年までに、世界上位10社のパソコンメーカーのうち、3社が撤退するだろうとの予測を発表。IBMの発表で、これが俄然、現実味を帯びてきたことも、話題を助長することにつながっている。上位10社とは、デル、ヒューレット・パッカード、IBMのトップ3のほかに、国産メーカーでは、富士通、東芝、NEC。そのほか、台湾のエイサー、中国の聯想、米国のアップルコンピュータ、ゲートウェイが入っており、いずれも著名なメーカーばかりだ。もちろん、これまでにも、ゲートウェイによるイーマシーンズの買収、マイクロンの撤退などパソコンメーカーを巡る撤退の動きはあったが、この動きがさらに加速するというのがガートナー側の見解なのだ。
IBMのパソコン事業売却に伴って、国産パソコンメーカー各社の首脳にも、撤退の可能性についての質問が相次いだ。年末年始という公式行事が多い時期ということもあり、各社首脳がマスコミに追いまくられる場が多く、紙面を各社首脳のコメントが飾る要因ともなった。筆者も直接コメントを求めたが、国産パソコンメーカー最大手である富士通の代表取締役社長 黒川 博昭氏は、「パソコン事業は、きちっと育てていかなくてはならない事業。引き下がってはいけないと考えている」と話し、事業を担当する取締役専務 伊東 千秋氏も、「パソコン事業は富士通のものづくりの強さを示す指標。製造を含め、今後も事業を継続する」と断言する。また、東芝の取締役 代表執行役社長 岡村 正氏も、「パソコン事業は、前年度の大幅赤字から確実に黒字化へと転換しはじめている。売却の意志はない」と言い切る。さらに、NECの代表取締役社長 金杉 明信氏も、「パソコン事業はノンコア事業だ」としながらも、「利益目標に対して、着実に成果をあげつつある。BIGLOBEとの連動を考えれば、パソコン事業が持つ意味は大きい」と異口同音に売却の意志がないことを示す。
とはいえ、各社のパソコン事業売却の目が完全になくなったとは言い難いのも事実だろう。経営者のパソコン事業の収益性を見る目は厳しく、同事業を手放しで評価しているメーカーはないからだ。パソコン事業のさらなる体質強化が実現されない限り、売却の可能性は捨てきれないといっていいのではないだろうか。
大河原 克行
1965年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、'01年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。現在、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊アスキー(アスキー)などで連載および定期記事を執筆中。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社刊)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社刊)など。
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