総務省による平成15年版の情報通信白書「企業経営におけるIT活用調査」の中に、IT投資効果とIT導入実態とIT活用環境整備という3つの視点から、ITケイパビリティ(活用度)についてまとめた資料がある。従業員300人以上の企業を対象としてアンケートを行い、日本の1,257社と米国の592社から得られた回答を元に、集計された資料だ。この調査結果から、日本のIT活用がどのように行われているのか。その課題が浮き彫りになっている。 IT投資効果の実感が薄い日本企業 まずは、右下のIT投資効果に対するユーザーの実感についてまとめた数字を見てもらいたい。グラフで見ると一目瞭然だと思うが、IT投資に対する効果を実感しているユーザーが多い米国に対して、日本ではその度合いが少ない。この結果について、ある専門家の分析によれば、3つの原因があるという。1つは、不十分な検証。2つ目が、使いこなしに偏りがあること。そして3つ目が、業務間連携の不足だ。さらに、これら3つの問題に共通している点は、導入したITを十分に使いこなしていない現状があるのではないかという。また、導入したITに対する効果測定も不十分だという指摘もある。ブロードバンドも普及し、IT関連にかかるコストの面では、米国に次ぐ2位の市場規模を持っていながら、なぜ日米で使いこなしに差があるのか。逆に考えれば、この使いこなしという部分の差を埋めることができれば、日本企業のIT活用には、まだまだポテンシャルがあるということになる。 IT投資に対する日米の違い 先の「企業経営におけるIT活用調査」では、もうひとつ興味深いアンケートを実施している。それは、IT活用の狙いに関するアンケート調査だ。グラフからもわかるように、日本では「コスト削減・業務効率化」において効果があると評価している企業数の多さに対して、米国では「売上拡大・高付加価値化」の面においても大きな効果を出している。特に、顧客満足度の向上や製品・サービスの品質向上と高付加価値化においては、日本よりも圧倒的な効果があると回答した企業が多い。この違いはどこにあるのだろうか。 まず考えられるのは、日本のIT投資が「守り」を優先していることだろう。管理会計や販売・在庫管理など、どちらかといえば後方支援業務におけるIT投資が中心だ。それに対して、米国では顧客管理やサービスなどの業務にも積極的にIT投資を実践している。ここ数年の流行で考えるならば、CRMやSFAに各種のWebサービスやBtoBにB2Cなど、ITを活用したセールスアップや業務プロセスの革新に取り組んできた成果が、IT投資に対する評価として現れているのだろう。 もちろん、日本でもそうした取り組みは積極的に行われているのだが、それが具体的な成果や効果として認識されていない面は大きい。さらにもうひとつ、日米のIT投資に対する効果の違いには大きな差がある。それが、ITケイパビリティ(ITを使いこなす組織的能力)だ。 箱を作って魂は後回しになる 日本のIT導入が米国よりも効果が出ないのはなぜか、そのひとつの課題がITの活用度にある。いまや、オープンシステムの普及によって、ハードウェアや関連機器の日米における価格差はほとんどないといえる。また、利用しているソフトウェアやミドルウェア、システムインテグレーションにおいても、日本が米国に劣っているとは思われない。むしろ、先進的な事例や取り組みも多い。 しかし、そうしたシステムのインテグレーションは、いわばITという「箱」を取り揃えるまでの取り組みに過ぎない。導入の段階では、業務プロセスやビジネス課題を分析し、コンサルティングによる設計や指針が示され、その後、実際の導入と構築がはじまるのだが、そこまではコストや手間をかけても、現実の運用段階になって失速してしまうケースは多い。 特に、米国の強みとなっている「売上拡大・高付加価値化」に貢献するITの多くは、システムの優秀さや性能の高さによるものではなく、システムそのものを使いこなす人材にかかっている面が大きい。eサービスなどを利用して、ある程度のサービスは自動化できるものの、実際には現場の業務と結びつき連携を高めていくITでなければ、成果は発揮できない。しかし、多くのIT投資では、その日常的な運用や継続的な人材教育などに対して、十分な予算が回されていないのだ。その結果、投資はしたものの効果が得られないという現実がある。 解決の鍵は継続的な人材教育 結局のところ、IT投資の効果を発揮するためには、その「箱」を使いこなせる人材の育成が不可欠となっている。昔は、現場からの反対が多くて、なかなか利用者の納得するシステムを開発できない、という悩みも多かった。しかし、現在のようにスピードと軽快さが求められるビジネスでは、それまで行われてきた業務の無駄なプロセスや因習に縛られたITシステムの構築は、大きなデメリットとなる。反対に、ベストプラクティスと呼ばれているITシステムを導入し、その業務プロセスに人材を適応させていくことが、IT活用の最短距離なのだ。 もちろん、時間もお金もあれば、現場のリクエストも取り入れて、なおかつ過去の無駄や無理を省き、さらに業績の向上やサービスの高付加価値化を実現できるITシステムの開発も不可能ではない。だが、多くの企業は限られた予算と時間の中で、ITにおける投資効果をもっと得たいと期待している。その要求に応えるためには、無形の財産である個人のITスキルを高めることが、何よりも効果的なのだ。 では、実際にどのようにしてITスキルを高めたらいいのだろうか。その答えのひとつは「慣れ」しかない。コンピュータの操作というのは、ある種の「言語」や「楽器」に似ている。いきなり使って、誰もがすぐにできるわけではない。地味だが丹念な練習を日々繰り返すことによって、あるとき急に成果を実感できる。そのため、継続的な利用と慣れが操作スキルの向上においては重要になる。その上でさらに、自分の行っている操作が、どのような結果や情報の伝達をもたらすのか、それを個人がイメージできるようになると、かなりのレベルアップとなる。文書を作ったり、表で計算をしているだけではなく、接客やサービスに近いイメージで、メールやウェブを使いこなせるようになると、米国に並ぶ「売上拡大・高付加価値化」に貢献できるITケイパビリティが実現するのだ。